第145話 空の玄関口6
「そんなことはないぜ。修理をしている格納庫も見せてもらったし。パイロットにも会ったからな」
三階のラウンジにて面談し、話が決まって暫くしてから。山際所長には空港外の格納庫に案内され、大きな翼とエンジンを備えた飛行機を確認。
数人の整備士が修理をする姿に、パイロットとされる人物も紹介。山際所長の発言に嘘や偽りはなく、言葉の通り助力を惜しまぬ姿勢だった。
「ふん。なら、まあいいさ」
誠意ある対応を聞いてフレッドは、不機嫌そうに再び顔を背ける。
「フレッドはなんで、そんなに山際所長を嫌うんだよ?」
「何も、限った話ではないさ。遠巻きに敬遠してくる奴に、不遇な扱いをする奴ら。全てが気に食わないだけだ」
調査と興味を混ぜた問いに、フレッドが語るは実体験。
屍怪の襲撃により基地を失い、流れ着いたという新千歳空港。初期の頃は歓迎されている雰囲気であったと聞くも、時間の経過で態度は変化していったと言う。
「山際所長と自警団が基礎を作り、新千歳空港を安定に導いた。コミュニティ同士が合流すると言うのは、少なからず軋轢が生じるものだ」
コップの水を一口飲み、上村隊長は実情を告げる。安定したコミュニティで、画一された立場。
しかし新たな人間が加われば、時より一つの波を起こす。それが五十人と大人数で、武器を持ち力ある自衛隊。本来ならば頼りになる存在も、立場を脅かす波乱となれば別。
「保身や妬みに嫉み。全体の利益よりも、個人の利益を優先。人間の欲や感情というのは、この上なく難しいもの。終末世界になって、今一度。再び考えさせられるとは、難儀な問題だ」
どこか悟りを開いた様子で、上村隊長は人間性を考察していた。
人類が誕生し近代になっても、人々の間にあったのは争い。それが国同士であれ、個人同士であれ。今回の自警団と自衛隊の騒動も、人間の性と言えるのかもしれない。
***
「なんか揺れてない?」
対面に座るハルノは落ち着きなく、周囲を見渡しつつ発言した。
発言を受け正面を見ては、ガタガタと震える丸テーブル。新千歳空港も建物が左右に揺れ、ギシギシと音を立てている。
「慌てず冷静に。頭を低く防御に専念」
平静を保ったまま上村隊長は、迅速かつ的確に指示を飛ばす。
上村隊長の発言もあって、誰しも混乱なく対応。冷静沈着に自己防衛へ動き、揺れは次第に収まっていった。
「みなさん!! 大丈夫ですかっ!?」
吹き抜けた大広間の三階にある手すりを掴み、身を乗り出し叫び声を上げるは山際所長。
地震による揺れが収まり、時間にして僅か一分ほど。足早に二階へ下りて来ては、人々の安否確認へ駆けている。
「ふん。地震くらいで。取り乱してみっともない」
慌て落ち着きない様を見てフレッドは、上に立つ者の姿勢ではないと苦言を呈す。
山際所長は人々に声をかけて回り、心配しているのは明らか。災害時の行動と是非はともかく、人を大切に思う姿勢は見てわかる。
「うちの隊長を見てみなよ。ドンと構えて、落ち着きある姿」
「上村隊長は大きな地震を、二回も経験しているからね。多少の地震なら、動じもしないよ」
地震に対する姿勢の比較に、フレッドとサチは二人を見て言う。
上村隊長は関西圏にて、大地震の被災経験あり。北海道の道央地震では、自衛官とし震災処理を行なったとの話。
「そうなんですね。実は仲間だった自衛官にも、道央地震の被災者がいたんですよ。自衛官に助けてもらったって言っていたから、もしかしたら上村隊長に会っているかもしれませんね」
聞き知った言葉が出たことによって、陵王高校で聞いた話を回顧。
陵王高校にてともに過ごし、指揮をしていた自衛官たち。青年自衛官のヤマトは、道央地震にて被災したと言っていた。
「その話は、落ち着いてからにしようか。フレッド。サチ。ジョシュ。隊員たちを四組に分けて、怪我人と建物を確認。もしもの場合に備え、銃を所持するよう伝達」
安否確認と安全確認を優先とし、上村隊長は本線へ話を戻す。地震や洪水などあったときも、事が収まればよしという話ではない。
災害による被害状況の確認と、被害あったとすればその対処。今は屍怪いる終末世界のため、建物やバリケードの損壊は穴。心を穏やかに落ち着ける状況でもなければ、気を引き締め動かなくてはならない。
「了解!!」
「助けが必要ならレスキュー! みんなで駆けてハリーアップ!」
フレッドとサチは声を合わせ、ジョシュもラップ口調で行動開始。
国内線に国際線と建物あり、面積の広い新千歳空港。四階建てとなれば見るべき点も多く、急ぎ確認すべき場所はたくさんあった。




