第111話 追求
陵王高校の屋上から眺める、満天の星たちが輝く夜空。宝石箱を落としたかのよう光景に、美しく流れる天の川。
壮大な光景は言葉を失うほど、まさに絶景。至る所から聞こえる虫の音に、ぬるい風が肌に触れすぎていく。圧倒される中でも風流で、気持ちを穏やかなものにした。
「凄く綺麗な星空! 都会に住んでいたら、見られない光景ねっ!」
続き屋上を訪れたハルノも、壮大な夜空を前に感銘を受けている。
都会となれば至る所に高い建物があり、人工的な光や生活音も溢れ散々。空気が良く今より綺麗に見られる場所は、そう簡単に発見できないだろう。
「ハルノ。屋上に呼び出した理由は、聞きたいことがあるからなんだ」
盛り上がった誕生会と二次会も終わり、人々が各々の居場所へ戻っていくとき。ハルノに声をかけては、二人になるため屋上へ呼び出していた。
「そうよね。記憶が戻ったんですもの。……わかったわ」
どこか言い難そうにしているものの、ハルノも最初から覚悟をしていたようだ。
失った記憶の回復により、浮上した幾つもの疑問。前回は啓太の出現により、話しを途中に有耶無耶。今回こそは二人きりで、追求の機会である。
「前にも聞いたけど。嘘をついた理由。父さんに頼まれたって、どういうことなんだよ?」
記憶障害になった原因を、交通事故と聞かされていた。
しかし実際のところは、全く異なる事件が原因。嘘をついた動機に、その必要性。隠していたことを、明らかにするとき。
「嘘をついた件に関しては、本当に隠すよう言われただけなの。これは私の想像だけど。蓮夜が記憶を失うことになった事件って、蓮夜のお母さんが深く関係しているじゃない。事実を突きつけるには酷な話ですし。心理的な負担をかけるより、怪我の回復を優先させたんじゃないかしら」
状況を説明するハルノにも、真実はわかっていなかった。
言葉にしなければ、伝わらない思い。結局のところ真実は、父さん本人に聞く他ないようだ。
「それなら、この刀。俺の刀がどうして努さんから、ハルノに渡されていたんだよっ!?」
今も所持する黒夜刀は、元から自分の所有物。
終末の日には届け物とし渡されるも、叔父の一ノ瀬努やハルノの父親。誰かの手に流れたなど、聞いた話ではない。
「それは私も気になっていたのよ。引っ越してから普通に過ごし、何事もなく一年以上。そんな中で刀の話題が出たのは、四月上旬頃の話だったわ」
ハルノも刀の件に関しては、疑問を抱いていたと言う。
それでも努さんから、預かるよう強い要請。拒否する理由も少なく、結果として承諾したとの話。
「刀の話は努さんから、直接の案件。受け取った日が終末の日に重なったから、タイミング的にも驚いたわよ」
ハルノにすら疑問あるとなれば、真実へ迫るに遠い。
真実を知るのは、叔父である一ノ瀬努。こちらも全てを明らかにするには、当人に話を聞く他ないようだ。
「今までの話。嘘はついてないよな?」
「ついてないわよ。今さら何かを隠して、なんのメリットがあるっていうの?」
ハルノに真偽のほど確認してみるも、知る情報は開示したとのこと。
しかし得た情報では、未だ不明な点が多い。新たな疑問が幾つも浮上し、未解決と差して変わりないだろう。
「最後にもう一つ。俺が岩見沢に来た理由と、ハルノの転校。俺が療養のために来たのは、まだ理解できるけど。ハルノはどうなんだよ? ハルノの親父さんが軍人なのは知っているけど。転勤とかっていう、立場でもないだろ?」
療養による引っ越しと、転勤が重なる不思議。東京から同時期に同じ場所へなど、限りなく低い確率の一致。
となれば何か、裏がありそうな気配。作為的な力を感じては、問う必要性あるよう思えた。
「それは……私が志願したの」
今までの追求に対す答えと異なり、声に張りなくボソボソと言うハルノ。
虫の音だけが響く、陵王高校の屋上。どこか変な間ができては、異質な空気が流れていた。
「それって、どういうことだよ? もしかしてまだ何か、隠し事でもあるのかっ!?」
違和感を覚えては、手を休めることなく追求。
疑問に思っていたことを、解決する機会。今となっては何もかも、有耶無耶にさせる気はない。
「大きな事件があって、大怪我だったのよっ!! 記憶に障害も残って、心配だったからっ!! 無理を言って通してもらったのっ!!」
追求する側であったはずも、もの凄いハルノの剣幕に気圧される。
記憶障害に大怪我のリハビリ後で、不完全な身を案じていたハルノ。当初から献身的に支えてくれ、いつも近くで助けになっていた。
「私が知っている情報は、こんな感じよ。特筆する情報はないと思うし。今の状況は予期せぬところで、ハッキリ言って何もかも理解不能なの」
ハルノは質問に対し真摯に答え、知りうる全てを語ってくれた。
ハルノの情報から得たのは、真実を知るだろう人物の名前。今も胸に燻る疑問を解決するには、当人たちから話を聞く他ないだろう。




