第一話 廃駅にて
世界各地にある心霊スポット…
そのほとんどが今も謎に包まれており怪奇現象が起こると噂されている。
信憑性のあるもの、ないもの、様々だが、実際にどうしてそうなるのかは解明されていない。
「で、霊は結局いるのですか?いないのですか?」
牛乳瓶の底のような渦巻いたメガネをかけ、黒い学生服に身を包んだ誠はオカルト研究部の中でそう口にした。
「それがわかったら苦労しねぇよぉ…」
「でもさ、霊的現象の大半は結局虫とか動物だったりするよね?」
部員の二人が夢も希望もない事を口にする。
そもそもこの部は、心霊スポットに向かったり、オカルト実験を繰り返すような事もなく、ただ部室で飲み食いするだけの何の成果も上げられない部活だった。
部長がコスプレイヤーの可愛い美少女という事もあり、実の所部員はそれに釣られて集まって来ただけの中身のない部活だったりする。
そしてコスプレイヤーの部長本人は自身を魔法少女だと言い張る中二病の残念な人だった。
「私は幽霊がいると言うからこの部に入部したのです!
何の手掛かりもなく、誰も見た事がないのでは、この部をやる意味がないじゃないですか!」
誠は幽霊の事となると顔を真っ赤にし、いつもこうだった。
彼が何故こうも幽霊に執着するかと言えば理由がある。
それは数年前、姉が誠の目の前で消えたからだった。
あの日、姉に心霊スポット探検に付き合わされた誠はもう使われてない山奥の廃駅に向かって行った。
そして来るはずのない電車をベンチで待ったのだが、何とその時に不気味な外見の10両もある電車が駅に到着したのだ。
誠は手を引っ張り止めたのだが姉は好奇心が押さえきれず電車に乗り込んでしまい、そのまま行ってしまったのだった。
線路の先は岩で封鎖されたトンネルで、とても電車が走れる状態ではない。
だとすれば、あの電車は何処に向かって行ったのだろうか?
実は今でもわかっておらず、姉は行方不明のままで以降ずっと見つかっていない。
誠はその日の夢を今でも見て、たまにうなされては飛び起きる事がある。
(そういえばあの駅…昔事件があったっけ…)
封鎖される一年前に電車オタクが電車に飛び込む事件が発生していた。
理由は「好きな電車とひとつになりたかったから」だとか…
よくわからない事件だったが当時ネットではかなり盛り上がったのを覚えている。
それと同時期頃からだろうか、この市の住民で特に若い女性は何人も行方不明になっていた。
封鎖された理由は単に利用者が少なかったからなのだが、その後も行方不明者は出続けたのを誠は思い出した。
(まさか…あの不気味な列車は若い女性客だけを狙うのでしょうか…)
───次の日───
「部長、僕と一緒に例の廃駅に行ってくれませんか?
ひとつ確かめたい事がありまして」
「きゃーっ♪
なになに~?誠くん大人しそうな顔してる癖に、まさかのナンパァ?」
「違います、化け物が出るんです。
かなり信憑性のある情報で、運が良ければ本物が見れますよ?」
誠は姉がいなくなった廃駅に、部長を餌として利用することにした。
23時…
待ち合わせの場所で部長と二人で会った。
「きゃはっ☆
皆のアイドル、魔法少女オレンジ・キューティちゃん登場♪
って誠くん?誠くんなの?
どうしたの?その格好!」
こんな時間にオレンジのセーラー服のようなコスプレでステッキを持った部長も不審者に見えるのだが誠も負けてはいなかった。
「化け物は相手が女性でなければ現れません!
ならば私も、女装をして挑むのが筋というものでしょう!
さあ行きましょうか部長、例の駅に!」
姉のおさがりのセーラー服、そして長い黒髪のカツラを被り、誠は完全に女の子にしか見えなかった。
「誠くん可愛い~♪
ねぇ、今度からそれで学校通いなよ、きっとクラスの人気者になれるよ~?」
「なりません!
化け物をおびき寄せる為にしているだけです!」
そんな噛み合わない会話をしながら例の廃駅に到着した。
二人はベンチに座り本来であれば来るはずのない電車を待つ。
誠は1人でここに来たことは何度もあるが結局電車が現れた事は無かったのだ。
「いいですか?
ここからは身を引き締めて挑みましょう、我々が目にするのは本物の化け物なのですから」
「うい~、わかったわかった…
でもホントに現れるのかな?
もし現れなかったら明日部室でもその格好で過ごしてもらうからね?」
その直後だった。
今は夏の季節で風が吹いても生暖かいのが普通だが、何故か突然、背筋が凍りそうな冷たい風が吹き始めた。
そして…
「ガタンゴトン…」
線路が震え、何かがその上を走る気配を感じたのだ。
(まさか、本当に…)
しかし、途中封鎖されたトンネルがあるのでそれは有り得ない事だった。
「ブオオオオオ」
列車は音を鳴らし近付いてくる。
しばらくすれば、明らかに異常な黒い靄がかかった車両が見えた。
10両もある不気味な列車が線路の上を走りこちらへ向かってやって来るのだ。
「部長…本当に来ました…やはり僕の読み通り若い女の子の前にだけ現れるようです」
「確か、誠くんのお姉ちゃんを攫った電車なのよね?」
「ええ…十分に注意して挑みましょう」
誠達は化け物列車が廃駅に止まるのを待つ…
やがて最後の車両、つまり最後尾の車両が止まり…ドアが開くのだが、その車両の外見を見て一瞬言葉を失ってしまったのだ。
「肉の壁…でしょうか」
「ひっ……こわい…なにあれ…」
「部長、今更引き下がれませんよ?
カメラの用意を!ここまで来たらいっぱい記録に残し世間に公表してやりましょう!
この存在しないはずの化け物列車を徹底的に調べ上げるんです!」
車両の外側をよく見れば黒い煙を出し血も付いている。
その様子を見て二人は身震いするのだが、勇気を振り絞り足を踏み入れ最後尾の車両から乗り込んだ。