表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の黙示録  作者: 無神 創太
第三章 変貌の街

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/362

第106話 新たな試み

「何かみんなが明るくなる、楽しい事をやらないか!?」

「どうしたの!? 急に!?」


 なんの前触れもなき唐突の提案に、ハルノは驚き目を丸くしていた。

 陵王高校に避難をして二ヶ月以上が経過し、生活面が安定してきた今日この頃。終末の日を境に娯楽は少なくなり、マンネリ化した日常にあるのは暗い影。日々のストレスや退屈などを考慮すれば、気持ちをリフレッシュする機会が必要だと思った。


「わかったけど。何をやるつもり?」


 体育館の壁に背を預けるハルノは、視線を飛ばして詳細を問う。使える場所や空間は、陵王高校の敷地内に限る。

 しかし広い校庭で音を発せば、屍怪を呼び寄せてしまう可能性。現実的に考えて使えるのは、中庭や体育館くらいのもの。


 体を動かせるから、運動をしたかったけど。大勢でやるなら、場所的に厳しいよな。

 もうすぐ八月か。時期的に何か、できるイベントでもあれば良いけど。


「七夕なんてどうかしら? 中庭の木を使えば、飾り付けくらいできそうだけど」


 不意に背後から抱き付いてきたのは、女性自衛官のナナさん。

 毎回のよう背後から腰に手を回し、肩に顔を乗せるという対応。何度となく繰り返される行為に、今や拒絶することも少なくなっていた。


「七夕か。良いかもしれませんねっ!?」


 七月から八月にかけて行われる、伝統行事の七夕。北海道ではローソクもらい、仙台ではそうめんを食べる習慣があると言う。


「悪くないと思うわよ」


 提案に対しては肯定しつつも、どこか仏頂面を見せるハルノ。理由はわからぬも少し、不機嫌になっている様子。


「夜なら気温も今より落ちるし。昼よりは動きやすいはずだっ!」


 暑さに対する対策にも、都合の良い時間帯。


「善は急げ。話が決まったとなれば、大人たちにも話を通さないとね。やるとなれば短冊とかも、用意しないとだっ!」


 登場したナナさんの提案により、トントン拍子に進む展開。


「やるからには、キチッとやろうぜっ!」


 七夕を開催するとなれば、イベントは初の試み。終末の日を過ぎ新たな挑戦となれば、否応なしにやる気が満ちてくる。


「燃えているねぇ。蓮ちゃん。なんか、青春って感じだっ!」


 議論に混ざり提案をしてくれたナナさんは、話が決まったあとも抱き付いたまま。頬に触れそうな紫色の髪に、全身に密着する体。背後から腰に手を回されては脱出できず、背中には柔らかい感触すらある。


「ナナさん! あまり抱き付かないでくださいよっ! 動き難いですからっ!」

「ありゃりゃ。そう。少しは嬉しいかと思ったのに」


 身動き取れぬ現状に苦言を呈すと、ナナさんはやっとのことで離れた。


 初めて会ったときから、そうだったけど。スキンシップが過ぎるんだよな。

 勘違いされても困るだろうから。もう少し気をつけたほうが、良いと思うんだけど。


「ハルノからも、何か言ってくれよ!」

「そんなの、自分でなんとかしなさいよ」


 女性の意見を聞こうとハルノに問うも、素っ気ない態度と愛想のない塩対応。不機嫌な状態となっては、まともに取り合う気はないようだ。



 ***



「七夕をやるったって、結局のところ何をするんだ?」


 提案について意見するヤマトは、内容につき疑問を抱いていた。

 体育館から移動をして、二階の空き教室。隅で広げられるテントに、壁に立て掛けられる木槍。黒板には【問題と対策】という文字が書かれ、自衛官たちの取り組みや姿勢が見てわかる。


「それはあれだろ。短冊に願いを書いて、木に吊るすんだろ」

「そんな事をして、何か意味があるのか?」


 行為の必要性を問うヤマトの疑問は、考えてみれば核心を突いていた。

 祈り願う行為が必要かと考えれば、現実的に効果を肯定できず必要性はない。そのため意味を問われれば、絶対的な答えなどないだろう。


「こう言うイベント行事ってのはね。深く考えないほうが良いの。意味なんてものは、人間が付けたに過ぎないんだから」


 質問に対する答えに苦慮していると、間に入りナナさんは意見を述べた。

 生命活動を維持にするにつき、必要不可欠な衣食住。しかし衣食住を除けば、特別必要な事項などない。


「誕生日に正月。音楽ライブやスポーツイベント。生きるために必要かと問われれば、絶対ではないでしょ?」


 黙って話を聞く姿勢に、意見を述べ続けるナナさん。


「心の安定。一見して無意味なことの方が、面白かったりするのよ」


 最後に付け加えるナナさんの意見に、ヤマトと頷き納得がいった。

 生命活動を維持するためでなく、心と精神的な問題の健全化。陵王高校の避難者にゆとりを持たせるため、今は最も必要なものだと言える。


「そりゃあ、良さそうじゃあのっ!」

「爆裂に面白そうじゃあねぇかっ!」


 大人たちと全員に話を通す中で、梶丸さんに源蔵さんと賛同してくれた。

 娯楽が少なくなった世界で、イベントと初の試み。反論はなく笑顔を見せ、心踊らせる人も多かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ