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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第一章 終わりの始まり

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第13話 生と死の決断

「啓太! 下がってろ!!」

「……おい。蓮夜。それ、どうする気だよ?」


 漆黒に煌く刀を見て、怯み後退する啓太。

 これから発する言葉は、その答えにもなるだろう。


「その人から離れろ! 離れなければ、腕を斬り落とすぞ!!」


 天高く刀を上げ、長髪女性に警告。


 ……なんだよ。ここまで言っても、反応なしって。正気かよ。


 しかし長髪女性の行動に、一切の変化はなかった。

 それどころか、何も聞こえてない素振り。畑中さんの腕を噛むという凶行を、一心不乱に継続させている。


「蓮夜君! やってくれ!!」


 苦悶の表情を浮かべる、畑中さんの後押し。

 何をやっても離れないとなれば、畑中さんの限界も近いようだ。


 本当に……やるしかないのかよ。


「蓮夜君! 早くっ!!」


 強く催促する畑中さん。腕からは血が滴り落ち、地に赤い斑点模様が描かれてゆく。

 そして迷いの中でも、覚悟を決めた。


「うわああああ――――ッ!」


 憤り。憂い。悲しみ。晴らす術がない感情を咆哮に変え、長髪女性に刀を振り下ろした。


 狙いは腕だっ! 腕を斬り落とせば、さすがに離れるはず!


 刀を通して伝わる、肉を裂き骨をも砕く感覚。

 血しぶきを上げ、落下する左腕。『斬る』という行為は、疑いなく『切断』という結果をもたらした。


 マジで……斬っちまった。


 転がり落ちた左腕。切断面からは赤黒い血が流れ、小さな血溜まりが形成されてゆく。

 緊急事態だったとは言え、『斬った』という行為に自責。想像以上の後悔と罪悪感に、心が荒みそうだった。


「まだ……離れませんよ」


 美月の震える声は、予想を裏切るもの。動揺を隠せぬ、ハルノの表情。そしてすぐに、視線を戻す。

 左腕を失った長髪女性。しかしそんな中でも、畑中さんの腕を噛み続けていた。


「なんなの。この人」

「正気じゃねぇ」


 不安と恐怖が入り混じった、ハルノと啓太の声。

 噛まれ続ける畑中さんは、再び。突き離そうと、長髪女性を殴り始めた。


「……なんだよ。本当に」


 飲み込めぬ事態に、息を飲んで困惑。

 そんな中でも畑中さんは拳を振り抜き続け、一発が顎にクリーンヒット。


「ゴツっ!」


 鈍い音を響かせ、ついに長髪女性は腕から離れた。これを好機と見た畑中さんは、隙を見逃さず。追撃の突き飛ばし。

 突き飛ばされた長髪女性は、ノロノロと後退。瓦礫に足を取られ、バランスを崩し転倒した。


「大丈夫ですか!?」


 駆け寄ってくる、美月とハルノ。畑中さんは負傷した腕を押さえ、その場に蹲ってしまった。


「どうしたと言うんだ。彼女は……」


 理解不能な長髪女性の行動に、畑中さんは疑問を呈している。

 しかし今は、何より治療。刀を背負って肩を貸し、畑中さんと僅かに後退。タオルを持った美月は、腕に巻いて止血に取り掛かった。


 松田さんは!?


 一段落したところで、もう一つの修羅場。松田さんの方へ目を向ける。


「やっ、やめろ! はっ、離せえええ!!」


 刹那。別の場所から男性の叫びが響き、そちらに視線を奪われた。

 叫び声の主は、ともにシェルターを脱出してきた男性。こちらと類似する者に掴まれては、体を押し倒さんと襲われていた。


「……どうなってんだよ」


 気づけば周囲を、多くの『人』に囲まれている。しかしこれらは全て、『救助に来た』というわけではないだろう。


「きゃあああ!!」


 危機迫る、女性の叫び。窮地に追いやられているのは、自分たちに限ったことではなかったのだ。


 新たに……別のかよ。

 気づいた人たちも、混乱。パニックになりかかっていやがる。


 しかしとは言え、まずは松田さんの方へ意識を戻す。 

 そこでは殴ったり押し返したりと、抵抗を続ける松田さんの姿。しかし依然として二人の男性に襲われ、今にも倒されてしまいそうな状態だった。


「コイツら、絶対におかしいじゃん。痛がってる素振りもねぇし。普通の人間じゃあねぇってっ!」


 畏怖して啓太は後退し、存在に異議を唱えている。


 松田さんを助けるには、立ち上がった長髪女性。それに襲っている二人を、退けなくちゃならない。

 それに後ろからくる新手も、相手をしないとダメそうだ。


 立ち上がり、迫り始める長髪女性。後ろからも迫る、新たな存在。


 今でさえ、大変な状況なのに。周囲には、他のもいるんだ。俺たちは、逃げ切ることができるのか? 

 しかし……だからと言って、松田さんを見捨てるわけにはいかねぇ!!


 四方八方に危険が迫る状況。まさに背水の陣。

 しかし松田さんを、見捨てるわけにはいかず。救出すべく、一歩を踏み出した。そのとき。


「行くんだ! 蓮夜君!!」


 松田さんは顔を向け、必死の叫びを響かせた。全身を掴まれ片膝は地に着き、もはや体の自由は効かないよう見える。


「でも……松田さん!!」

「私は、もうダメだっ! 蓮夜君たちまで、巻き込むわけにはいかないっ! 君たちは、先へ進むんだっ!!」


 精一杯の強がりを見せる松田さんは、自身よりこちらの心配をして背を押した。

 そして全ての言葉を伝えると、力を使い果たしてしまった様子。ついには二人の男性に、押し倒されてしまった。


「早く行くんだああああ!!」


 二人の男性に覆い被られながらも、松田さんの懸命な叫びが響く。


「おいっ! 助けないのかよっ! 早くしないと、ヤバいじゃん!」


 そんな中でも啓太は、救出に積極的な姿勢を見せていた。


 現実的に考えて、松田さんを助けるのは厳しい。

 行けば間違いなく、奴らに囲まれちまう。そうなればみんなの命を危険に晒し、場合によっては全滅だってありうる。


「…………行こう」


 悩み抜いた末の答え。


「マジかよ! 蓮夜!! 松田のおっさんを置いて行く気か!?」


 納得できないと、異議を唱える啓太。


「松田さんの覚悟を無駄にできない! 周りを見ろよ! 俺たち自身もヤバいんだ! 無理に助けに行って俺たちまで殺られちまったら、それこそ覚悟を決め逃がそうとしてくれた……松田さんに顔向けできねぇよ!!」


 松田さんの言葉を盾に、この場を離れる決断をした。

 もちろん納得しているわけではないし、できるはずもない。それでも打つ手なく、断腸の思いだった。


「くっそおおお!!」


 周囲を見回し窮地を自覚した啓太は、行き場のない憤りを叫びに変え響かせた。

 一連のやり取りを見ていた美月とハルノは、何も言葉を発さず沈黙。静かにかつ迅速に、撤退の準備を始めた。


 ……すまない。松田さん。


 心の中で懺悔すると、背を向け走り始めた。

 変わってしまった、札幌の街。後ろからは松田さんの断末魔が響き、命絶えるまで止むことはなかった。


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