表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の黙示録  作者: 無神 創太
第一章 終わりの始まり
16/321

第15話 屍怪

 夕山とは陵王高校の元同級生で、二年の秋頃まで話すことも多かった仲だ。事情は知らないが転校してしまい、こうやって会うのは久しぶりになる。

 夕山の知り合いであると、こちらの素性は知れた。となれば老人の警戒心も薄れ、自然と気も緩んだ様子。


「ワシの知っている範囲でなら、話してやろう」


 事の成り行きを話すと老人は言い、それなら全員で聞いたほうが良いと判断。別室にいる三人を呼びに行き、事務室に集まることになった。


「わかりました。事務室へ移動ですね」

「先人がいるなんてラッキーじゃね!? 事情も知れそうだし。何より、ここは安全そうじゃん!」


 荷物をまとめ始める美月に、一つ好転と啓太は笑顔を見せていた。


「畑中さん。移動しますね」


 再び畑中さんに肩を貸し、事務室まで移動。

 移動中も畑中さんはツラそうで、時間とともに悪化しているよう思えた。



 ***



 事務室前方が受付対応なら、後方は応接と事務作業の場。

 皮製のソファが、向かい合うよう二台。間には透明なガラステーブル。上座には立派な机と椅子があって、あとはオフィスデスクが並んでいる。


 脱ぎ捨てられた衣服に、空のカップ麺容器。ここは、かなり生活感があるな。夕山と老人は事務室を拠点とし、過ごしていたとみて間違いなさそうだ。


「まさかこんな所で、蓮夜に会うなんてね。予想もしていなかったよ。偶然って言うのは、本当にわからないものだね」


 偶然の再会に、驚きを隠せないと夕山。


「……げっ!」


 喉から絞り出すよう、忌避な声を発する啓太。出会い頭に夕山と対面しては、気まずそうな表情を浮かべている。


「どうかしたのか?」


 怯えた素振りにも見える啓太に、疑問を抱いては質問。


「おいっ! 蓮夜! アイツと……知り合いなのか?」


 肩に腕を回しては離れ、小声で質問する啓太。


「ああ。そうだけど」


 この光景を夕山は、笑顔で見つめている。


「ああっ! そうだ! 畑中さんを! 休ませなくちゃじゃね!? ほらっ! せっせっと!」


 顔を向けた啓太も、夕山と目が合った様子。ワザとらしく話題を逸らしては、事務室奥へ歩いていった。


「そっちに寝かせるとええ」


 事務室の隅を、指差す老人。

 事務室の隅には、もう一台。横になれるソファベッドがあった。


「やっと一段落だな」


 ソファベッドに横たわる畑中さんに、皮製ソファに座る老人。

 対面には、自身とハルノ。美月は畑中さんに寄り添い、啓太は上座へ。夕山は本棚を背に立ち、状況を見守っている。


「それじゃあ、お願いします」


 全員の準備が整ったところで、嘆願。


「うむ。よかろう」


 老人は事の顛末を、語り始めた。



 ***



 四月二十日。札幌駅前にいた老人は、空から地上に降り注ぐ飛翔体を目撃。空襲のような爆撃を運良く回避し、大通り公園へ逃れようと走った。

 しかし駅前は人々が阿鼻叫喚する、地獄とも思えるパニック状態。騒ぎに対応すべく集う、警察官に緊急車両。


「警察官は頑張っとたよ。『避難してくださいっ!』と、大きな声を上げてのう。しかし本題は……ここからだったんじゃ」


 老人が足を向けた大通り方面からは、大勢の避難者が逆流。そしてその中には、『人を襲う者』が混ざっていたとのこと。

 そのため老人は、大通り公園へ向かうことを断念。反対側となる北口方面へ逃げては、現在のビルに避難し籠城。『救助を待つ』という、決断を下したらしい。


「しかし、助けが来る気配は……一向にないがのう」


 老人の話では、現在までの約二週間。自衛隊を含め警察も、救助は一切なかったらしい。

 そのため老人は、外へ出ることも考慮した。しかし下へ続く階段は、夕山が逃げて来たときに崩落。非常口の扉は理由不明で開かず、ビルに閉じ込められていたとの話だ。


 使用できる範囲は、ビルの二階と三階。それから上は、扉が開かず行けないのか。

 まあビルに閉じ込められていた状況は、俺たちが入ってきたことで解消。今は外へ出られるな。


「扉の前に荷物が積まさっていたんだよ。そりゃあ開かないのも当然じゃん」


 荷物を排除したのは、先行した啓太だった。ビルへ逃げ込む際に邪魔だと、早々に退かしたようだ。


「話を続けて良いかの」


 話を再開する老人。今までの内容は、ある程度。想像できる範囲。そのため有益な情報は少ない。そう思っていた。しかし、ここから先が重要だった。

 街に徘徊する異常者に噛まれると、同じよう『人を襲う者』に変貌するとの話。それは初めのみ使えた、ラジオによる情報。実際の経験からも、間違いないそうだ。


 まるでどこかの……ホラー映画かよ。


 現実離れした話に、疑いしかなかった。噛まれた人間がどうなるかについては、体温が下がって低体温症に類似する症状を発症。その後は完治することなく、死亡するらしい。

 この『らしい』というのは、死んだはずの人間が動き出すからである。その事から屍の怪物。死んでいるかも怪しいとされ、『屍怪(シカイ)』と呼ばれているそうだ。


 こんな突拍子もない話。はい。そうですか。って、簡単に信じられるわけがない。

 だからと言って、今は他に……説明がつかないのも事実なのか。


 老人は約束した通り、事の顛末を話してくれた。

 衝撃的な現実に、誰もが言葉を失い沈黙。事務室は異様なほど静まり、重く停滞する空気に包まれていた。


「それなら……畑中さんは……」


 畑中さんに寄り添う美月は、震える声で呟いた。

 言葉を受け、全員の視線が畑中さんへ集中。


「そやつ! 噛まれておったのか!?」


 驚き慌てた様子で、立ち上がる老人。


「感染者。なら、もうそいつはダメだ。殺すしかない」


 表情を一切変えず、物騒なことを言う夕山。カウンターテーブル内側に、隠していた鉄パイプ。躊躇いなく持つと、畑中さんの元へ歩き始めた。


「……おい。……マジかよ!? そんなの正気じゃねぇって!!」


 感情的に机を叩き、訴える啓太。

 しかし夕山は、全く意に介せずといった様子。


「待てよ! 夕山! 畑中さんは、大丈夫かもしれないだろっ!?」


 畑中さんの前に立ったところで、夕山の腕を掴み制止。思い止まるよう、訴えかける。


「蓮夜も止める気?」


 そこで夕山が向けたのは、氷のように冷たい眼差し。事務室に漂う、凍てつく空気。ピリピリと肌を刺す、緊張感。全員が息を呑み、容易には動けなかった。

 しかしそんな中でも、動き出す夕山の右腕。となればこちらも、力を入れ対抗。互いの思惑が反発し、意地となってぶつかり合う。


「そうですよ! まだ死ぬと、決まったわけではありませんよっ!」


 互いに譲らず腕が震え出したところで、美月も思い止まるよう訴えかけた。


「そうよね。まだ死ぬと決まった……わけではないもの」


 美月に続き、ハルノも同調。 


「はぁ。わかったよ。でも覚えておいてよ。そいつは屍怪になって、僕たちを襲うだろう。そのときは――――」

「そのときは、俺が殺るさ」


 夕山の言葉を待たず、自身の決断を宣言。


「オッケー」


 すると目を丸くして、返事をする夕山。その横顔は、少し笑っているようにも見えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ