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短編小説集 雨千雨

刀神の忘れ人 蛍火でまた会いましょう

 赤い空に染められる赤い大地。ここにはかつての強者達が眠っている。


 初めて我を意識したのは最後の主人が倒れた瞬間だった。それ以降、我は誰の手に渡ることなく地面に突き立てられている。


 当時は多くの屍が転がり、屍肉を貪りに来た烏どもが我を止まり木代わりに羽を休めていた。

 だが時のたった今、骨を喰らう酔狂な者はいない。


 我はこの何もない土地で長い時を彷徨った。地面から動くこともなく、ただ代わり映えのない景色を眺めていた。

 時折り我の持つ前の記憶を遡っては身震いした。


 我は人を斬る道具。そのようなものに何故自我があるのか分からないが、意識ある以上仕方ない。

 いつ終わるとも分からない悠久の時の中、我は新たな主人が現れるのを待った。


 我の主人は何かを守るためにその命を賭した。確か前の主人も、その前の主人も同じような散り方をしていた筈だ。


 このまま朽ち果てるなら、最後にもう一度強者の手に渡り、思いを遂げたい。


 しかし待てど暮らせど我を握る者は現れなかった。


 雨風に晒され錆び付いた我を使う阿呆はいないであろう。

 そう自嘲したのはいつのことだっただろうか。気が付けばその思いすらも錆びつき始めていた。


 夜も昼と何か変わるものはない。

 だが今日はいつもと少し違った。一日の終わりに諸行無常を感じていると、珍しく客が現れたのだ。



 あら、まだ自我が残ってるのね。でも前より錆び付いてるわ。見た目も、中身も。


 不躾な客は我の目の前を飛び回り、柄に止まった。


 そうか、もうこの時期が来たか。



 淡い蛍火が飛び回る光景を見て、我は幾度となく見てきた者を見やる。

 黒い小さな虫だ。一年の内、この季節に飛び回り、子孫を残すための営みをする。


 不思議とその内の一匹は必ず我に止まり話しかけてくる。我のように自我を持って。



 主は何代目になろうか。覚えておるか?



 我は光らぬ子孫に問いかけた。以前は年月を数えていたがいつしかしなくなったからだ。



 あたしも知らないわ。もう何周目かなんて、そんなの数えても無駄よ。

 輪廻の時もいつかは終わる。あたしも、あなたもね。その時は今度こそ、あなたと一緒に朽ち果てたいわね。



 くすくすと笑うように飛び立った子孫は、また来世でね、と言い残して光の乱舞に消えていった。



 また、か。主の輪廻はもう終わりだろうに。


 子孫に聞こえないよう呟いた。しかしそれを嘆いても我の時は終わらない。


 せめてこれから旅立つ主人に想いを馳せよう。薄れゆく中我は主の名を呼んだ。

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