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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(上)

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第160話 空の玄関口21

「パパが帰ってきたっ!!」


 ラウンジを駆けるは白いワンピースを着用し、長いブロンド髪に赤いリボンをした幼女。

 年齢にして、三歳か四歳か。日本人やアジア系と異なり、色は白く西洋風な顔立ち。身長は低く手足は短いため、まるで人形のよう可愛らしい。


「アルバート……」


 不安気な顔で後ろを続くは、長いブロンド髪の女性。

 白いパンツにジーンズジャケットを着用し、肌は色白で鼻は高く青い瞳。西洋の血統が色濃い二人は、アルバートが再会を熱望した妻と娘だ。


「……すまない。こんなことになって……」


 項垂れるよう肘掛けに体を預け、弱々しく座るアルバート。

 滑走路の景色を一望できる大きな窓あり、ワンランク上の設備が整えられたラウンジ。屍怪に噛まれたアルバートの体調は、時間の経過で刻々と右肩下がり。今では唇を青紫に顔は青ざめ、すでに自力歩行すら難しい。


「……何も言わなくていいのよ。愛しているわ」


 アルバートの妻は娘を引き寄せ、三人で強く抱き合っていた。

 アルバートの妻には対面前に、起きた事を説明済み。終末世界となり屍怪が出現して、すでに半年近くが経過。残された時間が少ないことは、言うまでもなく承知しているだろう。



 ***



「……サチ。みんなを……集めてくれないか。最後に幾つか、伝えておきたいことがあるんだ」


 家族水入らずの時間を暫くにして、アルバートは全員に招集をかける。

 対象となるのは自衛隊員のみならず、山際所長や自警団と別組織も含む。体調不良と顔色は青ざめ悪く、目の下にはクマができ額には冷や汗。それでも神妙な面持ちで、話したいことがあるらしい。


「自衛隊と自警団は……言うまでもなく、終末世界を一緒に生きる仲間だ」


 徐に発言を始めるアルバートに、ラウンジ端で集まった人々。

 上座中央の椅子にはアルバートが座り、左右に分かれて自警団と自衛隊。三十人ほどが椅子やソファに、立ち見も含め耳を傾けていた。


「自衛隊が持つ銃を……共有物とし、力を合わせ戦ってほしい」


 唐突にアルバートが提案するは、自衛隊の主武器たる銃器の共有。

 新千歳空港と同じ建物にいても、大きな隔たりあった両組織。アサルトライフルやサブマシンガンは、自衛隊に属する自衛隊員の専用武器。圧倒的な火力を有する銃器の共有は、前例なき思い切った提案だろう。


「みんなも本当は……最初から、わかっていたはずだ。自衛隊員は銃器で、自警団員は槍や鈍器。武器という力に差があっては、不公平感に……不平不満が積もるもの。それでは溝を埋められず、……理解し合えるはずもない」


 アルバートが言葉に詰まりながら訴えるは、きっと誰しも頭の隅で思っていたこと。

 バリケードが崩壊した玄関前でも、電力復旧を試みた決死作戦でも。自衛隊員は揃って銃器を使用し、自警団員は槍や鈍器と旧時代武器。主武器に明確な差があっては、対応に大きな違いが生まれた。


「銃を持つ者と、持たぬ者の交渉。対等な力関係なくして、対等な関係を築けるはずもないんだ」


 アルバートの発言を受け、俄かに騒つく自衛隊員たち。それでも目立った意見や反論はなく、一種の核心を突いたからに他ならない。

 いつの時代も対等に事を運ばねば、どこかで生ずる真理の歪み。時の不平等条約であったり、片方の利益に寄った決着。それは不満や不信感と確実に積もり、後に大きな反抗心を生むものだ。


「それなら自警団にだって、見直すところはあったと思います。空港を安全に導いたという功績から、立場を優位なものと考えていました。故に立場を脅かされないため、非友好的で排他的な態度も……」


 ソファから立ち上がり発言したのは、決死隊に参加した自警団の青年。

 国や地方の議員であったり、民間におけるは社長や役職。誰しも通る身近な環境では、学校のクラス内カーストなど。真っ当であろうと、なかろうとも。相手の目線に合わせなければ、対等に物事を見えるはずもない。


「立場に差があるというのも、不公平感を生むもの。自衛隊が武器というならば、自警団においては立場。力という概念は一つにあらず、我々にも……見直す点がありましたね」


 山際所長も賛同的な意見を落とし、互いを振り返って非を認め合う。

 反目しあっていた二つの組織を、新たな関係へ導く投石。互いに非を認め合ってこそ、最初の一歩目となるだろう。


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