第154話 空の玄関口15
「二階の連絡通路を見に行きましょう」
三階がダメでも二階はと、サチを先頭に階段を下りる。
国際線ターミナルへ繋がる連絡通路は、三階と二階の二ヶ所。どちらが通れずとも、片方が通行可なら問題ない。
「……ダメだ。どうなっているんだ」
スイッチを操作するアルバートは、またも反応なく眉を曇らせる。
三階に続き二階も、開かぬシャッター。閉じ切った状況のままでは、国際線ターミナルへ行くこと叶わない。
「アルバート!! 大変だっ!! シャッターが開かないのは、故障じゃないかもしれない!!」
打つ手なく困り果てていると、足早に階段を下りてくる自衛官。どうにも問題が発生しているのは、この場に限った話ではないらしい。
ラウンジにある照明や、調理場のIHヒーター。非常電源下で動いていた物も、今はうんともすんとも言わず。どうやら状況から推察するに、空港全体が停電しているとの結論だ。
「……非常電源が落ちたのか。シャッターを開ける方法は?」
「手動では開かないらしい。開けるためには、電力復旧が必須。みんな待っているから、一度ラウンジへ戻ろう」
神妙な面持ちにてアルバートは問うも、自衛官によれば別の手段はないと言う。
それでも空港内部のことならば、勝手を知る職員や自警団。山際所長に聞くのが一番よいと、三階のラウンジへ戻ることにした。
「新千歳空港の電力室は、二階の最も端になります。空港中央となる出発口Cから、出発口D E Fを過ぎた先。マップでいうなら、この場所です」
机に広げたフロアマップから、山際所長は目的地を指し示す。
扇状の形を新千歳空港内で、等間隔にある出発口。電力室は閉鎖エリアの先であり、今や簡単に行ける場所ではない。
「それでも電力を復旧させるならば、誰かが行くしかないのか……」
全員が理解しているところを、アルバートは口に出し周知させる。
屍怪いる危険地帯へなど、誰しも行きたくはない。沈黙し発言を控えているのは、白羽の矢を立てぬため。それでも国際線ターミナルへ行くならば、誰かが役目を担わなくてはならない。
「国際線ターミナルへなんて、本当に行く必要あるのかなっ!? 今のままでも、籠城はできているんだっ!! 時間はかかるかもしれないけど。屍怪がいなくなるまで、みんなで待てばいいさっ!!」
電力室へ出向く必要性があると知り、自警団員は移動の必要性自体を問う。
屍怪が徘徊する中で電力室へ行くなど、ハイリスクでローリターン。時間が必要だとしても危険を冒すなら、留まるほうが吉なのかもしれない。
「大変だっ!! みんな来てくれっ!!」
ラウンジへ入ってきた自警団員は、慌てた様子で全員に訴えた。
話を中断して向かうは、玄関前の階段。閉鎖したシャッターはガンガンと叩かれ、数多いるだろう屍怪の存在を肌で感じる。
「音が凄かったから、見に来たんだ……」
前に立つ自警団員が顔を向けるのは、テラウォード・ブッチャーが体当たりした所。
他の場所と比較して、内側に凹んだシャッター。耐久性が落ちてしまったのか、僅かずつ崩れる金属片。今はまだ指先ほどであるも、先を見通す穴が空いている。
「もしかして、突破してくるのから」
迫りつつある屍怪の存在に、言いようのない不安感に危機感。
シャッターが突破されたとなれば、雪崩れ込んでくるだろう屍怪。仮に二階を全閉鎖しても、その場しのぎになる可能性。三階で同様の事が起きれば、完全に逃げ道はなくなるだろう。
「事態は思ったより、逼迫しているみたいだ。山際所長。電力室まで行けるルートを、詳しく教えてください」
アルバートはジリ貧となる展開を見越し、電力室へ行く決断を下した。
しかし電力室へ向かう道のりには、屍の怪物と化した屍怪の存在。容易に足を運べたときと違い、困難かつ危険なものとなるだろう。
***
「ハルノは残ってもいいのよ。一般人なんだから」
人払いをした事務室にて、シャツを着替えるサチ。机にはパソコンや書類が残され、業務を行っていた当時のまま。
「みんなが戻らなければ、残っていても一緒よ。だからは私も、できる限りの協力をするわ」
電力室へ向かうために、結成された決死隊。自警団から二人に、自衛隊からは三人。
サチにアルバートと、知った顔を含む計六名。少な過ぎては戦力が足りず、多過ぎては見つかるリスク。戦闘力と機動力を検討し、総合考慮した末の人数だ。
「サチ。私にも……銃を貸してくれないかしら?」
コンパウンドボウやナイフで戦うのは、相手が多ければ厳しいものとなる。
多数を相手すると想定すれば、連射可能な銃こそ最適。バリケードが崩壊した玄関前でも、遺憾なく威力を発揮していた。
「あのね。ハルノ。素人が扱うのは、簡単な話ではないのよ。撃つにしても、管理するにしても」
サチは銃を扱う上において、危険性と難しさを指摘する。
銃の取り扱いにつき、厳格である日本国。自衛隊や警察など公的機関を除けば、民間におけるは狩猟者くらいのもの。海外のよう気軽に入手できる環境なければ、簡単に撃てる射撃場もない。
「その点に関しては、心配ないわ。あまり大きな声では言えないけど。実のところ、慣れているの」
銃の扱いに関して最初から、素人というわけではない。遠くから目標を定め撃つ狙撃ならば、熟練者と比較しても劣らないだろう。
「ハルノ。あなたは……」
経験あると突然のカミングアウトに、サチは驚き言葉を失っていた。
銃に触れることさえ、難しい国の日本。サチの反応にも無理なく、当然のリアクションだろう。




