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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第一章 終わりの始まり

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第18話 変貌と確信

 こうして見ると……俺たちは、屍怪のことを全く理解していない。


 無骨に非常口前で群がり、青空駐車場で徘徊する屍怪。


 現状を見ている限りだと、考える能力は……劣ってそうだな。


 普通の人間ならば、開かぬ扉の前で立ち往生。無意味な徘徊など、しないはずだろう。


 同士討ちはしないんだな。

 ってことは、生存者と……区別しているってことか。


 肩が触れ合おうとも、屍怪同士で同士討ちはしない。

 それは何かを基準に、区別している事実。屍怪が生存者を狙っているのは、火を見るより明らかだった。


 視覚か。聴覚か。

 でも視覚があるなら、無駄な徘徊はしないよな。音だって、今は鳴ってないし。


 現状から分析してみるも、確証を持てるところあらず。推測や憶測で判断するのは、危険に思えた。


「それよりさぁ。こっちにもっと、面白そうなものがあるんだよね」


 身を反転させ、北口前を向く夕山。


「面白そうって。今の状況下で、そんなものがあるのかよ」


 疑問に思いながらも、振り向き北口前へ。

 北口前にあるのは、開放的な駅前広場。アーチ状の噴水に、タクシー乗り場。近くには駅前交番に、バスターミナルもある。


「交番の斜め前。ビルの横断幕だよ」


 夕山が示すのは、道路を一本挟んだ先。


「世界の……武器……展示会」


 ビル二階には【世界の武器展示会】と、大きな横断幕が掲げられていた。


「屍怪相手に鉄パイプだと、物足りなさを感じるんだよね。だからもっと、強力な武器が欲しいかなって」


 新たな武器を、希求する夕山。

 屍怪を相手するに、素手では厳しい。護身用に武器を求めるのは、自然の摂理であろう。


 刀を持つ、俺はともかく。みんなには、モップしかないからな。

 それじゃあ屍怪と遭遇したとき。苦戦することは必死だ。


「武器を入手するための、展示会か」

「良い機会だからね。僕はあそこに行って、武器を調達しようと思うんだ。行こうと思うなら、蓮夜も考えておいてよ。生き残るためにさ」


 真摯に生を見つめる夕山の言葉は、思いの外にも重く感じた。

 生に対する執着心。危機に対峙しての、自覚と無自覚。夕山と比較しては、足りないよう思えたからだ。



 ***



 ビルに避難してから四時間超が経過し、時刻は十七時を過ぎた。

 頭上にあった太陽も、今やビルの合間。夜の帳が下り始め、室内は夕闇に支配されつつある。


「暗くなってきましたね。今日はこの場に留まって、明日。薬を探しに行く感じでしょうか?」


 ともに畑中さんの様子を見守る、美月の問いかけ。


「そうだな。夜に動くのは危ないだろうし。朝になって屍怪がいなければ、早くから薬を探しに行こうと思う」 


 畑中さんの容態に、回復の兆しはなかった。

 それどころか、刻刻と悪化。全身をガタガタと震わせる症状を経て、会話も困難に。今では身動き一つでさえ、難しい状態になっている。


「薬を探すことが、第一ですよね。……蓮夜さんは、その先。今後について、何か決めていますか?」


 美月は先の見通しを、気にしている様子だった。


 先か。薬を探しに行くことが、目先の目標として。次に向かうべきは、彩加が通う同心北高校。

 そして岩見沢へ帰ること。……の前に、展示会へ行くのもアリだな。……でも。


「いろいろ考えては、いるけど。薬を探しに行く。今は何を置いても、それしかないかな」


 畑中さんのため。他の事は全て、後回しにすべき事項。今は何よりもまず、薬の入手が最優先だった。


「動けない畑中さんを、放っては置けませんものね」


 畑中さんを放って置けないのは、美月も同じだろう。何せ看病に一番力を入れていたのは、彼女なのだから。


「ガタガタガタガタ…………」


 ソファベッドの上で、大きく震え始める畑中さん。


「どうしたんだよっ!? 一体!?」


 突然の事に驚き問うも、畑中さんに応えはない。どうやら意識なく、体が痙攣しているようだった。


「美月! みんなを集めてくれ!」

「わかりました! すぐに戻ります!」


 急ぎ部屋を退出し、駆けていく美月。


 なんだか……嫌な予感がする。


 時間の経過とともに、畑中さんの容態は悪化。必要な治療や処置も行えず、回復の期待度は低い。


 いつまで……暴れてるんだよ。


「みなさん! こっちです!」


 美月の呼びかけに応じて、全員が集合。


 問題はこれからだ。一体どうすれば……。


 シェルター生活において、問題が発生したとき。畑中さんを中心に策を考え、着手し解決へ導いた。

 しかし今となっては、畑中さんを頼れず。考えを巡らせても、解決策は思い浮かばなかった。


「……畑中さん」


 戸惑いを隠せぬ美月に、唖然とした様子のハルノと啓太。老人は室外から顔を覗かせ、夕山は成り行きを静観している。


「ね? 僕の言った通りになったでしょ?」


 夕山が向ける視線の先には、畑中さんが立っていた。

 血の気が引いたように、青白くなった顔。定まらぬ視点。振り子のよう、揺れる体で。


 噛まれた人間は、屍怪になる。わかっていたはずだ。

 夕山が嘘をつく理由はないし。老人が隔離を求める必要もない。


 悲観的な話を直視できず、都合の良いよう考えたかった。しかし事ここにおいて、理解し確信に至る。


 そう。噛まれた人間は。畑中さんは、屍怪になったんだ。


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