第117話 話し合い
「人間が襲っているなら、陵王高校は大丈夫なのかっ!? 奴らの目的。殺さず連れて行ったのは、避難所の場所を聞き出すため。暴力による破壊や強奪が、目的なのではないかっ!?」
相手の動機や思考を考察する中で、一人の大人から出た発言。
今や安全と呼べる場所は少なく、全ての物資が限られる世界。生きた人間が相手となれば、悪意による行動も想定される。
あまり考えたくはないけど。十分にありえる話なんだろうな。
究極的な状況ならば、人は悪魔にでもなる。本来なら優しい人間も、平時とは違う一面。誰しも善良な信念を持ち、動いているとは考えないほうがよいだろう。
「今すぐにでも、警備を厳しくしないとっ! 危険な奴らに、侵入されたら大変だっ!」
事の深刻さに危機感を覚え、慌て動き始める大人たち。家族や友人いる陵王高校の守りを優先と、話もまとまらず急ぎ退出していった。
「どう助けるって、話の途中じゃん!! 何も決まっていないのに、出ていくなんて白状すぎじゃねっ!?」
啓太は去っていった者たちに、身勝手と苦言を呈している。
「結局のところ人間なんて、自分本位の利益重視。極論。他人なんてどうでも良いんだから、当然の判断だろうね」
対する夕山は一般的な反応と、行動に理解を示していた。
「退出した人たちのことは、言っても仕方ない。理解できる部分も、少なからずあるしな。警備には動いてくれるみたいだし。警備の件は任せて、どう助けるか。俺たちは本題について、話を詰めていこうぜ」
今は何が起きるかわからず、備えあって憂いなし。避難所となる陵王高校を守る者も、当然に必要な人員と考えてよい。
「あまり人員を割くのは、得策じゃないわね。最悪の場合。襲撃があるとするなら、留守を狙われることになるもの」
「そうだな。避難所の位置がバレているとしたら、可能性は否定できない」
ハルノも意見する通り、戦力の分散はリスク。相手の目的や人数を掴めぬから、常に最悪を想定し動かねばならない。
「何を企もうにも二人なら、大抵は人数差で圧倒できるじゃん。一番の問題はやっぱり、人数把握をできていないことじゃね?」
啓太も意見を言っては、話し合いは活発に。
各々に意見を出しつつ、互いに問題点を指摘。最善と思える方法を導き出すべく、話し合いは時間をかけ行われた。
「人員は多く割けないから、少人数で偵察にでも行くか。それなら相手次第で、アプローチもできるだろうしな」
「それなら、誰が行くか問題ね」
話をまとめにかかったところで、透かさず問題点を挙げるハルノ。
陵王高校を守る自衛官は、女性自衛官のナナさんのみ。男性自衛官の二人いないことから、欠かすことはできないだろう。
「発案したのは、俺だから。俺は行くよ」
意向を示してからも、誰が行って残るべきか。ランタンを囲む教室にて、話し合いは長く続いた。
屍怪とはまた違う、悪意ある人間の脅威。中庭や敷地内には松明が掲げられ、今までになく緊張感ある雰囲気に包まれていた。
***
「気をつけてね。ちゃんと夜までには、戻ってきてよ」
「ああ。屍怪いる外の世界だからな。無理はしねぇよ」
校門前にて顔を合わすハルノは、表情が暗く不安を露わにしている。
昨日の話し合いを経て、偵察へ行くメンバーは三人。残ると決まった者は全て、陵王高校の守りとなる。
「そろそろ行こうか。暇つぶしには良いけど。他人の尻拭いは、好きじゃないからね」
ククリ刀を携え余裕を見せるのは、偵察の同行者となる夕山。外へ出るに抵抗感は微塵もなく、戦闘能力も頭一つ抜ける秀でた人材。
しかし今回の偵察には、とても消極的な姿勢。他人の尻拭いを兼ねている点で、どうにも納得できぬ部分があるようだ。
「本当にボクも、行かないとダメですか?」
最後の同行者となるのは、青年を改め三又という二十歳の男。終末の日以前はフリーターで、コンビニエンスストアでアルバイト。
現場の状況を知る者だから、同行させるべきとの判断。それでも三又は外へ出ることに、抵抗感あり消極的な姿勢を見せていた。
「危ないと感じたら、命を第一に。退くと言う選択も、頭に入れておいてね」
「了解っ!」
ナナさんに気構えと注意の指摘を受け、不安を胸に仕舞い三人で敷地外へ出る。
目指すは駅裏に位置する、ボウリング場。屍怪が存在する中でも、偵察のために歩き始めた。




