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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(上)

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第138話 小さな盗っ人7

「仕方ないっ!! 出るぞっ!! ハルノっ!!」


 気づかれたとなればもはや、待機の効果は期待できない。

 となれば囲まれる前に、自発的に車を出る決断。田中家と情報を共有するため、キャンピングカーにて合流を目指す。


「何事だっ!?」


 騒ぎを聞きつけキャンピングカーから、顔を出す顎髭の伸びた田中さん。黒髪の短髪には寝癖あり、今まで寝ていたのは明らか。


「屍怪ですっ!! それも一体や二体じゃないっ!!」

「なんだって!?」


 危機的な状況にいることを伝え、田中さんは細い目を今までになく開眼。キャンピングカーからツルハシを持ち出し、屍怪と戦う臨戦態勢になった。


「ハルノは子どもたちと車内にっ!! 合図をするまでドアを開けるなよっ!!」

「わかったわっ!!」


 子どもたちにパニックを起こさせないため、ハルノをキャンピングカー内へ送り込み施錠。迫りくる屍怪とは田中さんと二人で、武器を持ち対峙する形になった。


「うぉおおおっ!!」

「ふんっ!! ふんっ!!」


 刀身が漆黒の黒夜刀を振るい、田中さんもツルハシにて対抗。

 キャンプ地に集まる屍怪は、一目の目算で十体前後。キャンピングカーを背に応戦しつつ、互いをフォローし合う協力体制。それでも二人での戦いは数的な不利あり、とても逼迫する状態だった。


「蓮夜君っ!! 数が多過ぎるっ!! 車に乗って、この場を離れようっ!!」


 ツルハシにて屍怪の頭を潰し、奮戦を続ける田中さんの一言。

 戦闘に巻き込まれた椅子の脚は折れ、バーベキューコンロは倒れて炭が散乱。食器は割れて破片が散らばり、テーブルは真っ二つになって無残な姿。ツルハシにより乗用車のフロント部分は貫かれ、舌を出したまま屍怪が倒れる。生活拠点であったキャンプ地は、酷く荒れた様になってしまった。


「蓮夜!! 車内に三葉ちゃんがいないわっ!!」


 撤退を考え始めたところに、窓を開けたハルノからの急報。人数が揃っていないとなれば、場を放棄し逃亡もできない。


「田中さん!! 俺から少し、離れていてくださいっ!!」


 注意をしてから黒夜刀を鞘に収め、鞘上部にあるレバーを横にスライド。

 安全装置を解除しては、持ち手にできたトリガー。引くと同時に刀身は高熱を帯び、瞬時に赤く染まっていく。


「焔」


 黒夜刀・焔による斬撃は、斬るというより焼き斬る。

 時間制限こそあるものの、攻撃力は格段に上昇。負担を軽く全てを柔らかに、鉄すら斬れる代物だ。


「焔連撃」


 赤き刀身に意志を乗せて、振るい放つは焔の連撃。キャンプ地にいる屍怪の全て、敵意ある者の全てが攻撃対象。

 斬りつけると半身が焼き斬れ、身動きが取れなくなる者。川岸を歩く次の相手にも、地を蹴り寄って即座に一斬。テントを倒す屍怪にも斬撃を与え、キャンプ地にいる全ての無力化を図る。


「……なんとかなったようだ」


 荒らされてしまったキャンプ地を前に、何より田中さんは安堵している様子。

 数刻前までは生活拠点とし、形ができていたキャンプ地。今ではバーベキューコンロや、テーブルに椅子やテント。キャンプ道具の一切が破壊され、周囲には倒した屍怪が転がる。

 巨大な嵐を乗り越え、助かったのは命。最も大切なものを守り抜き、それでも失ったものに喪失感を覚えてしまうくらいだ。


「もう大丈夫だせ」


 森や川岸にキャンプ地と、一通り安全確認を終了。キャンピングカーで待つみんなに、危機は去ったと合図する。


「隠れていないか探したんだけどっ!! やっぱりいないわっ!! 三葉ちゃん!! どこへ行ったのかしらっ!?」


 屍怪の一掃から一息つく暇もなく、ハルノは慌てた様子で現状を告げる。

 起床し周囲を見たときには、三葉ちゃんの姿はなかった。外にいるとしたならば、屍怪が出現する以前。襲来するもっと前から、外出していたことになる。


「三葉ならきっと、あそこじゃないかしら? 良い場所って言って、お気に入りの場所があるの」


 行く先に心当たりがあるようで、一花は話を聞いて告げる。

 聞き覚えのある、良い場所との表現。それは昨日の出来事で、三葉ちゃんが発していた言葉だ。


「それはどこなんだっ!? 一花!!」

「痛いわよっ!! 離してっ!! 教えるからっ!!」


 必死の形相で腕を掴み問う田中さんに、一花は顔を歪めて訴える。

 父親である田中さんも知らぬ話で、焦りから力の加減を間違える失態。心配なのはヒシヒシ伝わってくるも、案内役は一花と次郎を頼る他に手はなかった。



 ***



「向こうにある丘の方向よっ!!」


 一花を筆頭に浅瀬を渡って対岸へ進み、森の斜面を歩き小高い丘へ。

 一面の景色が見渡せる高地にあり、広く開放的な場所となる小高い丘。先ほどまでの木々ある森と異なり、黄色い花が咲き誇る花畑となっていた。


「森を抜けた先に、こんな場所があったんだな」


 名もわからぬ黄色い花は綺麗で、一面に広がっているから圧巻。

 しかし今は行方がわからぬ、三つ子の三葉ちゃんを探すとき。綺麗な光景を前にしても、見惚れている場合ではなかった。


「ガシュッ!! ガシュッ!!」


 黄色い花畑を全員で歩いて探し、前方から聞こえてくるは謎の音。近づくと音の発生源たる周囲では、黄色ではなく赤い花が咲く。


「ガシュッ!! ガシュッ!!」


 赤い花畑の中央にて捉えるは、膝を地につけるスーツ姿の背中。両手を何度も口元へと運び、何かを貪っている様子だった。


「……うっ!!」


 屍怪が貪りし対象の存在を見て、言葉に詰まり愕然と絶句する。

 腹が裂かれ臓物を貪られているのは、仰向けで倒れる小さな幼い少女。すでに絶命しているようで、目の奥に光は欠片もない。


「……三葉」


 存在を認知した田中さんは、ヨロヨロとした足取りで接近。

 腹を裂かれ貪られていたのは、田中家の三つ子である三葉ちゃん。周囲に咲く赤い花は、本当の色にあらず。屍怪に襲われて飛散し、付着する血だったのだ。


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