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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第三章 変貌の街

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第123話 乾いた音

「そうだっ! 水がないんだろっ!? 隣の事務室に、浄水機があるからっ! くれてやるよっ!! だから今回は見逃してくれっ!! もうお前らとは、二度と関わらねぇからよぉ!!」


 受付前の広場にて膝をつき、紫髪ネックレスは頭を下げている。

 ククリ刀を持ち立つ夕山と、鉈を失い丸腰の紫髪ネックレス。どうやら向こうも早々に、決着がついていたようだ。


「どうして水に困っているのを、知っているんだよっ!? 水の話なんて、一言もしてないだろっ!?」


 唐突に出された和解案は、内情を知らねば上らぬ内容。

 避難者のみが持つ情報を、紫髪ネックレスが知る事実。レーン上から急ぎ早に足を向け、情報源を吐かせにかかる。


「そんなの知っていて、当然の話だろぉ!? 悪いとは思ったけど。拷問をしたんだからよぉ!!」


 身振り手振りに紫髪ネックレスは、包み隠さず話の全容を語る。戦いに決着がついたことキッカケに、とても聞き分けが良くなっていた。

 しかし人の尊厳を踏みにじり、卑劣な行為に手を染める者。全てその場しのぎに聞こえては、信用に値すると思えない。


「浄水機について、嘘はないみたいだね。浄水機の他にも、発電機や食料。様々な物資が事務室には、たくさん残されているよ」


 いち早く夕山が確認したところ、大型の浄水機に数多の物資があると言う。

 しかし考えてみれば、現在地はボウリング場。電化製品店でもなければ、浄水機があるのは不自然だろう。


「なんでボウリング場に、浄水機があるんだよっ!?」

「そんなの奪ったに決まっているだろっ!! 物資が乏しくなった世界だっ!! 力がものを言うのは、当然の話だろぉ!!」


 問いに対し紫髪ネックレスは、隠さず入手方法を白状していた。

 しかし思考の根底にあるのは、金髪鼻ピアスと同様の力による解決。暴力を背景に物事を達成しようとす、利己的かつ身勝手で傲慢な考えである。


 仮にここで見逃しても、災いをばら撒く存在。他で同じことを繰り返すなら、結局のところ誰かを不幸にするだけだ。


「わかっていると思うけど。見逃す価値なんてないよ。言っていることも、全てはその場しのぎ。結局のところ、反故にするだろうからね」


 冷たい目で見下ろす夕山は、信用する価値ないとの意見。

 追い詰められたところで、心変わりしたよう出た発言。今まで行っていた所業からも、信用度は間違いなく低い。


「扱いをどうするかだよな。放置してもリスクになるから、とりあえず陵王高校まで連行するか?」


 力を持って他者の尊厳を踏みにじり、陵王高校の襲撃をも計画していた人間。言われたまま見逃しては、危険因子を野放しにする愚行でしかない。


「オォオイ! 待てよっ! もう何もしねぇよぉ! 降参だ! 降参!」


 紫髪ネックレスは両手を上げ、必死に自制を求めている。処遇を決め兼ねているところで、夕山はククリ刀を突きつけていた。


「殺すしかないよ」


 氷のように冷たく、鋭い視線を向ける夕山。

 微塵も揺るぎなき表情と、一糸も乱れぬ迷いなき態度。夕山の中で答えは、始めから出ていたようだ。


「さすがにそこまでする……必要性はないだろ。ってかそんな事をすれば、俺たちが人殺しになっちまうぜっ!?」


 悪人が相手だとしても、殺すなど許容し難い行為。

 自己判断で死刑執行など、さすがに行き過ぎたもの。一つの理念と規範を胸に、厳正かつ粛々と処分すべきだろう。


「相変わらず甘いね。蓮夜は。コイツらは僕らを、殺そうとしたんだよ。ならこっちが殺る側に回っても、対等で問題ない話だよ」


 揺るがぬ態度で発言する夕山は、固い意志を持っている様子。

 夕山が根拠とする論理は、やればやられるの見解。因果応報に自業自得。身から出た錆となれば、救い手は不要との判断だ。


「それに見逃せば次の機会を得て、仕返しや復讐に狙ってくるはずだよ。殺しておくほうが、禍根も残さず懸命な判断。居場所もバレているわけだし。連行し更生に賭けるなんて、リスクのみだけだからね」


 禍の根は即座に摘むと言わんばかりに、夕山は覚悟を固く決めていた。

 生かしておくにも食料が必要で、拘束するにも人手と労力が必要。そもそも更生するかも、不確実な案件。最も労を要せずリスク回避できるのは、二人を殺すと死刑執行の判断だ。


「だからって、こんな奴らでも命だっ! 何かもっと、別の方法を考えようぜっ!」


 しかしどんな理由があっても、人の命は軽くない。やったやられたの繰り返しでは、互いに延々と続く負の連鎖。

 人道的に決着をつけなければ、事態を終息できぬだろう。


「はぁ。そんな都合の良い方法なんて、ありはしないんだよ。だから僕は――」

「パァン!!」


 夕山の発言を途中に、乾いた音が鳴り響く。

 音の発生源たる場所は、ピンの倒れたレーン上。伸びていた金髪鼻ピアスは立ち上がり、白煙を吐く拳銃が右手に握られていた。


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