第151話 空の玄関口12
「限界!! 閉めるよっ!!」
階段へ向かい侵攻を始める屍怪に、もはや一刻の猶予もないとサチ。スイッチの操作にて頭上のシャッターは、完全閉鎖とゆっくり下り始める。
下りゆくシャッターを前に、大きな屍怪を見つめたタイミング。どこか目が合った気がして、途端に地を蹴って走り始めた。
「ドスン!!」
深く重たい衝撃が周囲に響き、内側へ凹んだシャッター。
間一髪のところで閉じ切るも、今や原型を留めず変形。大きな屍怪よる体当たりは、相当な威力と見てわかる。
「なんだっ!? あのバケモノはっ!?」
「シット!! トーリンがやられちまった!!」
自警団員と自衛隊員は感情を露わに、揃って激しく動揺していた。
「大丈夫? アルバート?」
辛くも一息つける状況となり、座り込む姿を見て問う。
「トーリンは同期だったんだ。口は悪かったけど。本当にいい奴だった」
階段の中腹にて座り込むアルバートは、覇気なく肩を落とし言っていた。
トーリンと言う髭面の自衛官は、アルバートの同期で友人。使命感がとても強く、頼れる存在だった言う。
「トーリンさん。隊員を助けていただき、ありがとうございました。謹んでお悔やみ申し上げます」
山際所長はシャッターに向き合い、感慨深そうに弔辞を述べていた。
そんな山際所長を、見つめる者が一人。トーリンに助けられた自警団員で、唇を噛み締め顔を歪ませている。それはとても複雑そうな雰囲気で、なんとも言えぬ表情をしていた。
***
全員が足取り重く、戻ってきた大広間。一人として欠けず、生還できれば違っただろう。
勇敢な自衛官という損失は、各々の心に大きな傷を。疲労感は酷く肩にのしかかり、士気を著しく低下させた。
「山際所長!! 無事でしたかっ!?」
大広間への帰還に気づき、駆け寄ってくる自警団員。
大広間には非常事態の号令が出され、椅子や地べたに座り集まる人々。全員がリュックやキャリーバッグと荷物を側に、一様に落ち着きなく不安な表情をしている。
「状況はどうなっていますか? 負傷者は出ていませんか? 閉鎖は間に合いましたか?」
暗く落ち込んだ雰囲気の中でも、山際所長はトップの役目を果たす。
指揮官が折れてしまえば、組織全体の瓦解に繋がる。一時は死をも覚悟している雰囲気に見えたも、今は立ち直り責務を真っ当する決意のようだ。
「負傷者はいません。でも、……山際所長」
「どう言うことです?」
自警団員は説明を途中に口を噤み、山際所長は険しい顔で追及する。
二人の会話を一歩下がって、聞いて知った現状。二階へ繋がる階段の一部で、シャッターが下りなかったと言う。
「それでも大広間に繋がる通りと、三階へ行くための階段。できる限りの閉鎖はしました」
誰もが予期せぬ不測の事態でも、最悪の事態は免れたと自警団員。
「慢性的に人材は不足していたし。停電による節電の影響もあったからね」
新千歳空港の背景を知るサチは、仕方ないとの見解を示していた。
技術者や道具に電力不足で、通常より整備も難しかった話。終末の日から全て平時と異なれば、体制が整わず不備も発生するだろう。
「大広間のシャッターが下りていたのは、そういう経緯があったからなのね」
保安検査場や搭乗待合室も、全てシャッターの先。寝床としていた場所へ行くことも、今ではもう叶わない。
「二階も半分以上が……持っていかれるなんて」
「最悪な状況よ。それでも、よく対応したほうだと思うわ」
実態を知ったアルバートは驚愕し、サチは一応の賞賛をしていた。
二階の階段が閉鎖できぬと、諦めていたら終わっていた話。現在における安全エリアは、二階の大広間と三階以上の全域。一階と二階の半分以上を失うも、残っただけ良しとの見解である。
「シャッターが突破されることは、ないと思いますが。みなさんを三階のラウンジに、避難させてください」
山際所長は二階の大広間から、避難場所を移す決定をした。新千歳空港に侵入した屍怪は、直に二階への侵攻を試みるだろう。
そうなればシャッターを叩き、呻き声も自然と聞こえる。大広間にいては神経を逆撫でられ、落ち着いて休めるわけもない。
「あっ!! 火が上がっているっ!!」
三階のラウンジへ避難し間もなく、窓に張り付き少女が叫んだ。
少女の声を聞いて、集まってくる人々。大きな窓を前に横へ広がり、みなが見つめるは離れの格納庫。旅の目的地たる東京へ向かうため、移動手段たる飛行機が修理されていた場所だ。




