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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(上)
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第144話 空の玄関口5

「一ノ瀬君は上村隊長たちと、見回りや調達に。朝日奈さんは空港内にて、自警団として治安の維持。この仕事内容でどうですか?」


 翌日にも山際所長から呼び出され、再び三階のラウンジにて面談。

 仕事内容の打診は、自衛隊と自警団。ハルノについては怪我の影響あり、空港内での仕事を要望していた。


「一ノ瀬君。ちょっといいですか?」


 仕事内容を受諾し退出しようとしたところ、山際所長から再び座るよう促された。


「ここだけの話。自衛官の中にクーデターを、画策しているという噂があるのです」


 二人きりになったところで、山際所長から突然の物騒な話。

 新千歳空港に存在するは、自警団と自衛隊の二組織。主導権の争いについては、以前にも聞き及んでいる。


「……クーデターって。本当なんですか?」


 もしも自警団と自衛隊が衝突すれば、それは生存者同士の争い。

 新千歳空港に三日もいれば、意識せずとも聞こえてくる噂。自警団と自衛隊の折り合いが悪いのは、自然と耳に入り当然に知るところ。


「それを一ノ瀬君。君に調べてもらいたいのです」


 山際所長が仕事に関連を付け、本当に打診したかったこと。それは自衛隊の内部に潜り込ませ、各々の動向などを探る内部調査。

 空港関係者と自警団では、警戒されるのは必然。部外者ならば気が緩むと、白羽の矢が立ったようだ。


「何もなければ、それで良し。無実の証明と考えてください」


 物騒な企みなどなければ、何もしないと山際所長。恩義ある自衛隊の内部に潜入し、動向を探るなど背信的で嫌な役目。

 しかしクーデターとは大事な上に、山際所長たっての頼み。飛行機の件を一任している点もあり、無下に拒否することもできなかった。


「上村隊長には話を通していますから。何かあったら、まずは報告を。重大な案件ですから、直接にお願いします」


 やむなく首を縦に振り、山際所長から重い役割。

 しかしそれでも、上村隊長は了承するとの話。となれば罪悪感も多少は薄れ、緊張緩和の役に立てればと思った。



 ***



「話は聞いているよ。見回りと調達に加わるって」

「これからは、フェロー! どんな危険も、みんなでフォロー!」


 木の板が張り付けられた玄関口にて、女性自衛官のサチと黒人自衛官のジョシュ。

 二人は特徴的な迷彩服を纏い、ピンク髪のサチは頭に黒縁のゴーグル。金髪オールバックのジョシュはサングラスと、象徴的なアクセサリーを装備済み。


「ふん。役に立つとは思えないけどね」


 ブロンド髪の白人自衛官フレッドは、変わらず刺々しい態度。

 滞在する自衛官たちにも、表立っての話は通し済み。フレッドはクーデターの企てにつき、要注意人物との指摘をされていた。


「上村隊長から。銃を持って。屍怪に襲われたときには、頭を狙って撃つのよ」


 装備につき頼まれていたと、サチから受け取るハンドガン。

 アサルトライフルやサブマシンガンと比較し、片手で収まる小型の可愛い物。それでも黒光りするハンドガンは、金属製で手にズッシリと重みある。


「俺には刀があるから、問題ないんですけどね」

「そういうわけには、いかないのよ。みんなが銃を持っているのに、一人だけなしとはね」


 背負う黒夜刀に触れて言うも、主武器が銃器と比較してはとサチ。

 自衛官たちが持つのは全て、殺傷能力が高い銃器。近接武器である刀のみでは、戦闘面にて容認できぬとの決定だ。


「よし。みんな揃っているな。それじゃあ、出発しようか」


 遅れて登場した上村隊長も合流し、正面玄関前に止められるジープへ乗車。

 新千歳空港に滞在する自衛官は、おおよそ五十人程度。空港自警団と空港を守る者いようとも、半数近くは防御へ残しているらしい。



 ***



「どう? 外への見回りに、調達は慣れた?」


 新千歳空港二階の吹き抜けた大広間にて、紙コップを片手に座るサチからの問い。

 四人が囲むよう着席可能な、ステンレス性の丸テーブル。周囲にはテーブルが十卓ほどあり、自衛官が座る中での一卓。サチを十二時の方向に、三時の方向にジョシュ。九時の方向にはフレッドと、三人が着席している。


「もう一週間ですからね。元から外を動いていましたし。自然と慣れましたよ」


 新千歳空港で避難者たちと生活を続け、与えられた仕事の見回りに調達。

 同じ仕事と苦労に時間を共有し、自然と打ち解けてきた関係。今では互いの名前も、敬称なく呼び合う仲である。


「ハルノはどう? 自警団の仕事?」

「問題ないですよ。自警団の人たちも、みんな優しくしてくれて」


 コーヒーを飲むサチの質問に、ハルノは日々の経験から応えている。

 新千歳空港で過ごす中で、見えてくる人々の人間性。気さくには話しかけてくる人や、食料などお裾分けしてくれる者。避難者を含め自衛隊に自警団と、誰しも基本的に人当たりは悪くない。


「蓮夜にハルノ。二人も食事かな?」


 空席であった隣のテーブルを確保したところ、トレーにカレーライスを乗せた上村隊長の登場。

 新千歳空港二階の大広間は、避難者へ食事の配給場所。料理は婦人部により調理され、避難者全体へ振る舞われていた。


「蓮夜もハルノもベリーナイス! オレたち仲間のベストフレンド!」


 ジョシュは相変わらずの、独特なラップ口調で言う。奇人変人の部類に見えるも、発言の内容は基本ポジティブ。そのため嫌味や悪意と言ったものは、基本的に感じない。


「一週間。飛行機の修理なんて、本当にやっているのかな?」


 外方を向いていたフレッドは、含みある態度でポツリと呟く。


「どう言う意味だよ?」

「所長の山際はいつも、労働力を欲していた。飛行機の修理は、引き留めるための嘘。実際は修理を行なっておらず、無償の労働力とし使われているって話さ」


 発言の真意を確かめるため問うと、フレッドは滑らかな口調で考察を落とす。

 新千歳空港ではどんな避難者も、基本的に受け入れるという姿勢。山際所長は人の数こそ、力とも説いていたらしい。


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