第140話 空の玄関口1
「クソっ!! 何体いるんだよっ!?」
東京を目指すため北海道を南下し、高さ十メートルほどある道路橋。
「戦っても無意味よっ!! 走って先へ抜けましょう!!」
ハルノは矢を放ち対抗するも、数的な差ありキリはない。
自転車を走らせ千歳市へ入り、時期に新千歳空港という所。前後を放置車と屍怪に囲まれ、窮地に陥っていた。
「ハルノっ!! 後ろだっ!!」
黒夜刀を振るって屍怪を倒し、顔を向けたタイミング。矢を放つハルノの背後に、一体の邪悪な影が迫る。
「きゃあっ!!」
ハルノは弓を盾とし防ぐも、車体へ押し付けられる展開。両手を防御に使い専念しては、屍怪に対し抵抗の手段はない。
「待ってろっ!! すぐに行くっ!!」
「動くなっ!! 撃つぞっ!!」
屍怪を屠り救出へ向かおうとしたとき、どこからか響く若々しい男の声。
顔を前に声のした方へと、前方に止まるトラックの上。伏せている人の姿を視認し、光る銃口が向けられていた。
「ドンっ!!」
息つく暇もなく、響き渡る発砲音。放置される車の頭上を進み、合間を縫って向かう弾丸。
「ガッ!!」
弾丸は屍怪の頭を命中し、首が右に弾けて体も。頭部からは血が飛散し力なく、ハルノを前に倒れて沈黙した。
「ジョシュ隊は右。アルバート隊は左から」
「イエッサー!!」
一人の人物が手を前に指示を出し、展開される迷彩服の集団。
左右に十名ずつと、総勢は二十名ほど。棍棒で膝を打っては頭を砕き、ナイフを使用しては頭部を貫いている。
「フレッド。弾の無駄遣いはするなよ」
「了解」
指揮官らしき人物が言うと、狙撃手だった青年も加勢へ。
「バンッ!! バンッ! バンッ!」
迷彩服の集団は拳銃をも、武器と所持している様子。そのため屍怪の殲滅には、さほど時間を要しなかった。
***
「ありがとう。助けてくれて」
場が落ち着き始めたタイミングにて、ハルノは戻ってきた青年に礼を言う。
「運が良かったな。見回りにきていて」
しかし青年の方はと言うと、顔を向けるだけで素っ気ない態度。ハルノの感謝を表す言葉にも、気に留める素振りはない。
「そうツンツンするな。フレッド。君たち、怪我をしていないか?」
指揮官らしき人物は近づき、襲われた身を案じている。
「っつ!!」
武器としていた弓を掴まれ、車体に押し付けられたハルノ。左肩を痛め軽度であるも、怪我を負ってしまったようだ。
「サチ。治療を」
「了解」
指揮官らしき人物の指示を受け、医療キットを持ち女性は治療を始める。
「千歳基地に軍属する、隊長の上村。後ろにいるのは、ジョシュとアルバート」
上村隊長は日本人の六十歳で、額が広く白髪の目立つ人物。肌にはたるみあって、目尻には細いシワ。
落ち着いた声と、身なりは年相応。一つ特徴的と言えば左目の上部に、南極大陸に似た火傷跡がある。
「助かるのも、ディスティニー。今日のあなたは、ラッキィボーイ!!」
手を前にラップ口調で言うのは、金髪オールバックの小柄な黒人ジョシュ。日本人と南米系のハーフで、サングラスをかけている。
「変わっているところはあるけど。ジョシュに悪気はないんだ」
フォローするよう言うアルバートは、茶髪で癖っ毛ある短髪の白人。日本人と欧州系のハーフで、自衛官の中でも頭一つ抜けて背が高い。
ジョシュとアルバートの軍歴は、二十年を超えるベテラン。年齢はともに、四十過ぎだと言う。
「俺は一ノ瀬蓮夜です。助けてくれて、ありがとうございます」
逃げ道なく手詰まりだったところに、突如として現れた救世主。危機的状況下において、まさに地獄に仏であった。
「ふん。余計なことをして手間をかけるくらいなら、外を出回らないで欲しいものだね」
刺々しい言い方で発言するのは、ブロンド髪で短髪の白人フレッド。日本人と北米系のハーフで、青い瞳に鼻は高く整った顔立ち。
年齢は二十六歳と、下から数えて次点。ハルノを屍怪から助けた際には、狙撃をした狙撃手である。
「治療は終わったけど。怪我もしているし。基地へ運んだほうがいいかも」
包帯を巻き処置をしたと言うのは、ピンク色の髪にゴーグルをしたサチ。日本人とアジア系のハーフで、二重まぶたにハッキリとした顔立ち。
とても落ち着いた雰囲気であるも、二十歳と自衛官では最年少。上村隊長を除く四人はハーフで、全員が流暢に日本語を話していた。




