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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第四章 新たな旅立ち(上)

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第132話 小さな盗っ人1

「食糧庫。ここになら、食料がありそうだな」


 厨房の隣に位置する場所にて、新たな部屋を発見。

 頭上に書かれるは、【食糧庫】の文字。冷蔵庫や棚にほとんど食料はなく、期待を持てる最後の場所であった。


「……」


 ドアノブに触れて手を回し、開き始める食糧庫のドア。期待と希望に胸を膨らませ、しかしなぜか嫌な予感がした。


「おわっ!!」


 眼前に現れたのは、吊るされた人の死体。突然の展開に慌て驚き、足がもつれ転びそうになった。


「どうしたのっ!?」


 異変に気づいたようで、駆け寄ってくるハルノ。食糧庫には言葉なき、人の死体が吊るされていたのだ。


「白骨化している部分があるし。死後相当の期間が経過していそうね」


 ハルノは刑事のような言い振りで、仏の状態を確認している。

 首吊りであったため、死因はおそらく自殺。食糧庫内にはもちろん、屍怪の姿は一体もなかった。


「よく平気だよな。異臭とか虫とか」

「何を今さら。死体と対面するのも、初めてってわけでもないでしょ?」


 動揺の少なき態度に追及するも、聞けばハルノの言う通り。

 屍怪いる終末世界となり、想像外も常たる日常。気を大きく持たねば、やっていけぬとの話だ。


「一人で生きていくことに、絶望した感じかしら?」

「どうだろうな。遺書があったわけでもないし」


 ハルノと自殺の動機を考察するも、現物なく所詮は全て空想の域。

 しかし唐突な死体の登場に、酷く取り乱した身。ハルノの冷静な対応には、肝の太さを感じさせられる。


「食糧庫は閉じておきましょうか。死体と一夜を過ごすのは、嫌な話ですけど。外でテントを張るより、ホールの方がマシよね?」


 今や夜も迫りつつあるため、妥協もやむなしとのハルノ。


「そうだな。一夜くらいなら、仕方ないか」


 今日は遭遇せずとも、屍怪いる終末世界。

 屋根あれば雨露を凌げ、壁あれば屍怪を防げる。メリットとデメリットにリスクを合わせ、死体と同居もやむなしとの判断である。



 ***



「缶詰めを使用しているなんて。言われなければ、意外と気づかないかもな」

「味は濃くない? 缶詰めをそのまま使用しているから、少し濃いめになるの」


 関心しながら食べ進めていると、ハルノは出来を心配している様子。テーブルにランプを置き、椅子に座って夕食。

 ハルノが用意したのは、やりとり缶を使用した親子丼。卵は養鶏農家の高齢夫婦に持たされ、早々に食べるよう促された物である。


「問題ねぇよ。てか少し濃いくらいのほうが、好みなくらいだ」


 キャンプコンロを使用し、温かく調理された親子丼。ハルノが作ると言い出し、振る舞われたアレンジ料理。

 葛西さんが料理を教えたこともあり、調理の腕は間違いなく上達。苦手としていた中でも、成果は確実に現れていた。


「そう。なら良かったわ」


 満更でもない表情のハルノと、箸を進ませ早々に完食。作ってくれるだけでもありがたい話で、文句をつける点など一つもなかった。



 ***



「蓮夜。もう起きなさいよ。いつまで寝ている気?」


 毛布を肌にソファで眠っていると、先に起床したハルノに声をかけられる。

 昨夜は互いにソファで眠り、料理屋にて一夜を明かした。暑く寝苦しかった夏が過ぎ、涼しく快適となる秋。眠ること好きな身としては、起床はとても苦しいものである。


「もう……朝かよ」

「そうよ。荷物を片づけて、早々に出発しましょう」


 一足早くに起床をして、身支度を整えていたハルノ。二日目の出発に際し荷物を纏め、滞りなく準備をしなくてはならない。


「あとは自転車を出すだけだな」


 料理屋外のテラス席にリュックを置き、出発に必要な最後の行動。

 自転車を料理屋に入れたのは、盗難など一応の防犯対策。店内の空間には余裕あったので、できるうる対策は全て行った。


「足となる自転車を、失うわけにはいかないって言っても。盗む奴なんているのかよ」


 現在の進む場所は、北海道でも田舎。屍怪の姿が一体もなければ、生者の姿も一人としてない。

 建物が僅かな地区なれば、人口も元から少ない場所。そもそも盗む人がいなければ、過剰な対策と言ってもよい。


「……ん?」


 テラス席に置いたリュックが不意に、動いたよう違和感を覚えた。

 しかし周囲に人の姿は一人もなく、触れられる者はいない。それでも置いた位置より、少し動いている気がしたのだ。


「ゴソゴソッ……」


 気にし過ぎかと思ったところに、椅子から引きずられるリュック。

 盗っ人はそのままリュックを奪い、近くの森へ走り去ってしまった。


「待ちやがれっ!!」


 旅が始まり早々にして、盗まれたリュック。中には食料やサバイバルアイテムと、先に必要なアイテムが詰まっている。


「どうしたのっ!?」


 大きな声を聞きつけ、料理屋から顔を出すハルノ。


「リュックを取られたんだっ!! このまま逃すかよっ!!」


 リュックを取り返すためには、盗っ人を捕まえなくてはならない。

 となればやむなく、木々が生い茂る森へ。盗っ人の姿を見失わぬよう、急ぎ逃げる背を追った。


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