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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(上)

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第189話 空の玄関口50

「言っている場合かよっ!! そんな状態なら、悔しいけど。無理をしないで、安静にしていたほうがいいはずだっ!!」


 屍怪に噛まれたこと知っては、後に起こるだろう現実。低体温症に酷似する症状が現れ、治療方法なく屍の怪物と化す。

 触れるジョシュの手は冷たく、体は震えて症状は末期か。よく噛まれたことを隠して、囮作戦に望んだという他ない。


「心配してくれて、サンキュー!! だからこその、ラストミッション!!」


 ジョシュは死期を悟りながらも、作戦を遂行する姿勢を曲げない。

 屍怪に噛まれたとなれば、残された命はもう僅か。それでも覚悟を固めて、何かを成す気概のようだ。


「ジョシュ。噛まれたのはアウトレットモール。背後から屍怪に、襲われたときか?」


 フレッドが確認をするのは、噛まれた当時の状況。

 屍怪と屍怪犬に襲われ、背後を取られたとき。フレッドは当初から異変を察知し、ジョシュの異常を疑っていたらしい。


「誰の責任もない、アクシデント!! 気にする必要は、ナッシング!!」


 ジョシュは多くを語らずして、最後まで揺るがぬ姿勢だった。

 しかし気になるのは、フレッドの様子。アウトレットモールでは屍怪犬に襲われ、ジョシュが引き返し助ける展開。噛まれたのはきっと、そのとき屍怪に襲撃されたタイミングだ。


「……わかった。ジョシュの意志が尊重されるよう、最大限の協力は惜しまない」


 フレッドは強く唇を噛み締め、言葉を多く発しなかった。

 自衛隊という仲間意識は強く、武力も洗練された組織。終末の日から不測の事態は、常に当然として想定するところ。


「くっ……」


 それでもフレッドは悔しそうに、顔をとても歪めていた。誰に責任があるとか、誰が悪いとか。そういう次元の話でないことは、場にいる者を含め全員が承知している。

 あとは当事者たる本人の、意識や解釈の問題。仕方なかったとしても、探してしまう逃れる手。フレッドに後悔となる点あるようで、経験からその気持ちはよく理解できた。


「蓮夜。フレッドのことを、誤解しないでくれ。態度は決して良くなくとも、誰より仲間思いの奴なんだ」


 いつもの明るいラップ口調ではなく、悠長な日本語を話すジョシュ。

 次の作戦が決まり、全員が動き出したところ。二人きりになったタイミングで、伝えたいことがあるようだ。



 ***



「クーデターの話。蓮夜も聞いていなかったか?」

「ああ。噂ではフレッドが、計画しているって」


 ジョシュが唐突に切り出す内容は、兼ねてから言われていた問題。

 新千歳空港の長と、自警団トップを兼任する山際所長。クーデターにつきフレッドが首謀者と、常に疑いの目を向け注意をしていた。


「本当のところは、少し違うんだ」


 真剣な表情でジョシュが語るは、クーデター計画についての経緯。

 二つの組織には軋轢あり、互いを敵視し反目していた。最初に地位を築いたほうが優勢と、力を持っていたのは自警団。武力が上な自衛隊は当然に面白くあらず、隊員たちの不満は日に日に積もっていたらしい。


「だからクーデターを、計画したんじゃないのかよ?」


 立場的な不利を押し付けられれば、当然に反骨精神を宿すもの。クーデターを起こす流れも、理解できないところではない。


「フレッドを含め隊員たちも、最初はそうだった。しかしある時から、フレッドは止める立場になったんだ」


 ジョシュが伝える話は、噂と真逆に思える内容だった。


「人の数こそ、力。山際所長が言った言葉の意味を、フレッドは本当の意味で理解していたからだ」


 ジョシュは発言の真意を、汲み取っていたと解く。多くの人間が手を取り合って事を成せば、それだけ大きな結果を生み出せるというもの。

 人の数こそ力とは、協力こそが本質。フレッドはその点を十分に理解し、心境の変化があったという。


「自衛隊と自警団。小競り合いは日に日に酷くなり、どちらも疲労が溜まっているときだった」


 ジョシュが語るは新千歳空港における、両組織の日常と問題の変遷。

 自警団員と山際所長の話を、立ち聞きしたフレッドとジョシュ。そのとき耳にした会話こそ、心変わりの始まり。


「山際所長は自警団員を説得し、人の数こそ力。自衛隊も仲間であると、隊員たちを説得し諌めていたんだ」


 ジョシュが語るは争いの中でも、起きた裏側の事情。

 小さな事から揉め事に発展し、衝突も多々あったという両組織。自警団トップでも山際所長は、争いの中心におらず。融和的に協力し合える方法を、常に模索し試みていたとの話だ。


「ならなんでクーデターの話は、なくならなかったんだよ?」


 気持ちに変化あれば、行動に変化あっても不思議ない。

 クーデターの噂が消えぬは、みなが周知するところ。争いを起こすことは、融和的とは真逆だ。


「自衛隊員たちの中にも、気持ちを整理できない過激派はいる。無理に止めようとしても、ただ暴発するだけ。だからフレッドは内部にて、上手くガス抜きしつつ誘導。大きな争いが起きぬよう、制御をしていたんだ」


 ジョシュから聞くは、裏側の新たな事実。フレッドはクーデターの首謀者にあらず、ブレーキ役となり自衛隊員を御していたと言う。


「見えないところで、そんな事情があったのかよ」


 見える表面上の事柄だけで、真実はとても計れない。

 クーデターの首謀者から、ブレーキ役と影の真実。今回ジョシュに話を聞かされなければ、事実は闇に埋もれていただろう。


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