第148話 空の玄関口9
―*―*―蓮夜視点 ―*―*―
「すみません。上村隊長。上手く行きませんでした」
「何も気にするな。できるだけのことは、やってくれたさ」
迂回し道路橋へ戻ってきたフレッドに、上村隊長は労いの言葉をかける。
突然の非常事態で、対応も難しかった話。それでもフレッド隊の活躍で、前列の多くは離脱させられた。
「問題はこれからを、どうするかだ」
上村隊長は屍怪の行進を眺め、次の対応を悩んでいた。
屍怪の行進を止める手段なく、先回りも叶わない。時期に新千歳空港へ着くとなれば、気がかりは残される者たち。
「無線機を。山際所長と話したい」
上村隊長は手を前に指示を出し、運ばれてくるトランシーバー。
「アルバートか。現在の置かれる状況。今後について、話しをしたい。山際所長に変わってくれないか」
上村隊長はトランシーバーを使用し、空港内部と連絡を取り始めた。
そして屍怪の行進は止められず、時期に新千歳空港へ着くこと。数千を超える規模であり、尋常ではない数と説明。
「なるほど。まあ、それはわかりますが」
上村隊長は顔を曇らせ、返事に困っている様子。
上村隊長は新千歳空港を放棄し、脱出の検討をすべきと提言。対する空港側からの返事は、容易な話でないとの回答。人々は日々を過ごしていた空港に愛着あり、捨てての逃亡に抵抗感ある者が多い。事態が非常事態であっても、説得に必要な時間が足りないのだ。
「先頭の屍怪!! 空港へ着きます!!」
話は平行線のままある中で、双眼鏡を覗き一人の自衛官。
習って双眼鏡を覗き、前方の新千歳空港。屍怪は道路から敷地へ広がり、国内線ターミナルに国際線ターミナル。囲むように展開を始めては、もはや脱出も簡単ではない。
「籠城して数が減るまで待つ。今となっては、無難かもしれませんが」
上村隊長が空港から受けるは、展開的な側面を踏まえたもの。
屍怪に囲まれたとなれば、逃げず動かずの籠城。時間が経過し数が減るまで、耐え忍ぶという判断だ。
「あの、ハルノに代わってもらえませんか?」
二人の話し合いが妥結したとみて、トランシーバーを借りたいと懇願。
新千歳空港には人々と一緒に、ともに旅をゆくハルノも残る。携帯電話など連絡手段なく、無線機こそ唯一の方法。
「蓮夜!! そっちは大丈夫!?」
受け取ったトランシーバーからは、元気そうなハルノの声が届く。屍怪に囲まれる状況でありながらも、こちらの心配をしていたようだ。
「俺の方は問題ない。今は道路橋にいて、空港が見える感じだ」
「なら、ひとまずは良かったわ。空港からも屍怪が見えるけど。外からはどう?」
新千歳空港を遠目に確認できる場所と、把握できぬ全体をハルノは気にかける。
空港が囲まれていると知っても、屍怪の侵入なく混乱はないとの話。今は非常事態との号令が出され、人々は大広間に招集され待機。いつもと違う緊迫感ある雰囲気に、各々が不安を抱えている様子だと言う。
「そうだな。言うのもなんだけど。かなり酷い」
国内線と国際線ターミナルに、道路や駐車場と敷地内。一帯は彷徨う屍怪により、覆い尽くされている感じ。
特に屍怪の数が多いのは、国内線ターミナル前。まるでハリウッドスターの来日を控えているか、人気の音楽ライブ会場に集まる群衆のよう。前列も後列もなく密集し、押し合い引き合いと混雑の様相を呈する。
「空港からも見えるけど。そんなに酷いのね。でも、大丈夫よ。屍怪は時間経過で離散していくはずですし。新千歳空港には食べ物や、水は十分に残されているもの」
窓からでは全体を把握できずとも、籠城に関してハルノは前向き。
不意となる襲撃も想定し、防御を固めていた新千歳空港。幾重にも張り付けた木の板により、強固に作られたバリケード。食料に関しては元から十分な蓄えあり、相当な期間を過ごしても問題ない。
「おい! 国内線ターミナルの正面!! やけに大きいのがいないかっ!? しかも屍怪の動き!! 他の場所と比べて、何かおかしいぞっ!!」
一人の自衛官が双眼鏡を覗きつつ、屍怪の行動に異変を訴え始めた。
「すみません!! ちょっといいですか!?」
使い回していた双眼鏡を借り、覗くは屍怪いる新千歳空港。
指摘あった国内線ターミナル入口には、たしかに頭の一つ抜けた存在。他にも注意し観察を続けていると、妙にガツガツしている屍怪を確認。
「……マジかよ」
「蓮夜!! どうしたのっ!?」
トランシーバーの先で異変を察知し、ハルノは説明を求めている。
「ハルノ!! よく聞けっ!! かなりヤバい状況だっ!!」
新千歳空港を双眼鏡で眺め、目に飛び込んできた光景。
「国内線ターミナルの入口が破られそうだっ!! 急いでみんなに知らせて、何か対策をとってくれっ!!」
入口付近ではガラスが割れ砕けて、バリケードたる木の板が露わ。
屍怪は噛みつき引きちぎり、さらなる侵攻と破壊を試み。バリケードたる木の板はすでに、一部で損壊が見られ始めている。
「すぐに伝えるわっ!! またあとで連絡するからっ!!」
慌てた様子で無線は切れ、ハルノからの通信は途切れてしまった。
窮地を知っても道路橋からでは、見ているだけしかできない。何もできない現状に、歯痒さしかなかった。




