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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第一章 終わりの始まり

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第11話 頼もしい背中

 外に出て目に映った景色は、天井が崩落した北口方面の比ではなかった。

 参考書を買いに行こうと、約束をしたあの日。誤って南口に出て見た、全面ガラス張りの先進的なデザインドーム。しかし今や見る影もなく、ガラスは全て消失。無惨に骨組みだけが、残るのみとなっている。


「教科書やネットで見た……戦後の写真を彷彿とさせるわね」


 驚嘆した様子でハルノが向ける視線の先は、建物がひしめき合うよう並んでいたはずの駅前。

 札幌駅から目と鼻の先に、位置する場所。高層ビルが主となり、中には多くの商業施設。発展が著しかったエリアである。


「なんだよ! なんだよっ!? これはあああああ――――ッ!!」


 外に出てきた避難者の男性は、絶望に震える叫びを発した。

 南口から見る札幌の街は、全てが瓦礫の山と化していたからだ。それは先にハルノが言った、戦後を彷彿とさせるもの。以前までの見知った光景は一つもなく、全く別の場所にワープしたか。タイムスリップでもしたかのよう、感覚である。


「嘘でしょ? きっとこれは……夢に決まってるわ」


 事実を受け入れられないと、避難者の女性は現実逃避。

 他の人も膝をつくか、立ち尽くし呆然。放心状態に近いものになっていた。


「松田さん。測定をお願いします」

「はい。わかりました」


 そんな中でも畑中さんは冷静に言い、応えて松田さんは再び放射線量の測定を始めた。


 俺も結果が気になるな。


「……マジかよ」


 二人の元へ向かうため振り向く。そこで目に映ったのは札幌駅と、隣接するZRタワー。

 札幌駅は砲弾でも打ち込まれたかのよう、外壁に大きな穴があいている。そして地上四十階建てのZRタワーは、斜めに削り取られ上階が消失。三分の一ほどが、姿なく失われていた。


 本当に……どうなってんだよ。


「数値に問題は、なさそうですね」


 戸惑いながらも二人の背後に立つと、測定器を見て畑中さんは言った。


「なら、核じゃない。ってことですよね?」


 数値に問題がないとなれば、核の可能性は排除される。

 目の前に広がる光景は、絶望的。しかし核の可能性が排除されれば、人体への影響はない。となれば一つ、朗報と言えるだろう。


「そういうことだね。でも……この状況。とても喜ばしいとは、言えないけどね。とりあえず僕はこの結果を、後ろの人たちにも伝えてくるよ」


 畑中さんは結果を伝えるため、後方へと下がっていった。


「凄いですね。畑中君は。シェルターに居たときから、思っていましたが。彼のリーダーシップや知識がなければ、今頃どうなっていたか。わかりませんね。本当に、私とは大違いです」


 下がっていく畑中さんの背を眺め、落ち着いたさまで松田さんは言った。


「そんなことないですよ! たしかに畑中さんの存在は、大きかったですけど。松田さんだってみんなのために貢献して、頑張っていたじゃないですかっ!」


 畑中さんの存在が大きかったのは、事実。しかし全体への貢献という点では、松田さんの活躍も負けてはいない。

 大違いと言うには、言い過ぎに思えた。


「いいのですよ。恥ずかしい話。私は職員の中でも、真面目だけど気弱で決断力がない。頼りない人間と、言われていましたから」


 自虐的な話の中でも、笑顔を見せる松田さん。

 松田さんの第一印象は、図らずとも頼りなさそうな人。


「それに私は蓮夜君のよう、積極的に何かをしようと発言。自ら行動することも、できませんでした」


 自己評価と他者評価の一致に言葉を失っていると、さらなる自虐で自身を追い込む松田さん。


「そんなことは……」

「でも、それはいいんです! 今回のことで、私は変われる気がします! この困難を乗り越えるため、一緒に頑張りましょう! 蓮夜君!」


 フォローに回ろうとするも、松田さんの発言は一転。自虐的なものから、力強い主張に変わった。

 そんな松田さんの表情は、澄み渡る青空のよう清々しい。今まであった迷いの霧は払われ、自信に満ち溢れているよう思える。


「蓮夜君。あれ、見えますか?」


 瓦礫の山となった駅前を見つめ、松田さんは指を差した。

 そこには、たしかに動く人影。


 生存者!? なら何が起きたのか。事情がわかるかもしれない! 

 少しでも情報が得られるなら、今は何物にも変えられないメリットだっ!


「松田さん! あそこにいるのって、生存者じゃないですかっ!? ちょっと俺が行って、話しを聞いてきますよ!」


 事情を問うため、先んじて挙手。


「蓮夜君! ちょっと待ってください! 私が聞いてきますよ。こういうところから、積極的にならねばいけませんからね」


 しかし笑顔の松田さんに引き止められては、役割を譲歩。瓦礫が散らばる道を、一人で先行し歩いていった。

 最初は頼りない人だと、感じていた松田さん。今日まで体験を通し、変わったのであろう。その背中は大きく、頼もしくも見えた。



 ―*―*― 松田視点 ―*―*―



 この事態が発生してから、私はどれだけ人のために貢献できたでしょうか。駅員という立場から避難の誘導を行ったり、物資の配給を行ったりはしました。

 しかし本来なら、私が仕切るべきだったはずです。でも職務より不安や恐怖が勝り、自信もなく積極的に行動できませんでした。


 シェルターで出会った青年。畑中君は人柄も良く、知識もあって頼れる存在。


 畑中君がシェルター内を指揮し、これではいけないという反面。『畑中君に任せていれば大丈夫』と、他人任せな方へ気持ちは流されていきました。


 シェルターで声を上げた蓮夜君は、自身にないその積極性で発言。行動で示しては、大いに貢献してくれた。


 蓮夜君や畑中君を見て、私は今。『自分から変わりたい』と、本気で思いました。


 勤続二十五年。同僚たちに『もっと自分を出して。積極的に』と言われつつも、妥協し済ませ無難に生きてきた人生。この新たに芽生えた気持ち変化は、今までにないものかもしれない。

 瓦礫の山と化した、札幌の街。外に出て目の当たりにした現実は、想像より悲惨で過酷なもの。それでも気持ちは変わらず。半分決意表明のような形で、蓮夜君に話してしまった。


「蓮夜君。あれ、見えますか?」


 瓦礫の山となった駅前には、動く人影があった。


「松田さん! あそこにいるのって、生存者じゃないですかっ!? ちょっと俺が行って、話しを聞いてきますよ!」


 持ち前の積極性で、自ら足を運ぶと蓮夜君。


「蓮夜君! ちょっと待ってください! 私が聞いてきますよ。こういうところから、積極的にならねばいけませんからね」


 変わるに必要なのは、積極性。多少は身勝手な部分もあり、少しの申し訳なさはあった。 

 しかし言ってしまったからには、後へは引けないという気持ち。足を向ける最中も、気分は決して悪いものではなかった。


 非常事態なのに。気分が清々しいなんて。

 少し……不謹慎ですね。


 瓦礫の原に立つ、白いワンピースの長髪女性。躊躇うことなく近づくと、事情を問うため話しかけた。


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