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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(上)

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第139話 小さな盗っ人8

「ハルノ。二人と離れていてくれ。近づかないほうがいい」


 子どもたちに見せるのは、とても非情で酷な光景。言葉を受けてハルノ頷き、二人の肩を押さえて後退。

 大人の男であり、父親である田中さん。子どもの死に直面しては、精神的ダメージは甚大。光景を直視したまま、体を震わせ動けずにいた。


「ムシャムシャ……」


 こちらの存在に気づいていないのか、食事に夢中とスーツ姿の屍怪。

 獲物となる者を捕獲し、すでに満ち足りているのか。距離を詰め近づこうとも、襲ってくる気配は一向にない。


「……三葉ちゃん」


 倒れた少女の名前を呼びかけるも、白目を向いたまま反応なし。

 代わりに呼びかけに応じるは、スーツ姿で貪る屍怪。男性で年齢は若そうであるも、左目が陥没して隻眼。手に持つは引きずり出された腸で、顔を埋めては千切る仕草。顎を上下に何度も、不快な咀嚼音を響かせている。


「ウゥウウウ……」


 食事を邪魔されたと不服そうに、呻き声を漏らし始める屍怪。歯を強くギシギシと噛み締め、臓物を抱えたまま眉間にシワを寄せる。


「蓮夜君。下がっていてくれ」


 肩を掴まれ引き止められては、田中さんは進んで前に出る。今まで温厚そうであった細目も、吊り上がっては憤怒の表情。

 目の前にいる屍怪は、娘を奪った敵。ツルハシを持ち怒りに震える手で、闘う覚悟を固めたようだ。


「ふんっ!!」


 食事を続ける屍怪の前に立ち、田中さんは力一杯にツルハシを振り下ろす。

 先端の尖ったツルハシは、頭蓋を砕いて脳を破壊。決定的な一撃を受けた屍怪は、臓物を抱えたまま地に伏した。


「三葉っ!! どうして、こんなことに……」


 絶命した三葉ちゃんに触れ、田中さんは悲しみの涙を流す。怒りで吊り上がった目も、垂れて慈愛に満ちたもの。

 しかし屍怪に噛まれたとなれば、時期に起こるだろう転化。時はわからずとも遅かれ早かれ、避けられない現実である。


「ウァアヴゥ!!」


 時間にして三十分ほど経過した頃か、三葉ちゃんは突如として奇声を上げ始める。

 ハルノに頼み一花と次郎の三人は、先にキャンピングカーへ帰宅させた。家族が屍怪になる姿を、見せないようにするためだ。


「田中さん。これ以上は……」


 本来ならば腹を暴かれ、動けるはずない体。先ほどまで絶命していたはずも、手足をバタバタと激しい動き。

 それでも田中さんは必死に、全身を抑え込もうとしていた。


「くぅう……」


 転化と打つ手なしの状況に、田中さんは悲痛な声を漏らす。

 現状できることと言えば、つつがなく葬ること。きちっと止めを刺し、弔うことくらいであった。


「ここは俺が……」


 父親が娘に手を下すなど、想像を絶する苦行。

 幸か不幸か偶然にも、代役可能なタイミング。父親である田中さんが止めを刺すより、他人がやるべき役目に思えた。



 ***



「どうなったの?」

「全て終わったよ」


 不安気な表情で待っていたハルノから、キャンピングカーの外にて詳細を問われる。

 屍怪化した三葉ちゃんには、止めを刺して土葬。墓標には木を立て、花を供えてきた。


「なんで三葉ちゃんは、花畑へ行ったんだろうな?」


 早朝から一人で花畑へ行くなど、普通に考えて理解できぬもの。子どもの起こす行動とは、突飛で読めぬものも多い。


「花飾りを作るために、花畑へ行っていたらしいわ。迎えにくる母親のために、練習していたって話よ」


 ハルノが三つ子の二人から、聞いて知った動機。

 花畑へ行っていたのは、初回にあらず何度も。父親の田中さんが知らぬところで、三つ子が揃ってサプライズを考えていたようだ。


「ねぇ!! 三葉はっ!?」


 花畑からキャンプ地に戻った所で、次郎は質問を投げかけている。

 八歳とまだ心身ともに幼く、死を受け止めるに難しい年齢。ハルノに田中さんと相談して、真実は伏せることになった。


「三葉は……お母さんが迎えに来て、先に連れて行ったんだ」

「えっえー!! ズルいっ!! 僕もお母さんに会いたいよっ!!」

「それを言ったら、ワタシもよっ!!」


 田中さんがついた嘘に、疑いなく次郎に一花。


「先に行っているだけだから。元気していれば、いつか必ず会えるから」


 田中さんは声を絞り出すように、二人を抱き締め言っていた。

 田中さんが発言した言葉には、捉え方により二つの解釈。目的地へ先行している現実的なものと、寿命が尽きれば会えるという未来的なもの。

 田中さんが真に伝えたかったのは、間違いなく後者の解釈。それでも純粋な子どもである一花と次郎は、深読みせず前者と捉えているようだった。


「陵王高校に着いたら、俺たちからの紹介だって伝えてください」


 田中家との別れに際して、穏便に進むよう伝言。田中さんたち三人はキャンプ地を離れ、避難所となる陵王高校を頼る決断。

 子どもが二人いようとも、陵王高校なら安心安全。大人も多く日々を生きていくのに、協力し生活していけるだろう。


「バイバイッ!! 兄ちゃんっ!!」


 曇りなき眼で次郎は、元気に手を振っていた。キャンピングカーに乗って、走っていく田中家の三人。

 現在は東京へ向かい、始まった旅の途中。料理屋へ戻っては自転車に乗り、進行方向は田中家と真逆である。


「にしても早朝から、一人で行っていたんだな」

「その件に関しては、少し気になるところがあるの」


 自転車に跨り出発する前に、ハルノに聞いたタイミング。今まで花畑には何度も通っていたとの話であるも、三つ子は早朝に行くことはなかったと言う。

 キャンピングカーにて三つ子は、今日の別れにつき話していたとのこと。三葉ちゃんは話し合いにつき、花飾りを渡す提案をしていたらしい。


「それって、俺たちのタメだったのかよ」


 見えぬところの気遣いが原因で、起きてしまった最悪の事件。知らねば何もできずとも、なんとも後味の悪いものであった。


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