第四話 四両~二両目「過去」
四両目に入った途端、電車内の壁が呻き声をあげて血を吹き出す。
誠と部長はそのあまりにもおぞましい光景に言葉を失いただ呆然と見ているだけしか出来なかった。
「なんですかこれ…」
「ねぇ誠君、私達本当に電車に乗ってるの?」
「いよいよそれすらわからなくなりましたね…
しかし今は運転席を目指しましょう」
ワニやカメの皮膚のような壁は血を噴き出し、2人はそれを避けながら進んでいった。
「ううっ…また、頭が…」
「私もよ誠くん…まったく、この電車本当になんなの?
何を見せられてるの?」
そして2人の目に飛び込んで来たのはメガネをかけた男性が虐められる中学時代。
殴る蹴るなどの暴力や悪口は当たり前で、本やノートを捨てられたり、毎日酷い虐めを受けているものだった。
彼は家でも両親に嫌われており酷い虐待もうけていた。
ただ、そんな彼の孤独な人生にもひとつの救いはあった。
それがペットのワニの存在だった。
彼はワニを愛情をもって育てていたが、ある日、突然急死してしまったのだ。
体のところどころ出血しており、刺し傷があり、彼は大泣きした。
その後、犯人を探すが防犯カメラに映っていた映像で家に上がり込んできたクラスメイトのしわざだと判明する。
しかし彼はペットの死因は自分のせいだと思い、ずっと後悔しながら同じような日々を繰り返し生きていた。
やがて就職し、ろくに休みもない過酷な労働環境の職場で彼は働いていた。
社宅の家賃、食費、親への仕送りを入れれば月に自由に使える金などほぼ無いと言っても良い。
そんな彼はある時、電車に飛び込んで自殺をしたのだ。
世間にはその後、気味の悪い電車オタクの自殺とレッテルを貼られ一時期騒がれたそうだ。
「はぁ…はぁ、気付けば二両目です…部長、意識はありますか?」
「あるわ…しかし彼、なんて人生なの…
私、怖くて震えが止まらない…」
「例えどんな理由があるにせよ、私達を巻き込んで不幸にする事は間違っています!」
その時、電車が止まりました。
ドアが開き駅名が真っ白の駅が見えています。
「降りますか?部長」
「ええ、そうしましょう」
真顔になった2人は、見知らぬ駅に足を踏み入れた。
辺りは夜で不思議と虫の声すら聞こえない。
まるで無人の駅で、誠達は震えながら辺りを見渡していた。
「出口はあるようです」
「ここ…何処なの!?本当に私達、この駅から出ても生きて帰れるの?」
すっかり恐怖で心が折れた部長と、ビクビク震えている誠が、懐中電灯を照らしながら駅の外へ歩いていく。