第134話 小さな盗っ人3
「どこまで行くんだよ?」
「もう少しだよっ! もう少し!!」
明確な答えを教えてもらえず、次郎に手を引かれたまま森を進む。後ろには一花と三葉もいて、三つ子が全員と勢揃い。
「なんか……景色が変わってきたな」
手を引かれたまま進んでいると、次第に周囲の景色に違和感を覚える。ほんの少し前までは、緑に溢れていた森の木々。
しかし今ではどこか、葉が少なく枯れている様子。一体の季節が進んでいるのか、秋にしても早すぎる変化。
「ここだよっ!!」
目的地に到着したようで、次郎はようやく手を放した。
「……なんだよ。……ここは?」
森を進み連れてこられた場所には、直径十メートルほどのクレーター。
円形状に深く抉られた大地に、周囲では薙ぎ倒された木々。一部では黒く焼け焦げた木もあり、見た目は爆心地と言った感じである。
「何もない場所よっ! こんな所に来たって、つまらないじゃないっ!!」
初めてきたわけではないようで、勝手を知る一花は不満を述べていた。
「そんなことないよっ!! きっとここには、悪の星人が送り込まれたんだっ!!」
ヒーロー戦隊ものに憧れる次郎は、SFチックな展開を論じている。
しかしこのクレーターは、きっと終末の日にできたもの。他国の攻撃による爪痕か、もしくは全く別のものか。
「なんだよ? これ?」
クレーター中央の深くなる場所にて、キラキラと光る黒い破片を発見。破片は細く小さく指先サイズで、金属か鉱石なのかもわからない。
「綺麗な石です」
袖を引かれ顔を向けると、三葉が持つのは黒い石。
しかしクレーターに散乱する破片と異なり、小石サイズと比較して大きい。それにキラキラと輝き、光りも一段と光沢がある。
「この石って、なんなのかな?」
「わかりません。でも、この場所で拾ったの」
正体に疑問を抱き問うも、答えを知らぬと三葉。黒い石を大切そうに、ポケットへ入れてしまった。
爆弾の破片……とかじゃないよな。
今までの生活でも、見たことは一度もないし。
記憶の限りを探って考察しても、適合する答えは見つからず。キャンプ地にいるハルノに問おうと、黒い破片を持ち帰ることに決めた。
「あの……わたしも、良い場所を知っていて」
「兄ちゃん!! 今度は釣りをしようよっ!! ここの川には、たくさん大物がいるんだっ!!」
発言する三葉を押し退けて、再び手を掴み主張する次郎。
「ちょっ……!! 三葉ちゃん。何か言いかけていたけど」
「いえ、大丈夫です」
手を引かれる姿に遠慮してか、三葉ちゃんは話を途中に中断。気分を害してしまったようで、そっぽを向いてしまった。
***
「何かしら? わからないわね」
ハルノは黒い破片を天にかざして見るも、正体につき心当たりはないと言う。
キャンプ地となる川岸へ戻ってきては、話をしていた二人と合流。田中さんから話を聞いて、事情を知ったハルノ。要点となる部分をかいつまんで、簡潔に説明をしてくれた。
「そんなことがあったんだな」
終末の日から今日まで、田中家に起きた出来事。屍怪の出現による混乱から逃れ、川辺を拠点にキャンプ生活。
日々の食事を賄うため川で釣り行い、必要時には町へ行き物資の調達。長い夏休みにきている感覚で、子どもたちも生活には慣れたもの。
「父親が一人で、子ども三人の生活か。かなり大変そうだな」
場所を問わず遊びたい盛りで、行動力ある子どもたち。当初は父親の言いつけを守るも、慣れてしまっては軽視も多々。
「次郎の行動範囲も、家族と離れていたしな」
本来ならば目の届く範囲に、居てほしいと言うのが本音。目の届かぬ場所まで離れては、緊急時に対処できないからだ。
「父親が一人で子ども三人を相手なんて、普通の生活でも難しい話よ」
ハルノも話す通りに、子育てとは大変なもの。生活面に教育面と些細なことで手がかかり、形を変えても終末の日より前と同様。
しかも田中家の場合は三つ子と、通常と比較し子どもは三倍。費やす労力も三倍となれば、田中さんの苦労は想像できない。
「せめて母親でもいれば、負担も軽くなるんだろうけど」
大人の保護者が二人いれば、費やす労力も分担し半減。
「……そうね」
しかし共感し頷くハルノから、聞いたところによる話。田中家の母親は終末の日からほどなく、混乱の中で屍怪に襲われ亡くなっている。
しかも子どもたちは、その事実を知らない。母親はあとから合流すると教えられ、今も信じ日々の生活を過ごしているらしい。




