第122話 蓮夜VS金髪鼻ピアス
―*―*―蓮夜視点―*―*―
「嬉しいぜぇ! 初めて会ったときから、ぶっ殺したかったんだっ! それがまさか、叶う日がくるなんてなあぁ!!」
金髪鼻ピアスは嬉々とした表情で、攻撃的な発言を繰り返し行う。
ボウリング場にて長く伸びる、レーンの中央で激突。銀色に輝く渡りの長い鉈と、刀身が黒く鈍い光りを放つ黒夜刀。互いに引けぬところまで行きつき、刃ぶつかる鍔迫り合いとなっていた。
「自分勝手に暴力を振るうなんてっ! 酷い姿になった人たちを見て、罪の意識に……心が痛まねぇのかよっ!?」
椅子に縛られる男性と、床に倒れる二人の女性。身勝手が極まりない動機により、拷問に陵辱をしたとの話。
どんな心境を持って、被害者を見られるのか。悪辣卑劣な行為に、理解は到底できぬ話だった。
「心が痛むっ!? そんな事あるわけねぇだろっ! 馬鹿がよっ!!」
金髪鼻ピアスに反省の素振りはなく、鉈の払いによって距離ができる。
「足りねぇ頭で、よく考えてみるんだなっ!? 世の中は結局のところ、弱肉強食だろうがっ!? 強者が思いのまま支配し、弱者は抵抗も虚しく屈服するっ! 今も昔も変わらぬ話に、なんで罪の意識を持たないといけねぇんだっ!! ああんっ!?」
金髪鼻ピアスは両手を広げ、声を高らかに主張する。弱肉強食を軸とし、築かれた正当性。歪みきった思想に価値観であるも、自然界では一つたしかな事実。
肉食獣のライオンは力を背景に、草食獣のシマウマなどを捕食する。同種のシマウマ間でも争いはあり、強くなければ子孫を残すことができない。
「たしかに人間界でも、弱肉強食の面は否定できない。それでも人間は他の生物とは違い、比類なき感情と知性を持っているんだっ!! 弱肉強食だけが、真理となるわけじゃあねぇ!!」
過酷な自然界において、力なき個体が見捨てられる場合は多い。年老いて狩りができなくなったライオンに、怪我をして動けなくなったシマウマ。
しかし人間界においては、弱者とされる者にも救いの手を。行政による公助に、地域で助け合う共助。適材適所に活躍の場が与えられ、社会への参加も支援。社会性や協働という名の下で、人間には無限の可能性がある。
「だから、なんだ? オレには関係ねぇな。欲しい物は奪い、力を持って達成する。誰が決めたルールもなく、今のほうが生きやすいくらだっ!!」
他人事と語る金髪鼻ピアスに、説得はまるで通じなかった。
しかも安全であった世界より、終末世界を好むとの性格。傍若無人な態度をそのまま、金髪鼻ピアスは鉈を持ち迫ってくる。
「ならてめぇらだけで、勝手に生きてろよっ!! 他人に迷惑をかけず、好き勝手にっ!! 協力し生きて行こうとする、みんなの邪魔をするんじゃねえぇ!!」
対抗する意見を述べて、再びぶつかる両の刃。互いに相容れぬ意志を持って、激しい衝突となった。
「おらぁああ! 死ねやあっ!!」
威勢のよい咆哮を轟かせ、鉈を振るう金髪鼻ピアス。
体重を乗せ力の入った、重く激しい攻撃。黒夜刀で受け太刀をしようとも、反動で後退を余儀なくされる威力だった。
「人を傷つけ殺すような真似までして、何が得られるって言うんだよっ!?」
「ムカつくからぶっ殺すっ!! それ以外に何もねぇんだよっ!!」
非合理な行動に果実を問うも、金髪鼻ピアスは迷わず即答。
拷問や陵辱を楽しみ、感情的に殺人をも許容。身勝手が極まりない動機に、会話の一切は無意味であった。
こうなったらもう、やるしかねぇ!!
「おっらあああっ!!」
続けて鉈を振る金髪鼻ピアスを相手に、覚悟を決めて攻撃に転じる。
衣服を薄皮一枚にて触れる斬撃に、空振りでも肌で感じる風圧。互いに交差し合う両の刃は、ぶつかれば火花が散るよう熾烈を極めた。
「思ったよりは、やるじゃねぇか!! 甘ったれた、クソガキの割にはよぉ!!」
激しい戦闘の最中も、金髪鼻ピアスは挑発をやめない。
攻撃に転じたことにより、激化の一途をたどる戦闘。それでも両者ともに決め手を欠き、戦いは拮抗状態となっていた。
「そろそろ終わりにしようやあぁ!!」
金髪鼻ピアスは鉈を高く振り上げ、今までになく大きな隙ができた。
「ここだっ!!」
持ち前の突進力を活かし、咄嗟の判断で間合いを詰めにかかる。
現在地はボウリング場と、長く伸びるレーンの上。通常の営業ならば、オイル塗られる所。時間の経過で薄くなろうとも、運が悪く足を滑らせてしまった。
「何を一人で、転んでいるんだっ!!」
「くっ!!」
容赦なく鉈を振り下ろす金髪鼻ピアスに、刀を横に両手で間一髪の受け太刀。片膝をついた態勢となり、圧倒的に不利な状況へ追い込まれた。
「避難所とし住んでいるのは、高台の陵王高校だったか? 今回の件が済んだら、次は陵王高校を狙ってやるぜ」
金髪鼻ピアスは鉈に力を加えつつ、次の標的を陵王高校に定めたと言う。
陵王高校には今も、多くの仲間たちが身を寄せ合う。戦いに敗れれば、襲撃されること必死。最悪の事態を避けるために、屈することは許されなかった。
「このままここで、負けるわけにはいかねぇ!!」
実害を想像させる心ない発言に、逆境の中でも今まで以上に力が湧いた。
「なんだとぉ!!」
膝を立て態勢を戻し始めたことにより、攻勢だった金髪鼻ピアスも驚きの声を上げる。
押し潰すような攻撃の最中も、懸命に膝を立て必死に抵抗。ボウリング場のレーン上にて再び、刃ぶつかる鍔迫り合いとなった。
「うぉおおおおっ!!」
気合いを入れた咆哮とともに、勢いそのまま押し返し。金髪鼻ピアスを弾き飛ばし、理想的とも思える間合いができた。
「一刀理心流。咬龍連撃」
上段から振り下ろす一斬を始めとし、下段から切り返しを放つ連撃。
読んで字の如く、龍が上下から咬むような攻撃。上段から振り下ろす威力ある一斬目を、かろうじて受け太刀する金髪鼻ピアス。鉈の刃先が横を向き、片足が浮くほど態勢を崩した。
「くっ……! このガキがっ!!」
金髪鼻ピアスは憤りを露わに、反撃の姿勢を見せ続ける。
しかし咬龍連撃は、一斬で終わらない。下段から即座の切り返しに、態勢が整わなかった金髪鼻ピアス。不恰好と腕に力が入らなかったようで、黒夜刀は武器である鉈を弾き飛ばした。
「もう終わりだっ!! 降参しろっ!!」
刀と素手の戦いでは、やらずして結果は見えている。
無意味な争いを、継続すべきではない。黒夜刀を鞘に納めて、進んでの投降を勧告する。
「誰が……降参なんかするかっ!!」
金髪鼻ピアスは投降を拒み、拳を振り上げ殴りかかってきた。
「いい加減にしろよっ!!」
屈んで回避しては、空を切る右腕。すぐさま胸倉と袖を掴み、回転して担ぐ形へ持っていく。
「うぉおおおおっ!!」
柔道選手さながら、渾身の背負い投げ。空中を回転しては、もはや抵抗の手段も皆無。
レーン上に残る、十本のピン。金髪鼻ピアスがボールの代わりとなり、全てを倒しストライクを決めた。




