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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第三章 変貌の街

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第103話 夕山回想禄5

「話しは聞きました。成海君。君があの場にいた生徒たちを、殴った事は本当ですか?」


 校長室にて立って向き合うのは、六十代と白髪に気品ある女性校長。一際立派な机を前に座り、後ろにはブラインドが上げられた大きな窓。日差しがよく入っては、逆光で影が強調されている。

 喧嘩となった日から数日が経過し、未だ顔には絆創膏と痛みが残る日々。五人の教師が立ち会う中で、事情聴取のよう説明が求められていた。


「殴ったのは本当ですけど。僕は――」

「ですけど。じゃあ、ないだろう!! 成海!! わかっているのかっ! お前はどれだけの大事を起こしたのかっ!」


 弁解の機会も途中にして、口を挟む顧問の男性教員。


「何人もの生徒が大怪我をしたんだっ! しかも三人は病院送りっ! ここまでの大事を起こして、口答えまでするつもりかっ!!」


 顧問の男性教員は激情に駆られ、険しい表情に強い口調で訴えている。

 喧嘩が大事になり過ぎてか。今やこちらの言い分を聞くは、全くなし。己が意見を通せれば、良いと判断しているようだった。


「そんなの僕には関係ないね。言っておくけど、喧嘩を売ってきたのは向こうからだ。僕は自分の身を守るために、正当防衛をしただけだよ」


 結果が大事になったとしても、過程を蔑ろにしてはならない。

 己が信じる正当性と、揺るがぬ事実。他人に何を言われようと、主張すべき点は言わねばならなかった。


「成海! 教師に向かって今のは、なんという言い草だっ! お前が暴力的で話を聞かぬ奴だと、思ってもみなかったぞっ!!」


 自分の思い通りに話が進まぬとなれば、顧問の男性教員は怒り狂っていた。

 一方的な物言いに、人の意見を聞かぬ姿勢。今はこの男に何を言ったところで、理解できず無駄な話であろう。


「先生も落ち着いてください。でも、成海君。仮に成海君の話が本当だとしても、三人を病院送りにする行為は過剰です。保護者や関係者への対応。事実の確認や説明は全て、こちらで行わなくてはいけないんですよ」


 穏和な口調で言う校長の言い分には、一理あって汲むべき点があるのは理解できる。

 たしかに結果として見れば、やり過ぎな感は否めないのだろう。関係者となる全ての人に迷惑をかけるのは、今や仕方ないことであった。


「成海君を停学処分とします。もちろん他の生徒たちからも話しを聞き、追って処分を下す予定です。あなたは自分のした行動を改め、しっかり自宅で反省して下さい」


 今回の暴力事件につき、校長から処分を受けることになった。

 発端は相手方にあっても、責任ないとは言い切れない。甘んじて停学処分を、受け入れる他なかった。


「お前は退部処分だ。もう二度と剣道部に、顔を出さなくていいからな」


 校長室を出たところで、顧問の男性教員に告げられた。

 正当性と合理性を欠き、納得できぬ部分も多い。それでも生徒である身分では、抗う手段は何もなかった。



 ***



「誠に申し訳ありません。はい。こちらが治療費を負担しますから」


 自宅へ帰宅すると玄関前では、固定電話を持ち通話する母の姿。

 電話をする相手は、喧嘩相手の保護者。詳細を聞かずとも悪いと前提し、頭を下げ火消しに奔走していた。


「なんて事をしてくれたんだっ! お前の教育が悪いから、こんな事になったんだろっ!!」


 二階と階数に自室の壁を挟んでも、父親の怒鳴り声は耳に届いていた。

 父親は母の再婚相手で、本当の父ではない。とても世間体を気にする人物で、折り合い悪く互いに距離を置いている。

 食事時に顔を合わせても、会話はほとんどなし。再婚してからは母との関係も悪くなり、基本的に干渉をしない日常。言うなれば、仮面家族といってよいだろう。


「……ッチ!」


 自宅内で父親とすれ違っては、何度も受ける舌打ち。常に何か言いたそうにしているも、結局のところ最後まで話すことはなかった。

 二週間の停学期間が明け、久しぶりの陵王高校。教室や廊下とどこにいても、好奇の眼差しと噂に苛まれた。


 嫌になるね。全く。


 他人の噂など、気にせぬ性格と自負している。それでも耳障りであり、気分が良いわけではない。

 学校へ通うこと自体を、サボるようになった。何もかもに嫌気が差し、行っても無意味な気がしたからだ。


「成海君ってさあ。薬物をやっているらしいよ」

「オレは駅前で、カツアゲをしているって聞いたぜ」


 噂は尾ひれがついたよう誇張され、今や事実と異なる部分が大半。

 しかしそれでも疑う者は少なく、噂を信じる者が多数。いつの日からか誤った事柄も、事実として扱われるようになっていった。


「離婚することになったの」


 椅子に座る母はため息を吐き、離婚届を見せて言った。

 暴力事件を発端に、母と父親の関係は険悪化。三月を前に離婚が決まり、家を出ていくことになったのだ。


 とても綺麗とは、言えないね。


 引っ越した先は木造二階建てのアパートで、築年数は三十年を超えて古びた感じ。隣には高層マンションがあって、日当たり悪く立地的にも恵まれていない。

 住み慣れた岩見沢を出て、新たな街となる札幌。引っ越したことをキッカケに、髪を黒から赤色に染めた。


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