第149話 空の玄関口10
―*―*―ハルノ視点 ―*―*―
「蓮夜からの連絡で、国内線ターミナル入口が破られそうですっ!!」
聞いた窮地を話そのまま、山際所長と集まる自警団と自衛隊に報告。
バリケードが壊されてしまえば、悲惨な大事件は避けられない。屍怪は雪崩の如く勢いで侵入し、空港はたちまち占拠されてしまうだろう。
「みなさん!! 急いで確認をっ!!」
「みんな武器を持てっ!!」
山際所長が第一声を発して、呼応し動く自警団に自衛隊。大広間の丸テーブルにてフロアマップを広げ、避難対策などを確認していた両組織。
しかし屍怪が迫ると知っては、何もかも中断して十五人。自警団と書かれた緑の腕章する八名は、護身用の黒い警棒に身長台の尖った槍を装備。迷彩服を着た自衛隊の七名は、アサルトライフルと銃器を持って行動開始。
「うっ……! おっ……」
二階のお土産店ある廊下を駆け、階段を下りて固まる自警団員。
廊下は二十人が並んで歩いても、通行可能と思える横幅。床は白いタイルで作られ、案内所と飲食店ある到着ロビー前。
「どうして報告をしなかったのですかっ!!」
山際所長は玄関前で立ち尽くす二人に、義務の怠りを指摘している。
先にいた自警団の二人が見つめる玄関前には、バリケードを破壊し顔を覗かせる屍怪の姿。隙間からはギョロっとした目が見え、繰り返し聞こえる木の板を叩く音。
バリケード上部では木の板が剥がれ、下部でも割れ目ができ床には木屑が散らばる。屍怪の破壊行為と圧力に耐えられず、バリケードはすでに崩壊寸前だった。
「ウガウッ!!」
「ガウッ!!」
新千歳空港の外からは何度も、屍怪の叫び声が聞こえる。
「……もう、終わりだ」
「……何をしても、無駄なんだ」
二人の自警団員は迫る屍怪に圧倒され、絶望に消沈し座り込んでしまった。
山際所長からは変化あれば、逐一の報告をと指示が出ていた。不備に対し怒り叱責するのは、当然の話。報告が早急なればもう少し、早くに発見できただろう。
「まだ終わってはいませんっ!! 二人を二階へ運んでくださいっ!!」
見兼ねた山際所長の指示により、自警団員により運ばれていく二人。絶望に打ちひしがれても、現場では邪魔でしかない。
「キリがありませんよっ!! 補強は無理ですっ!!」
自警団員は壊れたバリケードの隙間から、槍を突き刺し屍怪の撃退を続ける。
しかし屍怪を何度となく倒しても、後続が瞬時に穴埋めするイタチごっこ。同じ行為を繰り返すことになっては、補強修復に時間を与えてもらえなかった。
「アルバートさんの言う通り……。逃げるのが正しい判断でしたか」
他者に聞き取り難い小声で、山際所長はポツリと呟いていた。
隣にて成り行きを見守り、立っていた唯一の存在。故に発言を聞き取れたのは、きっと一人きりだろう。
「二階へ繋がる道や階段を、即時に閉鎖してくださいっ!! 生存者の安全を、第一に優先!! 一階については、放棄としますっ!!」
山際所長は割り切った判断をし、二階より上にて籠城する決断。
バリケードの補強修復は叶わず、ギシギシと音を立てる木の板。もはや時間の問題で、屍怪はバリケードを突破。物凄い数と勢いで、新千歳空港へ侵入してくるだろう。
「さあ!! みなさん!! お急ぎをっ!! この場はみなさんに変わり、わたしが見張りをしておきますっ!!」
発言あっても動かぬ自警団員に、山際所長は後押し発破をかけた。
一階の突破を許すということは、新千歳空港の陥落を意味する。それは誰もが望まぬ、最悪の事態であった。
「山際所長の言う通り!! シャッターを閉めに回るぞっ!! 急げっ!!」
一人の自警団員を皮切りに、動き出す自警団員たち。
自衛隊員も協力へと続き、国内線ターミナル玄関前。残されたのは山際所長にアルバートと、両組織の隊員が二名ずつ。
「みなさんも二階へ避難してください。シャッターを閉め終わるまで、時間を稼ぐ必要がありますから」
武器を持たずして言う山際所長は、死をも覚悟している雰囲気だった。
新千歳空港は建物の構造として、各所に繋がる階段や廊下は多い。限られた人数で全てを回るには、それ相応の時間を必要とするのだ。
「自衛隊の使命であり役目は、国民の生命身体を守ること。付き合いますよ」
「私もやれるだけのことは、やりたい性分なの」
アサルトライフルを構えるアルバートと並び、バリケードへ向かい弓を引き標的を定める。
「みなさんも、大概ですねぇ」
山際所長は返ってきた言葉を聞いて、息を吐き観念する様子だった。
国内線ターミナル玄関前に留まるは、覚悟を決めた七人の戦士。バリケードの突破を試みる屍怪を前に、武器を構えて臨戦態勢となった。




