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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(上)
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第141話 空の玄関口2

「よし。見回りはこのくらいにして、撤収しようか」

「イエッサー!!」


 上村隊長の発言により、動き出す自衛官たち。迷彩服の集団はとても迅速で、日頃の訓練が見てわかる。


「君らもくるといい。話の詳細は、基地で聞こう」


 上村隊長に促されては、自衛隊車両のジープへ。置いてきた二台の自転車は、自衛官たちが運んできてくれるらしい。


「基地って。自衛隊基地ですか?」


 タイヤが大きく車体の大きい、自衛隊車両の迷彩色ジープ。

 運転手はアルバートで、助手席には上村隊長。後部座席にはハルノと二人で、誘導された席に座っている。


「今の基地は自衛隊基地ではなく、北海道における空の玄関口。新千歳空港には民間人と、自衛官の家族も避難している」


 上村隊長が向かう先とするのは、一つ経由地としていた空港。仮に飛行機が飛べるとするなら、東京までの旅路はとても楽になるだろう。


「これが今の……新千歳空港か」


 ジープの窓から前方に見えてくるは、全容が掴めぬほど大きな建物。広い敷地には立体に青空と駐車場が完備され、大型バスに乗用車と残される車がチラホラ。

 右方の長方形をした建物は、海外と繋がる国際線ターミナル。左方にある扇状の建物は、国内と繋がる国内線ターミナル。中央には二百メートル弱の連絡通路が置かれ、建物を繋ぐ形で一直線に伸びている。


「正面入口に」

「イエッサー」


 上村隊長が停める場所を指示し、アルバートは国内線の入口へ向かっていく。

 東京から北海道へ来るために、使用したこともある新千歳空港。一階のガラス張りであった所は、全て木の板が打ち付けられ補強済み。外から空港内の様子は、全く確認できない状況だ。


「お帰りなさい。上村隊長」

「何か変わったことはなかったか?」


 正面入口にて警備をしていた自衛官二人に、迎え入れられる上村隊長。

 警備する自衛官が持つのは、日本にして珍しい銃器。銃口が長くマガジンの飛び出たアサルトライフルは、軍隊において最も一般的で連射に単射と汎用性ある代物。もう一方の銃口の短いサブマシンガンは、反動が小さく連射性能に優れた銃である。


「実は……」

「……やれやれ、困ったものだな」


 内密にと耳元で囁く自衛官に、上村隊長は眉をひそめる。


「二人とも、待たせて悪かったね。空港を案内しよう」


 話しに区切りがついたようで、案内役を担うと上村隊長。後続の車両からはフレッドとサチが下車して、どうやら二人も同行するようだ。


「どのくらい生存者がいるんですか?」


 先行する背中に続き案内されるまま、階段を一段二段と上って二階。出発ロビーとトレーが置かれる保安検査場を前に、広い廊下と座席が幾つも置かれる場所。元気に駆け回る小さな子ども四人と、座って談笑する四人の母親と思わしき人。

 各種お土産店が並ぶ通りを抜け、吹き抜けた空間となる大広間。金網状に設計された天井は高く開放的で、床のタイルは枠を黒色に内を灰色で正方形に連続し形成。二階と三階のショップに囲まれるよう作られ、エスカレーターにエレベーターもあり洗練された雰囲気である。


「現在の避難者は、三百人ほどと聞いている」

「全く良い気なものさ。外へ出ての見回りや調達。何もしてない癖に」


 空港の実態を教えてくれる上村隊長に、フレッドは不満を述べている。


「何もしていないとは、聞き捨てなりませんね。空港を警備しているのは、我々の空港自警団だと言うのに」


 三階からエスカレーターを歩き下りてくるのは、上向きにカールされた前髪がフワリと浮く男性。

 ストライプ調のグレースーツを着こなし、革靴は光り輝き整えられた身なり。キラキラとテカる唇に、体は細く身長は平均程度と一見。声質は一般的な男性よりも高く、どこか中性的な雰囲気ある人物。


「チッ! 嫌な奴が来やがった」


 露骨に嫌な顔をしたフレッドは、舌打ちをしてそそくさと退散。


「おや? そちらの二人はお見受けしませんね?」

「朝日奈ハルノです」

「一ノ瀬蓮夜です。自衛官たちに助けられ、空港へ着きました」


 見ない顔だと男性に問われて、ハルノと揃って自己紹介。


「そうですか。結構。結構。わたしは新千歳空港の所長。山際(やまぎわ)と言います。以後、お見知りおきを」


 丁寧に自己紹介をする山際所長は、五十七歳で空港自警団もトップの人物。

 背後には体格の良い二人の男性が立っており、黒いパンツに白のアウターで統一。空港自警団を証明するよう、自警団と書かれた緑の腕章をしている。


「それはそうと。空港自警団の我々に対し、無能とも聞こえる発言。実際と異なっては、承服できませんね」


 山際所長が率いる空港自警団は、主に空港内の治安維持と警備が仕事。

 外仕事となる自衛隊に対し、内仕事となる空港自警団。互いに役割をハッキリとさせ、分担し日々を過ごしているようだ。


「すみませんね。フレッドにはあとで言っておきますから」

「頼みますよ。上村隊長。役割分担に関しては、話し合って決めた案件なのですから」


 上村隊長は意見を聞き入れ、山際所長と二人は去っていく。

 新千歳空港の外と内なれば、大きく異なるはリクス。屍怪いる世界に外仕事となれば、フレッドの言い分にも一定の理解を示せる。


「なんか、大変そうですね」

「いやはや。終末世界になっても、人間関係は大変なものだ」


 ただならぬ雰囲気に堪らず問うと、上村隊長は苦笑いをして応えていた。

 空港関係者で結成される自警団と、外部から参入した基地所属の自衛隊。どうやら二つの組織間には、多少の溝があるようだ。


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