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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第三章 変貌の街

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第126話 面影

「大勢で来た甲斐あって、なんとか掃討できたな」


 日を改め武器と人数を揃え、再び訪れたボウリング場。

 水が出なくなった陵王高校に、何より必要な浄水機。万全なる準備を整えた上で、屍怪の掃討作戦が決行された。


「これか浄水機。予想以上に大きく、かなり重いじゃん!!」


 両手を広げ持ち上げようとする啓太は、重量に驚きとても苦戦をしている。

 ボウリング場に残されていた浄水機は、災害用浄水機と大型で高性能の物。青色の縦長タンクが六つに、浄水化装置とされる機械で構成。川の水や海水をも循環し濾過させ、飲料水に変換可能という代物である。


「よくこんな高性能の物があったわね」

「全くな。人から奪ったらしいけど。どこで入手したって話だよな」


 浄水機を見つめるハルノと一緒に、ボウリング場まで行き着く流れを考察。金髪鼻ピアスと紫髪ネックレスの横暴性から、入手経路につき想像もできなかった。


「リヤカーまで運んで、順番に持ち帰りましょうか! 一回で終わりそうにないから、必要な物を効率的に乗せてねっ!」


 事務室で物色をする人たちに、手を叩き行動を促すナナさん。合図を受け人々は動き出し、一階へ運ばれる数々の物資。

 肝心かつ要となる浄水機に、二台目となる発電機。徘徊する屍怪に襲われぬよう護衛をつけ、リヤカーで陵王高校まで運ぶ手筈である。


「あそこにいるの。屍怪じゃね?」


 リヤカーを護衛しつつ街を進み、顔を横へ向けて啓太は言う。異変を感じ取ったのは、土管が置かれる空き地。

 たしかに啓太の言う通り、空き地には屍怪と思わしき姿があった。


「言っても、一体みたいだし。俺が行って対処するよ。啓太は引き続き、みんなと護衛を頼む」


 周囲を見回すも他に姿はなく、立ち止まること不要と判断。

 金髪鼻ピアスが行った発砲により、周辺に大きく響いた銃声。音を発端に屍怪が集まっているため、騒動を起こさず迅速に動くことが求められていた。


「……まさか。……嘘だろ」


 どんよりと重く、曇がかった空。ポツポツと降り出す雨に、否応なく濡れる肩。

 土管が置かれる空き地に、歩みくる一体の屍怪。血の付いた紺色のスクールブレザーに、土に汚れたチェックのスカート。


「……美月」


 見覚えある服装に、視認できる輪郭。痩せこけ窪んだ頬に、茶色がかった顔色。ボサボサと酷く汚れた長い黒髪に、腕と足は折れそうな木の枝ほど細い。

 生前ならば艶のある長い黒髪に、目鼻立ちが整った小さな顔。スラッとした抜群のスタイルは、今では全て見る影もない。それでも面影を残す点あり、知ったる美月に間違いはなかった。



 ***



「……美月」


 頭の中で記憶として残るは、身だしなみ整えられ凛とした姿。

 美月と初めて出会ったのは、札幌駅地下のシェルター。金髪鼻ピアスと紫髪ネックレスにナンパをされ、恐怖で震える中でも実直な態度で臨む姿。品が感じられる人柄でも、気の強いところが垣間みられた。


「ウヴヴヴァ……」


 呻き声を漏らし近づく美月には、全身に裂傷あり服も破れ損壊が目立つ。

 屍怪に噛まれた畑中さんを前に、献身的に介護する対応を見せた美月。危機的な状況下でも、他を気遣い配慮できる人物だった。


「……ごめん。守るって言ったのに、約束を果たせなくて」 

「ヴウヴヴッ……」


 懺悔の言葉が胸から込み上げてくるも、美月からは呻き声しか返ってこない。

 ブラッドベアーに襲われ、逃げるよう寄った大神製紙工場。背後を追われる窮地に、刺股を伸ばし引き上げる対応。女性と非力な側面ある立場でも、必死に人としての強さを見せてくれた。


「気づいたんだ。最期となった陸橋の下。俺が美月を守りたかったのと同様に、美月も俺を助けようとしてくれたんだよなっ!?」


 別れの場となった陸橋下では、瓦礫に足を挟まれ動けぬ体。美月は迫る屍怪の前に立ち、身を挺して守ってくれた。


「……耐えられねぇよ。会話もできない、屍怪の姿を見るのは」


 どんな言葉を投げかけようとも、活きた言葉が返ってくることはない。

 今の美月に呼びかけは、行く先を示す音。反応してはただ真っ直ぐに、迫ってくるのみであった。


「もう、終わらせるから」


 屍怪とし動くこと決着つけるべく、帯刀していた黒夜刀に手を伸ばす。


「うおおおおおお――――っ!!」


 刀を向ける際にも、蘇る様々な思い出。ともに旅路を歩き、たどり着いた終着駅。一つの輪廻を断ち切るべく、黒夜刀を美月の頭へ突き刺した。


「くっ……」


 黒夜刀を頭から引き抜くと、力なく崩れ始める体。抜け殻となった美月を受け止め、見て触れる全てに言葉がなかった。

 生者と異なり、温もりない肌。細く痩せた体に力を加えれば、砕けてしまいそうなくらい儚い。


「ごめん。今だけは。……我慢しなくてもいいよな」


 冷たくなった美月の骸に触れて、死を実感し涙が頬を伝わった。

 雨が降る空き地にて、美月と向き合う時間。顔を上げることができず、声を殺し抱き締める他なかった。


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