第165話 空の玄関口26
「……なんとか、撒けたか?」
レジの置かれる台下に隠れ、フレッドは周囲を見回す。
「……ああ。とりあえず、姿は見当たらないな」
アウトレットモールを走って逃げ、たどり着いたドーム型の建物。
天井は高く二階を吹き抜けた空間に、並べられるは二百規模の椅子とテーブル。外の景色が見えるガラス張りの窓に、うどん屋やフライドチキン店と展開。他にもドーナツ店にラーメン屋とあり、多種の飲食店あるフードコートだ。
「早くみんなと合流しねぇと」
アウトレットモールを逃げ回る内に、自衛隊員たちと逸れて二人。
周囲から迫る屍怪の存在に、背後を追うは屍怪犬。全員が一方向に逃げる余裕なく、バラバラに離散してしまった。
「合流はいい。みんなを信じて、駐車場を目指すぞ」
フレッドは隊員たちを気にせず、真っ直ぐ出口へ戻ると言う。
アウトレットモールの通路を逃げ、各々が離散する少し前。『駐車場へ向かえ!』とフレッドは指示し、直後にバラバラとなる展開だった。
「隊員たちはそれぞれに、駐車場へ向かっているはずだ。駐車場へ戻れば、自然と合流できる」
フレッドはハンドガンに弾を込めて、戦う準備を整えていた。
騒動を起点として今や、周囲には数多の屍怪。他に屍怪犬と面倒な存在もおり、駐車場へ戻るも容易ではない。
「そうだな。ってかここはどの辺りで、駐車場はどっち方向だよ?」
追っ手を撒くため必死に走り、店情報を知らぬアウトレットモール。方向感覚を失う事態なれば、位置を知るだろうフレッドが頼り。
「そう遠くへは離れていない。フードコートを通り抜け、道なりに進めば駐車場だ」
「よし。なら、行こうぜ」
行く先を示すフレッドと、動き出すため起立。身を隠しているだけでは、物事は何も進展しないのだ。
***
「フレッドって意外に、仲間思いだよな。なんだかんだ言って、酒の補給を許可していたし」
「強情に拒否を続ければ、全体の士気に関わる。だからその、やむなくだ」
フードコートを抜けるため店前を歩き、フレッドは決断に対す心境を語る。
「それだけ相手の気持ちを考えられるなら、上手く自警団と関係を築けなかったのかよ?」
話の流れに際して、少し踏み込んだ質問。新千歳空港における自衛隊と自警団という、二つの組織間にあった溝と軋轢。
主導権はどちらかと言えば、自警団にあった様子。不平不満を抱いていたというフレッドには、クーデター首謀者の嫌疑がかけられていた。
「そんなことは、……わかっていたさ」
感慨深そうにフレッドは言うも、どこか割り切れぬ様子だった。
終末の日以前までの世界でも、不遇な扱いを受けたフレッド。新千歳空港でも納得できぬ扱いなれば、頑なになってしまうのも無理ないところ。
「なあ、フレッド。実は新千歳空港にクーデターの噂があって、内密に調べるよう言われていたんだ」
仲間に事情を隠し内情を探るなど、最初からずっと後ろめたさがあった。
新千歳空港に着いてから、今日までの期間。フレッドにクーデターの兆候なければ、計画していたと思いたくもない。
「それをオレに言って、何のつもりだ?」
フレッドは足を止めて顔を向け、話す意図を問うてくる。
深く追及せずして最初から、身構えている雰囲気。疑いの目が向けられていたことを、フレッドも意識しているようだ。
「別に俺は駆け引きをしたいわけじゃないし。正直に聞くぜ。……フレッド。クーデターを計画していたり、起こすつもりはないよな?」
真実を確認するには、当人へ聞くが一番。まどろっこしい詮索も、逐一の動向チェックも。フレッド本人に聞けば、何もかも手っ取り早い。
しかしそれでも当初は、関係値が低く切り出せなかった話題。関係を築き人間性を知った今だからこそ、真っ直ぐ投げかけられる質問だ。
「ふん。山際所長の差金か。蓮夜もあっち側の人間だったのか」
フレッドは自警団側と捉えたようで、背を向け急に素っ気なくなった。
「そう言うわけじゃねぇよ!! 特に自警団の側とか、自衛隊の側だとか。クーデターが起これば混乱になるだろうし。できれば俺も、避けてほしかっただけだ」
新千歳空港にある、二人の組織。どちらの味方でもなければ、肩入れするつもりはない。
それでも同じ時間を生き、ともに過ごした仲間。クーデターや争い事など、起きねばそれに越したことはない。
「人がたくさん集まれば、揉め事だって起こるだろ。話し合いで解決できないのかよ」
クーデターの話を抜きにしても、二つの組織に問題あったは周知の事実。互いに寄り添う姿勢があれば、解決へ近づけたというもの。
「……互いに引けない線がある。……簡単な話ではないんだ」
話を有耶無耶にフレッドは、前へ向かい歩み出す。
結局のところクーデターの件につき、詳細は不明のまま。それでもフレッドには、腹に据えかねるものがあるようだ。




