第188話 空の玄関口49
「上村隊長!!」
連絡通路を一直線に走り、国際線ターミナルへ到着。
「よく戻った。みんなはすでに一階へ行き、観光バスに乗り待機している」
待機していたのは白髪の上村隊長と、迷彩服を纏う二人の自衛隊員。
国内線ターミナルから国際線ターミナルに、流れ避難した者たちも最終段階。それでも三人は残る存在を知り、先に行かず待っていたのだ。
「なんとか順調に、避難は進んでいるみたいですね」
新千歳空港に残る者を救出するため、行われた今回の大規模な作戦。
すでに大半は新千歳空港を出発し、残すは観光バス二台分。避難についても最終局面と、全てにおいて大詰めの段階だ。
「そう言うことだ。しかし、蓮夜。気持ちはわかるとは言え、一人での独断先行はいけない」
国内線ターミナルへ向かったことにつき、上村隊長から若干のお叱りを受ける。
組織で動いる中での、独断先行という形。手を伸ばせば届く距離と、不安や焦りで流行る気持ち。全てにおいて自制が効かず、足を止めることできなかった。
「いろいろな事情を踏まえ、考え練られた計画。一人の勝手な振る舞いで、他者を危険へ晒すことになる」
「……そうですよね。すみません」
上村隊長から指摘を受けることは、最も過ぎる内容であった。
一人で勝手に動き、迷惑をかけた点。今になって理解しても、事後なれば時すでに遅し。浅はかで短絡的な行動と言われても、芯を食っては何も反論できない。
「しかしまぁ蓮夜の活躍は、サチからも聞いている」
上村隊長はトランシーバーを使用し、常にこちらの動向を把握していた。
国内線ターミナルでは避難誘導をし、侵入してきた屍怪を撃退。ブッチャーと戦い食い止めた点では、一定の評価をしてくれた。
「それでもやはり、短気は損気。頭に血が上っては、見える景色は狭まり思考も短絡化。広い視野を持ち頭の早い回転には、何より冷静さを維持することが寛容。心を熱くして、頭は冷ややかに。それが長い年月を生きた、老獪からのアドバイスだ」
上村隊長から受ける指摘は全て、異論を唱える余地はなかった。
今回の独断先行おける非は、間違いなく己一人にある。見直す点は真摯に向き合い、反省をしなければならない。
***
「なんだよ? あれ……?」
新千歳空港の国際線ターミナルを、階段を下り玄関前と外へ出た所。
ピンク色をした二台の観光バスと、遙か彼方の空で赤くぼんやり輝くもの。位置的には遠くも、花火を打ち上げた場所付近。
「照明弾が上がっているってことは、花火は終了したって合図よ」
サチが教えてくれるのは、打ち上げ花火の終わり。
避難は順調に進んで、観光バスも残るは二台。個数に制限がある中で、十分に役割を果たしてくれただろう。
「……なんだ?」
前方の道路を国際線ターミナルへ向かい、物凄い速さで迫ってくる幻影あり。
明かりに照らされ把握できるは、間違いなく自衛隊車両のジープ。ならば乗っているのは、囮作戦を実行した二人だ。
「何をやっているんだっ!? まだ避難していないのかっ!?」
「屍怪が戻ってくるのは、ハイスピード!! みんな急ぎで、エスケープ!!」
玄関前にて停車し降りてきたは、フレッドとジョシュの自衛隊員二人。打ち上げ花火の終了を確認し、避難確認と危機の知らせに戻ったとの話。
「言っても俺たちで最後だから。もうすぐに避難は終わるぜ」
避難者の大半は観光バスに乗り、すでに新千歳空港を脱出済み。現在ある二台が最終便で、真に最後の避難バスだ。
「悠長なことを言っている場合じゃないぞっ!! 花火が終わり音はなくなって、屍怪が空港へ戻ってきているんだっ!!」
余裕あるかと思っていたところに、フレッドが知らせるは事態の暗転。
打ち上げた花火に注意を引かれ、離脱していった数多の屍怪。全て終了と静寂に戻りつつあれば、元の鞘にと帰ってきているらしい。
「マジかよっ!! なら急がねぇとっ!! みんな乗って!! すぐに出発しようぜっ!!」
すでに準備はほとんど整っているため、観光バスへ乗れば話は早い。
「ダメだっ!! 逃げ道としていた方向に、屍怪が流れているっ!!」
しかし自衛隊員が赤外線スコープを使用し、避難経路を確認したところ。
観光バスを走らせる避難経路に、戻ってきた屍怪が侵入。数も多くすでに広く展開し、走行の安全を確保できないとの話だ。
「あと少しだってのに。ここまで来て、逃げられないのかよ」
すでに大半の人々が避難し、残すは現場にいる人たちのみ。
花火による陽動作戦に、フレッドたちよる囮作戦。最終段階にて打つ手を失うとは、どこまで天に見放されているのか。運命というものがあるならば、呪いたくなる気持ちであった。
「窮地の中でも、チャンス!! できることは、ダイナマイト!!」
変わらずのラップ口調で、発言をするのはジョシュ。
しかしその様子には、間違いなく異変。額には尋常ならざる汗が浮かび、顔色も悪くとても無理をして見える。
「大丈夫かよ? ジョシュ? どこか、体調が悪そうだけど」
明らかな不調が目に見えては、身を案じて行う確認。
同時にジョシュの元へ向かい、背後を取るはフレッド。首元から迷彩服を押し下げると、隠された真実が公に晒された。
「……ジョシュ。……噛まれていたのかよ?」
肩から背にかけてあるのは、未だ湿潤した生々しい傷。
皮膚が裂かれては血も流れ、くっきりとした歯形跡。それは間違いなく、屍怪に噛まれている証拠だった。
「やっぱり、隠していたか」
フレッドは心当りあったようで、発言に態度も重なり明白だ。
「バレてしまっては、バッドラック」
ジョシュは噛まれた事実を周知されても、変わらずラップ口調を崩さなかった。




