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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第三章 変貌の街

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間話 押しつけ

「死について、蓮夜はどう考えるのかな?」


 本が積まれる机を前に、椅子に座る夕山の問い。


「なんだよ? 突然?」


 本棚に数多の本が並ぶ図書室にて、窓際から校庭の様子を見つめる最中。唐突にして突飛な質問は、内容としては少し重めであった。


「興味本位だよ。蓮夜が死ついて、どんな考え方を持っているのかなってね」


 知的好奇心の赴くまま、夕山は質問したと言う。

 見える世界に屍怪が出現して、すでに期間は三ヶ月以上。人の死を身近に感じる機会あれば、考えなかったわけではない。


「そうだな。屍怪いる世界になるまで、深くは考えたことなかったけど。究極的には避けられないこと。受け入れなくちゃならないものかな」


 安心安全とされる生活が失われ、今や危険と隣り合わせの終末世界。

 どれだけ警戒をし、万全を期しても。降りかかる災いに、逃れられぬ不幸は幾つもあった。


「終末世界においては、屍怪に襲われ感染。以前でも、老衰。不慮の事故。完治しない病。抗えない死はあるからね。その点は同意するよ」


 熟慮し導き出した答えに、一定の理解を示す夕山。

 全ての生き物において、必ず訪れるは死。どんなに功績を積み、資金を蓄えようとも。異なる道を歩いても逃れられぬ話なれば、誰しも最期にたどり着く終着点である。


「なら自殺や、殺人はどうかな?」


 次に夕山から投げかけられた質問は、人の衝動や悪意が絡む作意的なもの。避けられる展開あったと仮定するなら、実に受け入れ難い話である。


「自殺はきっといろいろな悩みがあって、苦悩した末の結果だろうからな。良くはないけど。難しい話だよな。でも、殺人は論外だろ。人を殺すなんて、考えるまでもなく間違っている」


 日本における自殺者数は、年間で二から三万程度を推移。ストレスの多い現代社会であるから、対策も難しい社会問題であった。

 しかし殺人については、考慮するまでもない。尊重すべき人命を軽々しく奪うなど、法律あり道徳的にも間違っている。


「僕はさあ、本を読むのが好きなんだよね。図書室を拠点としたのも、理由の一つ。そして今、僕が読んでいる本。この判例集には昔と近年における、事件の詳細が書かれているんだよ」


 言って夕山は本をパラパラと捲り、記載を見て話しを続ける。


「実の父にレイプされ、子どもを妊娠した女性。五歳の頃から十年に渡る虐待で、満足な食事なく暴力を受けた少年。帰宅途中の公園にてナイフを向けられ、金銭を要求され刺された男性」


 夕山が語る事件はどれも、胸が痛くなる話ばかり。


「どれも……酷い事件だな」

「彼らは全員が反撃して、殺人を犯しているんだよ」


 感想を述べたところに、夕山から衝撃的な事実。被害者だった者の抵抗により、加害者は全員が死亡しているとの話。


「でもそれは、正当防衛だろ?」


 理不尽に尊厳を侵害され続け、命の危険を感じるような事件。自衛に出るのは自然の摂理で、究極的にはやむを得ないとも言える。


「考慮はされているよ。罪には問われているけど、死刑にはなっていないからね」


 判例集を確認する夕山は、判旨と判決を見て語る。


「死刑はどうかな? 見方によっては、国家による殺人だけど?」


 夕山から問われる質問は意見が割れ、論争もあり判断の難しいところ。

 賛成の意見としては、被害関係者の気持ちがおさまらない。凶悪犯罪は命を持って償うべき。死刑制度があるから、犯罪の抑止につながるなど。

 反対の意見としては、第一に冤罪の可能性。生かし罪を償わせるべき。犯罪者にも、更生の機会をなどである。


「死刑については、意見が分かれているよな。賛成派と反対派。どちらの意見も、理解できるところあるからな」

「なら戦争による、殺人はどうかな?」


 答えを濁したところに、追撃質問を放つ夕山。今回の質問は特に、難しい話ばかりである。


「てか、夕山はどう考えているんだよ?」


 答えに難しい質問ばかりとなれば、逆に意見を求める反対質問。

 質問する側の夕山としては、どんな意見を持っているのか。内容的にも深く難しいため、聞いておきたいところであった。


「僕は全てを否定しないよ」


 夕山から返ってきた答えは、広義的で漠然としたもの。


「それって、どういう意味だよ?」


 実態の掴み難い発言となれば、追及にて詳細の説明を求める。


「言ったままの意味だよ。死刑制度に、戦争殺人。意見が割れ争いあること含め、それが人の営みだと思うからね」  


 夕山は人間が起こす行動を、全てあるものだと言う姿勢。許容し継続を求める者いれば、拒絶し止める者も自然な存在。

 人類が生まれてからずっと、なくならないのは争い。故に統一性を持てないのは、当然であるとの見解だ。


「平時に人を殺せば、法に触れて罪となる。でも戦争時においては、敵を殺せば英雄。法律なんて例外ありきで、他者が決めた正義感の押しつけ。所詮は、不完全な価値観に過ぎないんだよ」


 先人が積み上げ作り出した法律を、夕山は根幹から理不尽ありきと論じる。


「言っても価値観の押しつけなんて、法律に限った話じゃないよ。食事の挨拶や墓参り。常識とし根づいていることにも、必要性に疑問を感じるものはあるよね」


 人間は無意味なものに、意味づけを好むと夕山。

 夕山が例とし挙げた、食事の挨拶と墓参り。食材と祖霊に感謝を謳うも、実態はなく根拠の乏しいもの。形式的かつ儀式的なものは、もはや一種の信仰に近いとの見解。


「でも感謝することに、なんの問題があるんだよ?」

「別に問題あるとは思わないよ。僕は納得できないことを、強要されるのが嫌なんだよ。否定をしなくても、受け入れるとは別の話だからね」


 関係ない他人事なれば、好き勝手にどうぞと夕山。

 普通。常識。当たり前。社会一般に根づいていることでも、移りゆく時代で変化。根本的に間違っているもの存在すれば、己の整合性に叶わなければ納得できぬとの話だ。


「数多ある情報や事柄から、必要なものと不必要なものを取捨。結局ところ大事なのは、自分の意見を持つこと。そして自分のことは自分で考え、決めるべきって話だね」


 盲信的に生きることの、危うさを問う夕山。前例に囚われず、立場を示すことこそ重要。

 他人に言われたままではなく、物事を考え判断する力。本質を見定めては他者に流されず、自分を持つことこそ大切だと結論づけていた。


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