第182話 空の玄関口43
「それでも、まだ避難は終わってないっ!! だから、下がれねぇしっ!! 引けねぇんだっ!!」
愛刀である黒夜刀を鞘へ納め、レバーをスライドさせ安全装置を解除。再び抜刀しては持ち手に出現したトリガーを、引いて赤く染まっていく刀身。
「焔」
他の刀とは一線を画す、高熱を帯びた黒夜刀。赤く燃え上がるよう刃は、斬るというより焼き斬る。負担を軽く攻撃力を上昇させ、稀有と比類なき力を宿す。
「焔炎舞」
舞い踊るよう滑らかな動きにて、黒夜刀を自在に操り行う技。力を最小限に高い攻撃力を振るう、焔の性能あるときのみ使用可能。踏み込みが浅くとも斬れるからこそ、軽やかかつ優雅で踊るよう滑らかに。刃が触れると屍怪の首は飛び、一体二体と次々に屠っていく。
さらには前へ出て屍怪を周囲に、体を一回転させ振るう刃。円を描き放った剣技にて、倒れる五体の屍たち。圧倒的な攻撃力を前に、なす術なく顔を地に伏せ倒れた。
「ヴガァァ!!」
それでも侵攻をやめぬ屍怪は、その歩みを止める気配ない。
顔の半分が溶けている者や、体が露骨に痩せ細っている者。倒れた屍怪を情け容赦なく踏み、一貫して侵攻を続ける姿勢だ。
「ここが踏ん張りどころだ。何を置いても、譲る気はねぇ!!」
一つ呼吸を入れては血液に酸素を、全身に巡らせ見据える敵。
連絡通路に展開する屍怪を、斬り続けてはバタバタと。地に伏す姿を尻目に、黒夜刀を振るい続けた。
「上村隊長からの連絡!! 避難は順調!! 迎撃はいいから、みんなも撤退してっ!!」
各々が奮闘を続ける中で、サチは声を上げ促す。
国際線ターミナルでの避難も、順調に進んでは大詰め。残るは観光バスが二台分と、もはや完了は時間の問題になった。
「蓮夜!! ハルノ!! 二人も退がって!!」
最前線から逃れる人たちを確認し、サチは早急な退避を求めている。
シャッター前にて奮闘していた人たちの中には、負傷者がおり手を貸さねば動けぬ者もいる。それに元いた二十名も、パッと見て半数程度か。屍怪による不意の襲撃に伴い、多数の犠牲が出たようだ。
「こんなに怪我人や、犠牲者が出たのかよ」
「でも彼らの活躍がなかったら、もっと犠牲者が出ていたはずよ」
自衛隊に自警団と両組織の背を見つめ、ハルノと一緒に退がる連絡通路。
ハルノの言うことは苦しくも、辛辣な世界での現実。亡くなった者も全て、何もかも無駄ではない。一人ひとりの活躍あったからこそ、今の時間と未来を生きているのだ。
***
「うわっ!! なんだっ!?」
連絡通路を再び逃げ始めたところで、足元に何かが転がり飛んできた。
転がってきたのは人の頭と、バラバラになった腕。振り向けば四体の屍怪が倒れており、どれも損壊が激しく肉塊となっている。
「グヴ……」
シャッターを前にした連絡通過にて、仁王立ちする大きなシルエット。
歯を強く食いしばっては、歯茎がとても上がっている。それに普通の屍怪と異なり、丸い銀製の兜を被っているようだ。
「あれが……ブッチャーよ」
ハルノが説明するのは噂に聞く、愛称を北欧の巨人とプロレスラー。身長は二メートル三十二センチで、体重は百三十五キロの巨体だと言う。
遠目に見ても、デカいな。あれで……元は人間かよ。
基本が人間かどうかも疑わしければ、存在感に威圧感も桁違いで規格外。モデル以上に脚は長く、脚周りの太さは丸太。着用する黒い短パンには十八の星があり、星数は再起不能にした人数。
上半身を裸の腹筋は、割れてシックスパック。胸板は厚く隆起し、二の腕も太く筋肉質。何もかも一サイズ大きな体は、筋肉の鎧に覆われているようだった。
「アイツが体当たりをしたんだっ!!」
一部始終を見ていた自警団員は、起きた事実の説明をする。
シャッターを破壊する際にも、何度となく繰り返された体当たり。なぜか屍怪にも行ったようで、受けた者は衝撃で飛んできたらしい。
「ヴガァァ!!」
「グヴ……」
連絡通路へ侵入する屍怪は、ブッチャーの周りをウロチョロ。
もしかしたら、その行為が引き金。鬱陶しく感じたのか、逆鱗に触れたのかもしれない。
「グヴ……」
「ガフッ!!」
ブッチャーが大きく腕を振り回すと、周囲の屍怪は一掃される。
場にいた二十体近くは吹っ飛ばされ、威力に顎から下を失う者まで。極めつけは死体に鞭と、倒れた顔を踏み潰す始末だ。




