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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(上)

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第157話 空の玄関口18

「よし!!」

「やったなっ!!」


 自警団員と自衛官は組織の垣根を越え、手を合わせて喜びを分かち合っている。

 主導権を巡って争い合い、反目しあっていた両組織。同じ問題にぶつかり、ともに解決へ動いた両者。現在における二人の姿こそ、本来は望ましい関係だったと思える。


「急いで戻ろうっ!! 早くみんなに、電力復旧を伝えないとっ!!」


 喜び冷めやまぬ中で、自衛官は先行して出口へ向かう。

 初めからこの場にいたのか、はたまた侵入して来たのか。電力室の大きな機械が死角となり、遭遇するのは予想外だったろう。


「アアァァ」

「うぉおお!! うあぁぁ!!」


 不意を突く形で屍怪が出現し、自衛官は驚き慌てふためく。

 取り乱したまま後退するも、屍怪の汚れた手は肩に。慌てて振り払うも壁際まで追い込まれ、自衛官はハンドガンを構える事態となった。


「屍怪だぁ!!」

「バンッ!! バンッ!!」


 自警団員は声を張って訴え、同時に響く空気を揺らす発砲音。

 自衛官は銃口を屍怪へ向け、震える手で発砲。一発目は標的の肩を捉えるも、二発目は外れて明後日の方向に。突然の出現に動揺したのか、狙いを定めきれずいるようだ。


「……このっ!!」


 それでも自衛官は屍怪を倒すため、ハンドガンにて発砲を繰り返す。

 本来ならば急所である心臓に、動きを止めるためか太もも。そして遂には頭部を撃ち抜き、屍怪は前のめりに地へ伏した。


「……まだいるぞっ!!」


 震える声の自警団員が言う通りに、出現した屍怪は一体にあらず。

 血に汚れた衣服を纏い、皮膚の剥がれた血色の悪き者たち。電力室には最初の一体を含め、最低でも四体はいるようだ。


「カチッ! カチッ!」


 自衛官は連続して引き金を引くも、弾が発射されず虚しい空音が響く。口元をワナワナと震わせ、額に脂汗が滲み動揺を隠しきれぬ姿。

 ハンドガンはアサルトライフルと比較し、装填できる弾数は少ない。急所を捉えられず多分に発砲したため、すでに弾切れとなっていたのだ。


「やめろっ!! 来るなっ!!」


 自衛官はやむなく手で振り払うも、動きの止まらぬ三体。屍怪に慈悲を求めても、効果はありもしないのだ。


「離せっ!! 離してくれっ!!」


 自制を求める叫びも虚しく、抵抗する自衛官は倒される。

 餌を前にして我慢ならぬと、覆い被さる三体の屍怪。迷彩服を破り捨てては、噛みつく狂気の行動。


「クッ……電力室を出るぞっ!! みんな!! 急いで走れっ!!」


 ジタバタする足しか見えぬとなっては、アルバートは苦渋の決断を下す。

 救えぬ命より、救える命。発砲音に大きな叫びと発したため、いつ屍怪が寄ってきても不思議ない。


「さっきまで電力の復旧を、一緒に喜んでいたのに……」


 廊下を走る中年の自警団員は、急な事態の変化に困惑していた。

 先ほどまでは手を合わせ、電力復旧を喜んだ仲。今ではもうその人物は、この世に存在しないのだ。


「最悪の場合を、みんな覚悟して参加したはずよ」


 先行するサチが背中で語るは、最初から言われていた話。

 電力復旧を優先とし、結成された決死隊。決死という文字の意味通りに、命を賭ける覚悟が要件となっていた。


 少し冷たく感じるけど。これが現実なのよね。


 非情に聞こえる発言や対応も、多くを生かすためやむなき判断。

 優先すべきは個人の命より、空港内にいる大勢の命。決死隊の目的は何を置いても、電力復旧を果たすこと。シャッター開けば戻れずとも、国際線ターミナルへ避難できる。目的達成のため犠牲を伴うことすら、前提段階から覚悟していた話だ。


「電力復旧の責を果たしたんですもの。あとはもう、みんなで戻るだけよ」


 電力室から廊下を真っ直ぐ走り、緑の扉を開ければ出発口E。

 広い廊下に搭乗待合室とあり、歩んできた道を戻るだけ。行きにできたことをそのまま、帰りも繰り返せば良い。


「ヴゥ……」


 緑の扉を開けた瞬間に、一斉に視線が注がれる。

 出発口Eとなる廊下には、五十体か百体か。数えられぬほど、多くの屍怪が存在していた。


「無理だっ!! 進めないっ!! 戻ろうっ!!」


 注目を一斉に浴びる事態となっては、中年の自警団員は今までになく狼狽える。


「ダメだっ!! 後ろからも来ているっ!!」


 しかしアルバートの振り向く背後からも、廊下を歩き着々と屍怪が迫る。

 電力室での騒動を聞きつけてか、もしくは自然に集まってきたのか。出発口Eを前にした廊下にて、屍怪の挟み撃ちを受ける事態となった。


「戻っても意味がないわよっ!! 生きて帰りたいなら、前へ進むしかないわっ!!」

「……よしっ!! 強行突破するぞっ!!」


 窮地に追い込まれた中でも活路を求め、アルバートも呼応し戦う覚悟を固める。

 三階へ戻るためには、出発口Aしか道はない。となれば屍怪を押し退けてでも、前へ進むしかないのだ。


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