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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第三章 変貌の街
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間話 志望の動機

「みなさんはどうして、自衛官になろうと思ったんですか?」


 自衛官たちが過ごす二階の教室にて、好奇心から興味本位の質問。

 終末の日から一度も帰宅をせず、家族にも会っていない自衛官たち。与えられた任務を遵守し遂行する姿に、根幹となる使命感に興味が湧いた。


「国のためとか。人命のためとか。大層な理由はなかったの。進みたい進学先もなかったからね」


 椅子に座りナナさんは、軽い感じで語っていた。

 学生時代はバスケットボール部に所属し、根っからのスポーツ少女であったとナナさん。集団生活に苦手意識はなく、体力にも自信はあったとの話。


「取れる資格が多いっても、魅力だったから。先々の将来を考えて、得になると思ったの」


 無料で受講でき受験できる資格も多く、有意義な時間を過ごせると考えたナナさん。

 進みたい進学先もなく、就きたい職業もなし。決断を先延ばすための進学に、支払う学費は安くない。親の負担も考え、決めた就職先だと言う。


「職人みたいに、手に職をつける。社会においては、資格が活きる。それに自衛官は大変だけど、やりがいある職業よ」


 自衛官となり学べること多く、ナナさんは結果を良かったと語る。

 学習をして教養を深め、体験により見識を広げられる。人を助け感謝されることは、肯定感を覚えるもの。自衛官という職業の必要性を、身をもって感じることができたとの話だ。


「単純な話だ」


 口下手なりにタケさんも、続いて志望の動機を語る。

 四人兄弟の長男で、厳しく育てられたタケさん。幼い頃から柔道を一筋に、父親も元は自衛官。親の影響もあって、将来に悩みはなかったとの話。


「自衛官は国に必要で、天職だと思っている」


 タケさんは自身も含め、兄弟に自衛官もいるとの話。一族的にも国防関係の職業が多く、自衛官になるは当然と思っていたらしい。


「自衛官になろうと思った理由か。そうだな。オレの場合はいろいろあって、かなり長くなる話だ」


 椅子に座り応じるヤマトは、過去を振り返って語り始める。

 北海道の道央地区にて産まれ、幼少期を過ごしたというヤマト。祖父母や両親に、年齢差のある兄。全員が農業を営み、農家とし生活していたと言う。


「手伝いはもちろんしていたけど。オレは歳の離れた次男だったし。特に縛りもなく、自由に育てられたくらいだ」


 幼少期はとても自由奔放で、野山を駆け回っていたというヤマト。生活が激変したのは、ある震災がキッカケ。


「道央地震。あの地震が発生した日から、オレの全てが変わっちまったんだ」


 遠い目で天井を見上げるヤマトは、昔の出来事を思い出している様子。

 北海道の道央部を襲ったという、震度七と非常に大きな道央地震。木と土砂が崩れるに地滑りに、発電所が停止するブラックアウト。地震は全道に大きな影響を及ぼし、復旧や復興には長い時間を必要とした。


「実家が地滑りに、巻き込まれたんだ。生き残ったのは幼かったオレと、世話をしてくれた婆ちゃんだけだ」


 道央地震により被災し、ヤマトは自宅と家族を失った。住む場所なく小学校へ避難し、体育館にて被災者たちと避難生活。

 一日にして激変した生活に、幼かったヤマトは心に深い傷を。現実を受け止めきれず、俯く日々が続いたらしい。


「そんなとき避難所を訪れたのが、国から派遣された自衛官たちだ」


 ヤマトを含め被災した人たちの前に、悠然と歩き訪れた迷彩服の自衛官。

 避難所となる小学校前に、簡易の入浴場を建設。温かい食事に食料を配給し、なんでも相談に乗ってくれたそうだ。


「オレたち子どもの相手をしてくれたのは、今でも鮮明に覚えているよ。震災処理を行う合間の休憩時間に、一緒にサッカーをやったりしたんだ」


 世話をしてくれた自衛官の話を、ヤマトは嬉しそうに語っていた。

 自衛官たちの親身な対応に触れ、心を持ち直したというヤマト少年。気づけば自衛官は憧れの存在となり、就職先とし選ぶに迷いはなかったと言う。


「自衛官になり最初の配属先で、世話をしてくれた自衛官と再会したんだ。話を聞くとその人も、震災の被災者だったんだよ」


 ヤマトの人生に強く影響を及ぼした自衛官も、子どもの頃に自身が被災するという被災者。

 関西圏であった大地震。聞けば被災した自衛官も、当時は別の自衛官に助けられたらしい。


「その人も助けられたことがキッカケで、自衛官を目指す決意をしたらしいんだ。全く同じような話に、その人も驚いていたよ」


 ヤマトは再会したときの話を、楽しそうに語っていた。

 一つの出来事が巡って、影響し合う互いの人生。助けられる側から、助ける側へ回りたい。ヤマトが自衛官を目指したのは、必然の話だったのだろう。


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