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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第三章 変貌の街

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第116話 凶報

「それじゃあ、行ってきます」


 迷彩服を着たヤマトは身支度を整え、迷彩色のジープに乗って言う。

 通常車両と比較し装甲が厚く、防御力も高い軽装甲車両。定員は五人と横幅の広い、唯一動く自衛隊車両である。


「二人とも、無理はしないでね」


 陵王高校にて残る側のナナさんは、念入りに注意を促していた。

 浄水場へ行くこと決まってからは、体育館にて事情を説明。避難者たちの理解を得て、明朝となって出発のときである。


「大丈夫よ。あの二人なら」


 排気音を鳴らし走っていく車を前に、ナナさんは毅然とした態度で見送っていた。

 陵王高校を出て、浄水場へ向かった二人。水の問題を解決するには、吉報を待つ他ないだろう。



 ***



「ボクたちは今から外へ出て、使えそうな物を探しに行こうと思っているんです」


 外出の許可を求めにきたのは、発言する青年を含め四人の男女。

 男性自衛官がいなくなったこともあり、代わりにナナさんと二階の教室にて待機中。先頭に立つ短髪の青年は色白で、細く虚弱に見える体格。青と白の縦縞シャツを着用し、補給へ行くのは初めてではないと言う。


「場所は特に決めてないんですけど。電気が復旧したから、電化製品だって欲しいですし。水や食料の問題だってある。いろいろ必要な物を探し、臨機応変に動こうと思って」


 青年たちは外へ行くにつき、場所を決めていなかった。

 外へ出るために、決められたルール。二人以上の人数で、行く先を告げる。要件を満たせば問題ない話であるも、後者の責務を果たしていない。


「場所を限定し過ぎていたら、動き難いですよ。ボクたちは四人もいるわけですから、ダメですかね?」


 要件を満たしていない自覚ある様子も、引かずに問い続ける青年。特定は異変時に向かう場所となり、たしかなメリットもある。

 しかし限定に順守ともなれば、融通が利かず不便との声。ルールについては即席で決められ、見直す余地ある点は否めなかった。


「……そうね。でも暗くなる前には、絶対に戻ってきてね」

「やった! ありがとうございますっ!」


 苦慮した末にナナさんは判断を下し、顔を合わせ喜び感謝する青年と三人。意気揚々と笑顔を見せ、二階の教室から出ていった。

 今回におけるナナさんの判断は、決して間違っているとは言えないだろう。それでも大事が起きるのは、すぐ先の話であった。



 ***



「大変だっ! 大変なんだっ!! 誰か助けてっ!!」


 避難者が集まる体育館にて、倒れ込み青年は言った。肩で呼吸をしては息も荒く、多量の汗に涙目と尋常ではない様子だ。

 現在の時刻は十七時頃と、日が弱くなり始める時間帯。午前から四人で外へ行ったはずであるも、青年の他に三人の姿は見えない。


「とりあえずは、深呼吸。落ち着いてから、話しをして」

「……はい。あの、水を……」


 背中を撫で促すナナさんに、息を荒く要求をする青年。避難者の一人が持ってきた水を飲み干し、二階の教室へ移動をして話し始めた。

 岩見沢市内にある電化製品店を、回っていたと言う青年を含む四人。水道が使えぬ状況を打開するため、水の確保に浄水機を探していたとの話。


「最初の頃は屍怪との遭遇も少なく、特に問題はなかったんです」


 屍怪を倒すこともでき、万事順調であったと青年。事態が急変したのは、駅前を訪れたとき。


「生きた人間二人に、出会って。奴らはいきなり、……銃を向けてきたんだ」


 下を向いて唇を噛む青年は、体を震わせ語っていた。

 銃を向けられたとなれば、安易に抵抗もできず。四人は命令させるがまま、駅裏のボウリング場まで歩かされたという。


「怖くて。でもボクだけは、隙をつき逃げてきたんです」


 必死に走っては報告するため、陵王高校へ戻ってきたと青年。一人では事態を解決できぬと思い、助けを求めに帰ったと言う。


「相手が二人なら、余裕そうだけどね」

「本当に二人かは、わからないわよ。ボウリング場に仲間が居たら、一気に形勢は変わるわ」


 話を聞いていた夕山とハルノは、各々に考察し意見を言う。

 自衛官たちの待機場となる二階の教室には、騒動を聞き知り集まった大人たち。ランタンが灯される室内にて、凶報につき話し合いが行われていた。


「目的は、なんだろうな? 屍怪が相手ってわけではないから。すぐに命が危ないって話では、ないんだろうけど」  

「なんで命が危なくないって、言えるんですかっ!? 奴らはボクらの仲間を、無理矢理に拉致した連中ですよっ!!」


 話に加わり意見をしたところで、青年は感情的に物申す。


「それは……」

「すぐに殺してないからだよ」


 説明をしようと思ったところで、間に入って夕山が告げる。


「殺すことが目的なら、その場で殺すはずだからね。連れて行ったってことは、何か別の目的があるはずだよ」

「なら、みんなは。無事にいるってことですよねっ!?」


 思っていたことを代弁する夕山に、納得してもなお前のめりな青年。

 仲間の身を案じては、藁にもすがる思い。偽らない夕山の発言に、希望を感じているようだった。


「無事かどうかは、わからないけどね。百パーセント生きているって、断言できる話でもないよ」


 しかし夕山は容赦なく、現実を突きつける。そのため青年は再び、下を向き意気消沈していた。


「何はともあれ、助けは早いほうが良いはずだっ! 相手が何人かは、わからないけど。こちらもできる限りで、手を打って行こうぜっ!」


 相手が何者であれ、良心的な行いとは言えない。

 目的や人数など、不明確な点は多数。それでも助け出すに、理由はいらなかった。


「今日はダメよ。暗い中で屍怪に遭遇したら、最悪の事態だし。助けに行くにしても、明日! これからの事は、みんなで話し合いましょう」


 ナナさんの話を受けて、今日の助けは断念。

 何人で行くか、また方法など。夜も更けランタンを囲む教室にて、話し合いは長く行われることになった。


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