第166話 空の玄関口27
「花火大会か。もしかして花火大会で使われる花火は、別のところに保管されているんじゃないのか?」
左右に店舗が並ぶ外通路を進み、掲示板に貼られる広告を見て思う。
広告に貼られるは花火大会の告知で、夜空に舞うは火花が散る圧巻の花火。市販品と比べて間違いなく、目を見張る大規模な物だろう。
「仮に花火大会用があったとして、どこに保管されてい……。……待てよ。イベントホールに何か大きな玉があったって、以前の補給で誰が話していたか」
頭の中で記憶の断片を探り、フレッドは思考し立ち止まる。
以前にもアウトレットモールに、補給へきていた自衛隊。花火玉と思わしき存在を、噂で耳にしていたらしい。
「花火大会の花火となれば、絶対に大規模だよな? 屍怪の注意を引くに、間違いないんじゃないか?」
新千歳空港の内部や周辺に、今も徘徊する屍の怪物たち。
広範囲に展開しているとなれば、より注意を引ける物が理想的。花火大会用の花火あるなら、役立つこと折り紙付きである。
「目先の利益より、全体のリスク回避か。蓮夜。少し遠回りになるが、イベントホールへ寄っていいか?」
駐車場へ戻るとしていたフレッドも、花火玉の存在を意識して決断を翻す。
「ああ。もちろん、いいぜ。てか俺としても、花火玉を入手したほうがいいと思っていたんだ」
市販の花火のみでは、正直なところ心許ない。
花火大会で使われる花火玉ならば、規模は間違いなく保証。夕刻に迫る時間帯も相まって、空に綺麗な花火が打ち上がるだろう。
***
目的地を当初の駐車場から、イベントホールへ変更。左右に店舗ある野外の通路を、視線を三方へ注意をして進む。
「アウトレットモールの中央。あれが目的地のイベントホールだ」
前方にある頭の高い建物を見据え、フレッドは立ち止まり言った。
全て通路の合流地点となる、アウトレットモール中央の広場。キッチンカーが十台ほど展開され、クレープや焼鳥と書かれた旗が風に揺れる。野外での食事も配慮してか、テーブルや椅子にベンチも三十ほど。他にも緑の木々に噴水と、人々が休める憩いの場だ。
「フレッド。あっちに屍怪がいるぜ」
出てきた通路から対角となる場所に、フラフラと歩く影を確認。
「見えている。気づかれる前にいくぞ」
フレッドと身を低く足早に、自動ドアある正面入口へ。
五階建てのイベントホールは、アウトレットモールで一番に大きい建物。一階から五階を楕円形に吹き抜けた空間で、上階からも下を眺められる構造。横幅は二十五メートルのプール以上あり、奥行きは百メートルほどあるだろう。
「で、花火玉はどこにあるんだよ?」
イベントホールは五階建てと、展開される店舗や部屋も相当数。
当てもなく探すとなれば、途方もない時間を要する。心当たりあるという、フレッドの記憶が頼りだ。
「たしか、舞台の後ろと聞いた気が……」
曖昧な記憶を探りつつも、フレッドは場所を示す。
行く先と示されたのは、一階の最奥とされる場所。イベント用の舞台があって、白い背景が一番に目立つ場所だ。
「休日にはヒーローショーや、音楽発表会があったんだろ?」
イベントホールでは様々イベントや、行事が行われていたとの話。
そのためイベントホールの各階には、イベントに関連する施設も多数。楽器や歌を習う教室に、英会話や学習塾と勉学的なもの。他にも個人病院や、コンビニなども入っているようだ。
「らしいな。そんなことより、花火玉を探すぞ」
フレッドは無駄話をしている暇ないと、足を速く移動をして行動を急ぐ。
前方に見える舞台上には、大型スピーカーに照明器具。舞台後の二階部分にはイベントの様子を映すためか、大型スクリーンのモニターが設置されている。
「グルゥウウ……」
舞台へ上がろうと端の階段へ向かう途中にて、低く耳障りな唸り声に注意を奪われる。
顔を向ける通路中央にいたのは、牙を剥き出しにする屍怪犬。すでにこちらを捕捉しているようで、すぐにでも向かってきそうな雰囲気だった。




