第163話 空の玄関口24
正面には【GATE 1】と書かれる門があり、左右対処な造りで二問。フランスにある凱旋門を小さくし、民家でいうなら三階建ての高さ。
門の下を通ってアウトレットモールへ入り、屋根なく野外を歩いて回る形式。店舗数は百を超えて展開され、洋風な造りは海外の雰囲気を連想させる。
「目的地となる花火店は、通りを奥へ進んだ場所だ」
通路の中央にあるマップを前に足を止め、目的地の情報を確認してフレッド。
花火の入手に動くのは八人で、上村隊長を含む四人は車両の番。ヨーロッパ風の街灯にベンチあり、通路を中央に展開される左右の店舗。最も多いのは洋服に関連する店で、他にもカフェやベビー用品に酒屋と並ぶ。
「来たことはなかったけど。いろんな店が展開されているんだな」
千歳市でも際立ち有名であったという、商業施設のアウトレットモール。
各所で見られる様々な外国語の標識に、子ども向けの滑り台や積み木と遊具。海外層や家族層にも配慮され、経営者の取り組みが見てわかる。
「ここは空港に近い、ディスタンス!! 観光客を狙って、アタック!!」
新千歳空港に近いという強みを活かし、展開をしているとジョシュは言う。
どこの商業施設でも、客を求める争奪戦。集客率が悪ければ、利益が出ずの倒産。強みを活かし伸ばしていくことは、生き残るために必要な策だ。
「四人は外で見張りを。店内の安全確認を始めるぞ」
現場の指揮官たるフレッドは言い、花火店の探索を開始する。
店内の大きな棚に置かれるは、打ち上げ花火に噴出花火。手前のテーブルには、ロケット花火に線香花火。他にもパラシュート花火や、ご存じ爆竹に煙玉。手持ちのファミリーパックと並べられ、パッケージは色とりどりだった。
「子どもの頃にやったやつもあるし。懐かしいな」
誰しも一度は見たことあり、触れたことある物も多々。記憶を遡っては邂逅し、幼き日の体験を思い出してしまう。
そんな店内には屍怪の姿もなく、入店した四人で花火を吟味。注意を引くとなれば目立ち、大きな音を発する物が理想的。
「打ち上げ花火は、デンジャラス!! 噴火花火も、デンジャラス!!」
ジョシュは相変わらずのラップ口調で、花火を手に取り見比べていた。
「ここにあるのはあくまで、個人用と家庭的な物だよな? 夏祭りやイベントである、大規模な花火はないかな?」
打ち上げ花火などを連発すれば、ある程度の効果も期待できよう。
しかし一般の市販品と異なり、間違いなく大規模な代物。夏祭りに河川敷で見るものや、イベントに伴い上がる花火。夜空を一面に輝かせる大迫力は、一線を画し目を見張るものがあった。
「ここは普通の花火店。そこまでの物はなさそうか」
「期待外れて、ショック!! それでも花火を、アップ!!」
店内の物色を続けフレッドは言い、ジョシュは手を前にリズムに乗っていた。
打ち上げ花火や噴火花火を、リュックに入れて確保。大規模な花火がなくとも、ある物でやらねばならない。
「よし。上村隊長に言われた通り、すぐに引き上げるぞ」
「なあ、フレッド。少しだけ、寄って行かないか?」
フレッドの発言により来た道を戻り、暫くして自衛隊員は言った。
ショーウインドウを覗くは、酒類が並ぶ酒屋。発言者たる自衛隊員のみならず、四人が張り付き見つめている。
「上村隊長に言われたろ!! すぐに引き上げだっ!!」
しかし現場の指揮官たるフレッドは、指示をしっかりと守る姿勢。
酒という嗜好品を前に、揺らぐ自衛隊員たち。頑なな姿勢で順守する姿は、他と一線を引く態度であった。
「そう堅いことを言うなよ。フレッド。時間にして、五分。いや、三分でいいからさ」
「わざわざアウトレットまで来たんだし。せっかくの機会だ。作戦成就の盃。上村隊長だって、持ち帰ったら喜ぶと思うぜ?」
最初の自衛隊員が肩を組んで言い、説得に着手と一人が加わる。
年を若く現場の指揮をし、揺るがぬ姿のフレッド。それでも多勢で懇願されては、肩を下ろして深い息を吐いた。
「……仕方ない。三分だけだぞっ!!」
「よしゃあ!!」
「酒だっ!! 酒!!」
フレッドが許可を下したのと同時に、酒屋へ向かう自衛隊員たち。
人間というのは究極のところ、欲に忠実なもの。自衛隊員たちの意見に押し込まれ、フレッドはやむなく妥協した形だ。




