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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第三章 変貌の街

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第113話 適任者

 二日酔いでヤマトは、もちろんダメだし。ナナさんも介抱で無理。

 タケさんだって何かと、忙しそうだったしな。


 頼れる自衛官たちも、今は誘い難い状況。

 当てもなく彷徨い、訪れたのは家庭科室。家庭科室内には二人の女子がおり、エプロン姿で何やら調理をしている様子。


「こんな感じで良いかしら?」

「はい。あとはもう、揚げて大丈夫です」


 ボールを持って問うハルノに、葛西さんは確認し答えている。

 調理に関して自信ないと、日頃から言っていたハルノ。料理が得意な葛西さんに、教えてもらっていたのだ。


「何を作っているんだよ?」

「鹿肉のヒレカツよ。保存に適した燻製は、もう充分な量だから。あとは調理をして、早く食べないと」


 ハルノは切られた鹿肉にパン粉を付け、熱された油に落として言う。

 残っていた鹿肉はクーラーボックスに入れ、鮮度を保つよう保存している。冷やすに使用したのは、理科室にあった液体窒素。残量は多くないため、長持ちはしないだろう。


「へぇ。変わっているな。マヨネーズを使っているのかよ?」

「本当は卵を使うべきなんでしょうけど。手に入るわけもないから。代用よ。代用」


 鹿肉のヒレカツを調理するに際して、ハルノは馴染みないマヨネーズを使っていた。本来なら衣を付けるために、溶き卵が使用されるところ。

 しかし生鮮食品である卵は、今となっては入手困難。マヨネーズは卵を使用していることから、問題なく代用可能であるとの話。


「試食してみますか?」


 葛西さんから促され、鹿肉のヒレカツを食す。

 フワフワの衣に、僅かに感じる酸味。厚さある中でも肉汁が溢れ、熱々となれば一段と美味。マヨネーズとの相性も抜群で、聞かねばわからぬ話だった。


「わからないものだな。卵を使ってないなんて」

「でしょ? 全て真弥ちゃんの技術だから、見習って吸収しないとね」


 教えに従いハルノは、真摯に料理へ向き合っていた。知っているところでは、味付けは目分量で大雑把。包丁の使い方もままならず、魚を捌けず下ごしらえも苦手。

 鍋料理が唯一の得意料理と、上昇志向もなかったハルノ。今回は一念発起したようで、上達に積極的な姿勢。ガソリン補給への勧誘は、出鼻を挫くに他ならず。意図を汲んでは諦め、他を探すことした。



 ***



 ハルノもダメか。あと外に出た経験あるのは、梶丸さんと補給へ行ったメンバー。


 発電機を修理した梶丸さんには、宣言した手前もあって頼み難い。それに修理で蓄積した疲労を、回復へ当ててもらいたいところ。となれば残す選択肢は、前回の補給へ行ったメンバー。

 しかし補給へ行ったメンバーの数人は、外へ探索に向かったとの話。陵王高校に残り動ける者は、現在のところ相当に限られていた。


 今日に限ってみんな、動けないのかよ。

 でも発電機の稼働は急務だし。先へ延ばすべきでは、ないよな。


 頼める当てなく校内を歩き、三階の図書室前。思案しながら進んでいるところに、前方から何者かが近づいてきた。


「どうしたの? 深刻そうな顔をして?」


 声をかけてきたのは、赤い髪が特徴的な夕山。屋上で過ごす時間が多いとの話も、寝食をするとなれば校内。

 夕山が居とするに選んだ場所は、本に囲まれる図書室。読書が好きであることに加え、人もあまり訪れぬ場。深く交流を望まず静かに過ごせるとなれば、意向に沿い理想的な所であると言う。


「適任者。見つけ」

「それ。どう言う意味かな?」


 手を掴み突然の宣言に、夕山は困惑していた。

 屍怪が徘徊する札幌の街を、一人で歩いてきた夕山。戦闘能力が秀逸であること加え、臆する心配なく精神面も問題なし。補給へ参加していなくとも経験が豊富で、これ以上に相応しい人物はいないだろう。



 ***



「ガソリン補給ね。問題ないよ」


 事情を説明し打診すると、夕山は笑顔で了承してくれた。


「電気の復旧は、早いほうが良いだろ。でも今日に限って、人が見つからなかったんだ」

「やる事が少ないって聞いていたから、人手は余っているものだと思っていたよ。珍しい日もあるものだね」


 夕山も話す通り避難生活では、暇を持て余している者も多かった。

 終末の日となる以前ように、毎日の仕事や学校。社会自体が動いてなければ、通勤や通学の必要もないのだ。


「それでも最近は少しずつ、みんなも変わってきたんだぜ。積極的に外へ出る人が増え、食料や物資の補給に。校庭には畑を作って、自給自足も始めたくらいだ」


 避難生活が長く続いているため、起きつつある全体の意識変化。変わってしまった世界を生きるため、各々に適応が見られるようなっていた。


「てか、夕山。偶にはみんなの所に、顔を出したらどうだよ? 機会は何度かあったと思うけど。全然だろ」


 先日の七夕はもちろん、物資の補給や畑仕事。最も人が集まる体育館にさえ、夕山はほとんど姿を見せていない。


「大勢の集まりとか、好きじゃないんだよ。人に合わせるって、柄でもないからね」


 夕山は自己分析した結果を言い、集まる場を敬遠していた。

 元から一人でいることを、好むところある夕山。図書室や屋上で読書をし、気が向いたときには外へ。単独行動を主とし、生活しているようだ。


「それでも偶には、顔を出したほうが良いと思うぜ。状況は刻一刻と変化しているわけだし。外へ出るのにも、新たなルールが決まったんだ」

「へぇ。そうなんだ。まあ気が向いたら、顔くらい出すよ」


 興味や関心がなさそうに、夕山は話しを流していた。

 避難所となる陵王高校でも、夕山と交流ある者は多くない。他者との繋がり希薄であれば、情報を掴む機会も少ないのだろう。


「ナナさん。同行者が決まったので、俺たちはガソリン補給へ行ってきますね」


 条件を満たしたとなれば、滞りなく許可は下りた。靴紐が解けぬよう強く結び直し、ベルトにあるホルダーへ刀を帯刀。

 しっかりと準備を整えて、正門の鉄柵を越え敷地外へ。同行者となった夕山と二人で、坂を下りガソリンの補給へ向かった。


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