第三話 7~5両目「悪夢」
ただし7両目へと足を踏み入れた瞬間、誰かがいる気配がした。
同時に来る強烈な目眩、二人はその場に立っていられなくなり意識を失ってしまう。
「んっ…何処ですか…ここは」
「ま、まさか…学校??」
蝉の鳴き声が聞こえる教室、窓の外からは夕焼けの日差しが差し込んでいる。
どうやらここは放課後の教室のようだ。
(この状況、いったい…)
目を擦り辺りを見渡せば、知らない男女生徒達に円を描くように囲まれていた。
「こいつ誠か?女装してやがる!」
「うっわ、変態野郎だ、今からこいつトイレ連れてこうぜ?」
「こっちもコスプレなんかしてステッキなんか持ってるわ?」
「あはははは、この歳になって魔法少女なんて恥ずかしい奴ね~♪」
「うっわぁ、こいつらキモ~い!」
誠と部長は教室内の生徒達に上履きで踏み付けられ、服が汚れていく。
体を動かそうにも何故かぴくりとも動かず、身動きが出来ない。
しかし上履きで腹部、脇腹を蹴られ、誠と部長は苦しみ叫び声をあげてしまう。
「痛っ!やめて下さい!
これは違うんです!霊をおびき寄せる為の作戦でして!」
「あんっ、いた~いっ…
やめてよぉ…別に私がどんな格好をしてようと自由でしょ?」
しかし、生徒達は不自然にケラケラ笑い二人への暴力をやめなかった。
やがて誠は男子トイレに、部長は女子トイレに連れて行かれ個室に閉じこめられた。
「ひいぃっ!
何をするつもりですか貴方達!
やめなさい、先生に言いつけますよ!?」
個室の外からジョボジョボとバケツに水をくんでいる音がする。
そして、汲み終わりしばらくすると、水は天井からぶちまけられた。
「ひっ……ひいぃぃっ」
「「ぎゃはははは!!!」」
びしょ濡れだった、誠は水で濡れた女子生徒の服で寒さで震えている。
そこへ男達の笑い声が響き渡った。
「きゃあぁぁっ!!やめてぇっ!!」
女子トイレのほうからもおそらく部長が同じ目に遭わされており、女子生徒達の笑い声が聞こえていた。
──そして二人は目を覚ました──
「「はぁ、はぁ…」」
どうやら、誠と部長は座席で眠りに付いていたようだ。
気分は最悪のまま、二人は飛び起き顔を見合わせる。
当然二人とも疲労が見え、今にも吐きそうな表情だった。
「誠くん大丈夫?
体が震えてるように見えるけど…」
「部長こそ顔色が悪いですよ?いつもの中二病パワーは何処へ行ったんです?」
二人はぶるぶる震えながら立ち上がり、前に進もうとするのだが明らかに無理をしている。
足元はフラフラでこの先へ進むことが怖くて仕方なくなっていた。
「頭が痛い、目眩がします、このままではまた…」
「はぁ、はぁ…誠くんもうだめっ、またっ…」
車両内の空気を吸っていると、呼吸が苦しくなり、足元にも力が入らなくなってくる。
二人は倒れ込むように、座席へもたれ掛かり、仕方なく座ることにした。
そして目を閉じると、そこは昼の教室で、二人は同じ教室で授業を受けていた……。
学年も違うはずなのに誠は女装のまま、部長は魔法少女のコスプレ姿のまま。
そして知らない生徒達と見たこともない先生だった。
「ぷっ…何あれ、校則違反じゃんっ♪」
「気持ち悪い、なんなの?」
「そんな格好で学校にきて良いと思ってるわけ?」
二人は生徒達に笑われ消しゴムのカスなどを投げつけられていた。
机の中を見ると教科書やノートがボロボロになっている。
引きちぎられたものや水浸しになったものもあり、これではまともに授業など受けられなかった。
黒板に何かを書いている先生は見て見ぬふりをし虐めを無視しているようだった。
「はぁ、はぁ…いったいこれは…」
「ううっ、何なのよもう、こんな思いするくらいなら来なきゃ良かった…」
誠と部長が意識を強く持つと、目の前は電車の中へと戻り、ふらついた足取りで座席から立ち上がった。
そうして5両目の通路を通過して、二人は汗びっしょりのまま4両目へと入っていく。