第146話 空の玄関口7
「二階以上の怪我人は、サチ班と自警団に任せよう!! 屍怪の侵入を警戒し、一階を重点的に確認!」
銃器を武装した二十人の自衛官を前に、現場指揮を取るは年のほど若きフレッド。
総合指揮を取る上村隊長と、サチ班は二階にて怪我人の対応。扇状の形をした国内線ターミナルを、中央から右側へはジョシュ隊。アルバート隊が左側へ向かい、フレッド隊は連絡通路から国際線ターミナル。
「国際線には、二階から向かうんだな」
「一階に連絡通路は通ってない。国際線へ向かうには、二階と三階しかないんだ」
六人で進むフレッド隊に同行し、先頭のフレッドは構造を語る。
新千歳空港を訪れた経験あろうとも、利用は全て国内線。国際線に搭乗する機会なければ、国際線ターミナルを把握していない。
「先にある連絡通路を進めば、目的地の国際線ターミナルさ」
二階にある飲食店やお土産店を抜け、前方の広い通路を見てフレッド。
国内線と国際線を繋ぐ、架け橋となる連絡通路。中央に設置されるは左右対処に、動く歩道のムービングウォーク。広い通路には腰ほど高さある清掃ロボットが沈黙し、通路隅には鑑賞用の木とゴミ箱に自動販売機。
「国際線ターミナルは、何かと不便ってか」
「連絡通路だけで、約二百メートル。多くは国内線ターミナルを、居住地としているしな」
フレッド隊とし同行する中で、二人の自衛官は歩きつつ語る。
建物自体の独立性が高いため、行き来が面倒と国際線ターミナル。多くの人々が居住場所とし、配給あるのも国内線ターミナル。節電中と窓からの光りを頼りに、連絡通路は全体が見えても薄暗い。
「それでも国際線ターミナルを、放棄するわけにはいかない。わかっているだろ? 国際線ターミナルには、重要な役割があるってことを」
先頭を歩くフレッドが語るは、国際線ターミナルの役割。国際線ターミナルの駐車場には、観光バスが七台ほど止められている。
万が一のときがあった場合に、新千歳空港からの脱出手段。自衛隊が行う見回りには、周辺にいる屍怪数の調査。他にも逃走経路や逃げ先の確認と、有事を想定した側面もあるらしい。
***
国際線ターミナルを含め全て、新千歳空港の安全確認は終えた。
大きな揺れを受けたものの、建物やバリケードに損壊はなし。空港と耐震性の高い造りもあって、地震も無事に耐え忍んだようだ。
「問題発生だっ! 見回りに行っていた部隊から、無線で緊急連絡が入っている!」
トランシーバーを片手に持つ自衛官は、慌てた様子で急報を告げた。
「標識が倒れてきたんです。避けようとしたら、側溝に嵌ってしまい……」
頭を掻いてジープを見つめるのは、見回りに出ていた自衛官の一人。
高さが十メートルほどあり、遠目に空港も見える道路橋。【50】と書かれた標識が倒れ、側溝には前輪の浮いたジープ。
「……脱輪か。ロープやジャッキを使って、抜け出せないか試してみよう」
ジープの置かれる状況を見て、上村隊長は冷静に対応を告げる。
地震が発生した時刻にも、見回りや調達に出ていた自衛隊員。揺れに際して標識が倒れ、ハンドルを切って回避。運悪く進行方向に側溝あり、タイヤが嵌ってしまったのだ。
「ここからだと、空港はかなり小さく見えるな」
今は拠点としている新千歳空港も、道路橋から肉眼では極めて小さい。左右に展開する建物の全容が確認でき、駐車場に止められるは車の数々。
話しを聞き知っていることから、右方の国際線ターミナル。駐車場には縦に長い観光バスがあり、ピンクの車体と目立った姿が確認できる。
「距離があるからね。三時の方向。向こうに行けば、千歳の街だよ」
道路橋の上にて隣に立ち、サチは視線を飛ばし告げる。
側溝から道路へ戻す作業は、慣れた自衛官たちが行う。同行しても手空きとなっては、高所からの景色を堪能していた。
「千歳の街か。行く機会は、あまりなかったな」
東京から北海道へ来たときも、目的地を目指し通過した場所。
新千歳空港にアクセスするため、一直線に長い道路と線路。先にある景色の果てには、人工的な建物が小さく見える。
「街より前。駅の右側には、アウトレットがあるよ」
サチが顔を向ける千歳駅の横には、千歳市でも有名な商業施設。
衣類や飲食店とテナントが個別に展開され、野外を歩いて回る形式のアウトレットモール。北海道とテレビをつければ、CMでも放送されていた場所。休日にはヒーローショーを含め、様々なイベントが行われていたらしい。
「……なんだ? あれ?」
長く続く道をぼんやりと眺め、千歳市の方向にて違和感。
道路を埋め尽くすよう、横に広がる黒い線。今まで見たどの景色にも整合せず、目を凝らしても正体を掴みきれない。
「何? 何かあったの?」
隣に立つサチは双眼鏡を持ち、千歳市の方向を覗き始める。
隣にてサチの様子を観察していると、見る見る雲っていく表情。緊迫した感じで息を飲んでは、ワナワナと震える唇。
「上村隊長。非常事態です」
サチは振り向き様に告げ、流れで受け取る双眼鏡。
覗いて見ると道路上には、道路を埋め尽くすほどの屍怪。確認できる前列だけでも、数百はくだらないだろう。後列に終わりが見えないことから、死者の行進は数千規模に間違いない。
「蓮夜。双眼鏡を」
「はい」
非常事態を知り上村隊長も確認と、差し出す手に双眼鏡を渡す。
「サチとアルバート隊は、空港に戻って有事の知らせを」
「なんだよ! あの数! 見たことないぞっ!!」
指示を出す上村隊長は双眼鏡を渡し、受け取ったフレッドも覗き動揺を露わ。
「できることをやろう。なんとか空港に、近づけさせないようできれば」
非常事態となっても上村隊長は、冷静沈着に物事を考えていた。
強固な造りにバリケードと、対策も万全である新千歳空港。それでも数千規模の屍怪に襲われるなど、誰の目に見ても想定外。強襲につき耐えられるかは、神のみぞ知る話でしかない。




