第133話 小さな盗っ人2
盗っ人が進む森は斜面となり、下方では水音あり川がある様子。
背の高い木々が疎らに並び、雑草も多く生える森林。整備されていない斜面は凹凸あり、走るにとても大変な道であった。
「待てって言っているだろっ!!」
制止を求めるも反応なく、斜面を下っていく姿。盗んだリュックを背負い、跳ねるよう身軽な動き。
しかしそんな盗っ人の背中は、大人と比較し明らかに小さい。捉える前方の姿から、相手は子どものよう思えた。
「なろぉ!!」
相手が子どもであっても、盗っ人ならば手加減無用。
斜面が終わり森の合間に、平地と川へ出たタイミング。盗っ人の足が止まり、高さある岩の上から。前方へ宙返りをして立ち、子どもの行く手を塞いだ。
「どう言うつもりだっ!? 人のリュックを盗んでっ!!」
逃げ道を塞いだところで、行動と動機を追及。事と次第よっては、簡単には許せぬ話。
「すげーっ!! 兄ちゃん!! もしかしてヒーローの人っ!?」
リュックを盗まれ憤りある発言にも、子どもの反応は予想外だった。
小さな盗っ人の正体は、小学生低学年くらいの少年。Rの文字が入った緑の帽子に、赤いシャツに黒の短パン。怒られ責任の追及を受けているはずなのに、目をキラキラと羨望の眼差しを向けている。
「蓮夜!! 捕まえたのっ!?」
弓を背負いハルノも追ってきたようで、斜面を下り平地にて合流。
「ねーっ! ねーっ! 兄ちゃんっ! みんなに紹介したいからっ! 付いてきてよっ!!」
しかし困ったことに、少年に手を引かれる展開。ハルノも後ろに続き、付いていく他なかった。
「リンリン」
足元に張られる釣り糸に触れ、付けられる鈴が揺れて音を鳴らす。
「みんなっ!! 凄い人を連れてきたよっ!! 兄ちゃんはヒーローなんだっ!!」
少年に手を引かれ案内された先には、川岸でキャンプをする一家の姿。車高ある白いキャンピングカーに、連結するよう屋根だけのテント。バーベキューコンロとテーブルに椅子が置かれ、後ろには黒の乗用車が止められる。
そして向き合う先には、ツルハシを持った大男。頭には白い手拭いを巻き、目の細い強面の髭面。ポッコリと出た下腹が目立ち、白いTシャツに黒の七分丈パンツを着用。事態が飲み込めぬようで、仁王立ちのまま少年を見つめていた。
***
「すみません。次郎が迷惑をかけたようで」
少年に代わり謝罪をするのは、父親である田中岩男。声が低く迫力ある人物ながらも、実際は気遣い上手の優しい人であった。
「まあ、リュックが返ってきたから。俺としては問題ないですよ」
事情を説明してからは、キャンプ地に招かれる展開。今はお茶を前に出され、田中一家の話を聞いていた。
「次郎っ! 走り回るのやめなさいっ!!」
川辺にて注意をしているのは、長女の田中一花。黄色シャツにジーンズを着た、ショーヘアの明るい少女。
「待てぇー!!」
川辺にてトンボを追いかけているのは、長男の田中次郎。リュックを盗んだ犯人で、好奇心旺盛で活発な少年。
「うるさくて、すみませんね」
二人の様子を見て田中さんは、身を縮ませ頭を下げている。
「二人と一緒にしないで」
言って隣で読書しているのは、次女の田中三葉。下した髪を二つ結びにした髪型で、ピンクのワンピースを着た少女。
「三つ子ですか。なんか、大変そうですね」
話を聞いたところ、田中家は三つ子。長女の一花に長男の次郎、次女の三葉に父親の岩男。家族四人が川辺を拠点に、日々を過ごしていると言う。
「次郎。もう一度こっちに来て、ちゃんと謝りなさい。他人の物を取って、ごめんなさいって」
「他人の物を取って、ごめんなさい」
田中さんの言った言葉をそのまま、繰り返して次郎は頭を下げる。
田中家の三つ子は、全員が八歳とまだ幼い。そんな中でも次郎は家族のため、役立つ物があると思い盗みに及んだと言う。
「ほらっ!! 二人とも立って!!」
話に際し全員が椅子に着席する中で、唐突に次郎は一花と三葉の二人を促す。
「田中レンジャイ!! 炎のレッド!!」
先頭の次郎は腕を横にビシッと、ポーズを固めて決め台詞。
「稲妻のイエロー!!」
続き恥ずかしそうに、手を頭上に伸ばす一花。
「海のブルー」
本を持ったまま言う三葉は、淡々とした口調と義務的である。
「あんたねぇ!! こっちは気を使ってやっているんだから、少しは協力しなさいよっ!!」
「恥ずかしい。嬉々として行う姿勢に、人間性と神経を疑う」
「なんですってっ!?」
決めポーズに台詞が問題となり、一花と三葉は喧嘩を始めてしまった。
「ねぇ! 兄ちゃん! ちょっと付いて来てよっ!! 凄い場所があるんだっ!!」
お構いなしにと次郎は、腕を掴んで移動を促してきた。
「ちょっ……」
「行って来なさいよ。話は聞いておくから」
対応を苦慮したところに、ハルノからの許可と促し。
話を聞く最中でも、騒々しい子どもたち。どうにも結果として、世話役を押しつけられたようだ。




