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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(上)

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第159話 空の玄関口20

「……やめろ。……トーリンッ」


 アルバートは必死に抵抗をするも、屍怪と化した者に聞く耳はない。

 噛まれた左腕を盾に防御と、アルバートは押し返して接近を拒む。顔をより近づけるため、押し込もうとするトーリン。汚れた口を開かせなければ、逃げることできないだろう。


「何をやっているのよっ!! アルバート!!」


 出発口Eまで戻ったサチは、即座にハンドガンを取り出す。

 アルバートの背後から向けるは、元は自衛官で仲間のトーリン。目は血走り鼻息は荒く、腕を離さぬ狂気の姿勢。生前と異なる屍怪の顔に、サチの迷いは全くなかった。


「パンッ!」


 一発の大きな銃声とともに、屍怪化したトーリンの額に穴があく。

 脳という司令塔を破壊されれば、全身に電気信号を伝えられない。司令なくして咬合力を失い、口を開きトーリンは廊下に沈んだ。


「二人とも!! 早くこっちにっ!!」


 出発口Eから搭乗待合室へと、保安検査場を抜ける二人を促す。

 搭乗待合室の廊下を屍怪犬に、引きずられていた中年自警団員。今ではもうどこに連れて行かれたのか、姿なくして声も全く聞こえない。


「……出発口Aへ向かいましょう。ここはもう危ない!!」


 青年自警団員は出発口Eを見て、唇を噛み締め撤退を促した。

 出発口Eから保安検査場には、搭乗待合室へ迫る屍怪の姿。逃げ場をなくして手段は足と、人を助ける余裕は全くなかったのだ。



 ***



「大丈夫? アルバート?」


 搭乗待合室から出発口Bへと戻り、四台のATMが並ぶ凹んだ場所。

 屍怪と化したトーリンに腕を噛まれ、出血する怪我を負ったアルバート。壁に背を預け座っており、白いタオルを巻いての止血。治療を行う中で触れる肌は、普通の人肌よりも冷たく感じた。


「ゴホッ! ゴホッ!!」


 咳を押さえるアルバートの手には、赤く広がる血が混じっていた。


「せめてもう一度だけでも、……家族に会いたかった」


 目を瞑っては少し上を見上げて、アルバートは願望を言っていた。

 全身を倦怠感と悪寒に襲われ、唇をブルブルと震わすアルバート。新千歳空港三階のラウンジには、妻に娘と二人の家族が健在。自衛官とし日々の任務を行う間も、常に気にかけ身体を心配していた。


「あと少しの距離ですもの。きっと会えるわ」


 奇跡の再会も、最悪の再会。屍怪化したトーリンに、対応を苦慮したアルバート。親しみか、情けか同情か。止めを刺せずして、左腕を噛まれてしまったのだ。

 そして今アルバートを襲う倦怠感や悪寒は、噛まれた者に共通して起こる症状。低体温症に類似する症状を発症し、治療方法なく屍怪へ転化してしまう。


「アルバート。頑張って。生きてみんなのところに、全員で帰るよ」


 最後まで希望を捨てぬと、サチは懸命に鼓舞を続ける。

 決死隊に参加した六人も、今や残るは四人。屍怪に噛まれ満身創痍のアルバートに、ピンク色の髪にゴーグルをした自衛官のサチ。黒いパンツに白のアウターを着用するは、自警団から参加した青年。


「手を貸します」


 凹んだ場所の壁際に張り付き、顔を覗かせていた青年自警団員。見張りをサチと交代しては、近づき助力の姿勢を見せる。


「……大丈夫だ。……まだ歩ける」


 アルバートは壁を支えに立ち上がり、人間としての底力を見せる。

 しかし覚束ない足取りとなっては、体の芯もブレてフラフラの状態。今のままでは銃を持てずして、屍怪に対抗はできないだろう。


「それより、……これを」


 所持していたアサルトライフルを、アルバートは徐に差し出した。


「力が入らないし、手も震えている。それに目が霞んで、もう撃つことができない。銃の使い方は、サチ。教えて上げてくれ」

「アルバート……」


 目配せし頼むアルバートに、サチは険しい顔を見せていた。


「……頼むよ」

「……わかりました」


 覇気なく力ない目で訴えるアルバートに、青年自警団員は視線を逸らさず了承した。

 出発口BからAへ向かう廊下にも、屍怪は広く展開をしている。戦える戦力は、今や三人。それでも三階へ戻るためには、なんとしても突破せねばならない。


「アルバートは、私が支えるわっ!!」


 出発口Aを目指し廊下を歩き始め、あと少しで三階の階段となる場所。


「……ハア。……ハア」


 激しく息を切らすアルバートは、足取り重く速度が出ない。そのため肩を貸し支えねば、今にも倒れてしまいそうな状態だった。


「援護するっ!! 下がってくださいっ!!」


 受け取ったアサルトライフを使用し、青年自警団員は屍怪の撃退に望む。

 初めは出発口Aにいなかった屍怪も、侵攻してか今や多数が点在。無人の受付カウンター前に、自動チェックイン機の前。廊下にも徘徊する姿があり、完全には避けられなかった。


「帰ったわっ!! 開けてっ!!」


 サチは帰還を知らせるため、非常ドアを叩き訴える。

 出発口Aを抜けて階段を上り、二階と三階を隔てる非常ドア前。安全地帯へ戻るためには、内側から開けてもらうしかない。


「階段の下まで、屍怪が来ているわっ!!」


 開かぬ非常ドアを前にして、階段下に迫るは屍の怪物たち。

 続々と数は集まり、見える範囲で十体ほど。非常ドアが開かねば、行き場のない袋小路。逃げる場所をなくして、絶望的な状況となるだろう。


「よく戻ったっ!! 早く中へっ!!」


 非常ドアが開くと自衛官が迎え入れ、決死隊の四人は三階の安全地帯へ。

 三階にいた自衛官は階段へ出て、六人ほどで屍怪の迎撃を開始。連絡通路を渡り国際線ターミナルへ向かうため、閉じたシャッターを開放する電力復旧の決死作戦。多くの苦労と犠牲を払うも、必要な役目を果たしたのだ。


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