第167話 空の玄関口28
「フレッド!!」
「わかっているっ!!」
存在を知らせるため声を上げるも、先んじて気づいていたフレッド。所持するアサルトライフルを構え、銃口はすでに屍怪犬へ向けられている。
「ガウッ!! ガウッ!!」
吠えると同時に四足を走らせ、急速に迫りくる屍怪犬。
飛び出た眼球はカメレオンのよう、相変わらず定まらぬまま。それでも進行する方向に逸れはなく、タイルの床を蹴って一直線に近まる。
「ダダダッ!! ダダダッ!!」
アサルトライフルの銃口から、連続して発射される弾丸。
何も迷いや躊躇いもなく、引き金を引いたフレッド。動く標的と外れた弾丸は、タイルの床に傷をつける。
「……」
発砲を止めると音もなく、床に倒れている屍怪犬。
動く標的であろうとも、相手は僅かに一匹。数多の弾丸を全て避けるなど、できようはずもないのだ。
「ふん。こんな醜い姿になりやがって」
横たわる屍怪犬へと近づき、フレッドは悪態をつく。
敵意を向けられたことに憤慨し、背を軽く蹴って最後の仕返し。数多の弾丸を受けたとなれば、通常時において生存の目はない。
「ガウッ!! ガッ……」
しかし感染した屍怪犬に、一般的な常識は通用しない。
弾丸を受けた体は動かぬ様子も、首だけで動こうとする屍怪犬。蹴って近づいたフレッドの足に、噛みつこうと大口を開けた。
「ドスッ!!」
抜刀していた刀身が黒き黒夜刀を、横たわる屍怪犬の頭部を狙って突き。
「気をつけろよ。普通の犬と違って、簡単に死ぬわけじゃないんだ」
感染した生物はどんなものも、簡単には死なない現実。
人間であれ犬であれ、体の大きな熊であれ。頭部を破壊せずして、動きが止まることないのだ。
***
「あったな。これが花火玉か」
舞台裏に置かれる木机上にて、カゴに入っていた目的物。
スイカほどはあろう、とても大きな花火玉。上部にある導火線へ着火すれば、空に盛大な花火が打ち上がるだろう。
「二人で全部を運ぶのは、少し大変そうだな」
カゴに入れられる花火玉は、二ケースで五玉ずつ。
一人につき一ケースなれば、合計が十玉。全て持ち帰るためには、二人の両手を使うところ。
「屍怪の相手は、オレがする。蓮夜は花火玉を、持ってくれ」
フレッドが迎撃にあたると言い、持ち帰るのは一ケースのみ。
全身を使いカゴを抱えては、意外に重く腰にズッシリ。大きな花火玉は顔の前まできて、両手は塞がり視野も狭まる。危機に対する索敵能力が落ちれば、対応する柔軟性も低下してしまうだろう。
「蓮夜。止まれ」
「……どうしたんだよ?」
フレッドは手を前に制止を促し、足を止めて状況の把握に努める。
イベントホールを去るため、間もなく出口という所。花火玉の横から見つめる先には、屍怪と思わしき徘徊者たち。
「……出口は他にもあるよな?」
「場所がわからない。これ以上に時間を費やすのは、……手間もあってナンセンスだ」
イベントホールの構造を熟知していなければ、最短ルートとフレッドは戦う覚悟を固める。
花火玉の入ったカゴを近くのテーブルに置き、所持する黒夜刀を抜刀して戦闘に備え。フレッドはアサルトライフルを構え、正面からは二十体以上の屍怪が迫る。
「殲滅するぞっ!!」
「おうっ!!」
開戦の掛け声を上げるフレッドと、応じて前方へ駆ける展開になった。
「ダダダッ!! ダダダッ!!」
連続する発砲音に引き寄せられ、中央広場の左方へ流れる屍怪。フレッドは後退しつつも、迎撃して多数を請け負う。
「うぉおおお!!」
振り下ろす刃は左肩から入り、両断され倒れる屍怪。
フレッドが多数を受け持つも、中央広場に屍怪は点在。片目の眼球が落ちている者や、首元に矢が刺さる者など。場を落ち着かせるには、一通りの殲滅が必須条件。
「一体……何体いるんだよっ!?」
当初は二十体前後と思われた数も、気づけば増えて四十体前後。フレッドが約半数の屍怪を受け持つも、残りは無口にこちらへ集まってくる。
「このっ!! 数が多過ぎるっ!!」
頭部を狙い斬って一体を倒すも、続々と迫る屍怪と化した者。
テーブルに背を転がして距離を取り、パイプ椅子を蹴って侵攻に抵抗。足に引っかかり一体が転ぶも、微々たる時間の稼ぎにしかならない。
「……フレッド。……クッ。相手をしてやるっ!! 来やがれっ!!」
大きく声を張り上げ、挑発をしての誘導。
左方から銃声こそ聞こえるものの、屍怪により姿の見えないフレッド。負担を今以上に回すことできず、逃げず戦う他に選択肢はない。




