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サラチア王国物語集

オルゴールの謎

作者: 瑞條浩幹

 日が昇るとともに目が覚めたハル。レティはまだ熟睡中。

 いや、夜行性なので今寝たばかりなのかもしれない。

 レティを撫でながらそう考えていたハルは、自分の机に見知らぬ箱が置いてあるのを見つけた。

 近くで見てみるが、やはり昨日はなかったものだ。


 少し気味悪がったが、そういえば今日は自分の誕生日だということに気が付いて顔の筋肉が緩んだ。

(あ、でも前に祝ってもらったような…。)

 もしかすると別の人からなのかもしれない。

 ハルはそう思い込むことにした。そうでないと怖いから。


 ◎


「おっはよー!」

 オルゴール発見後、自室で野球観戦をしていたハルは、突然の来客に取り乱した。

「え!?…あ、クロスか。」

 入ってきたのはクロスだった。クロスはさっきまでハルが見ていた野球の様子を一目見た後、机に丁寧に置かれていた箱を見つけた。

「あ、それ…。」

 ハルが何かを言う前に、クロスは箱を開けた。

 途端に、音楽が流れ始めた。

「あ、これ、〇×△※□&%#!?!?」

 興奮しすぎてハルの呂律は回っていなかった。

「流石ハルだねぇ。オルゴールにこの曲選ぶ人なんかそうそうおらんで。」

 クロスはハルの前まで歩くと、オルゴールをハルの前に置いた。

 ハルはうっとりと眺めながら音楽鑑賞をし始めた。

 聞きながら、「でもこれ私が買ったんじゃないんやけどな…。」とつぶやいた。

 それを聞いたクロスは軽く笑うと、


「知ってるよ。」


 とつぶやき返した。

「え?」

 驚いてハルは顔を上げたが、そこにクロスの姿はもうなかった。

 ドアや窓が開いているわけでもなく。

 少し寒気がしたハルはオルゴールに集中することにした。


 ◎


 春ということもあり、昼になると少し暑くなってきた。

 窓を開けようと立ち上がった時、窓の外に広がる異様な光景を目の当たりにした。

「…昼なのに、空が黒い?」

 空だけでなく、見渡せるはずの城下町も暗くなって見えなくなっていた。

「なんで…?」

 暫く呆然と眺めていたが、後ろで誰かが自分のことをつついているのに気づいたハルは、恐る恐る後ろを向いた。

 つついていたのはレティだったのだが…後ろを向いたときに視界に写ったのは、いつもの部屋ではなかった。


 一面が黒、黒、黒。さっきまで座っていた白色の椅子でさえ純黒に染まっていた。

「何これ…。」

 口をあんぐりと開けていたハルは、無意識に手から炎を出し始めた。

 炎は周の壁を少しずつ焦がしていく。やがて壁が焦げていることに気が付いたハルは慌てて手を壁から離した。

「やってもーた。…あれ?」

 なおも付いている炎の明かりで、一部が色を取り戻していた。

 何が原因かわからなかったが、ハルは部屋を燃やさない程度の火力で辺りを照らし始めた。

 すると、照らされたところがもとに戻っていた。消すと、また黒色に戻る。

「あ…影か、これ!」


 黒色の正体が分かったハルは、同時に犯人も分かり胸をなでおろした。

 しかし、また別の疑問が湧いてきた。

(せやったら、何でこんなことを…?)

 しかし、移動していくうちに、ドアと思われるところに文字が書いてあることに気が付いた。

『ドアを開けて、先に進もう。道筋は床が教えてくれるよ。』

「え、すごい…。」

 迷った末、ドアを開けたハルはレティと共に外へ出た。

 廊下は、廊下自体は暗かったが、ハルから見て左の廊下の端だけ明るく照らされていた。

「これは…ルーチェ?凄いな~。」

 感心しながら進んでいく。何回か曲がったところで、外に出た。

「うお、眩し。」

 急に明るいところに出てきたので、思わず目をつぶってしまった。レティなんかは、ハルのドレスの中に引っ込んだほどだ。


 ハルが一歩進もうとすると、急に地面が盛り上がって、壁が出来た。

 進んでいくと、分かれ道が。

「どっちやー?」

 適当に進んでいくと、また分かれ道が出てきた。どうやら迷路になっているようだ。

「迷路か…。それやったらレティの番やで。」

 明るさに慣れてきたレティは頷くと、空に飛んでいった。そして、すぐに降りてきた。

 しかし…

「あ、分からんかったんか。」

 分からずに戻ってきたようだった。

 ハルも予想はしていたのか、あまり残念がらなかった。

「でもどうしようかな。迷路とか紙でしかやったことがない…。」



 すると、急に風が吹いてきて髪がなびいた。

 暫くいろんな方向から吹いてきていたが、やがて止んだ。

「なんやったんや、今の。」

 下を見ると、川が出来ていた。

「はあ!?!?」

 しかも、かなり深めな。

 ハルは呆れながらも、川が流れていく方向へと進んでいった。

 歩きながら、さっきの風や隣の川について考えていたが、レティが川に流されているのをみて、思考を止めた。

 溺れているわけでもなく流水プールのような感じのようなので、引き上げずに微笑ましく眺めながら、またゆっくりと歩き始めた。

 もはや誰がこんなことをしたのかなんて考えていなかった。こんな大掛かりなことをやってのけるのは5人しか知らない。そんなことより、こんなことをして怒られないのか…ハルはそのことばかりを考えていた。

(まあいいや、今日は誕生日なんだし考えるのはやめよう。)

 結論に至ったとき、道が開いた。


 そこは、馬車置き場だった。

 ハルがポカンとしていると、急にクラッカーの音と共に例の5人…ソラ、ウィンディ、ルーチェ、レス、そしてクロスが飛び出してきた。

「うお!…やっぱそうやったか!」

「まーね。」

 クロスが言うと、近くにいたダーネスが大きめの箱を持ってきた。

「これは?」

「プレゼント。オルゴールだけじゃあ素っ気ないでしょ?」

 中身はトラのぬいぐるみだった。服は黄色と黒が基調だ。

「あ、ありがとう…。」

 ハルが目をキラキラさせながら言うと、ウィンディが笑いながら飛び始めた。

「それとオルゴールな、ソラがネット駆使して買ってんてさ。」

「正確には取引した、やな。」

 ソラによると、どうやらクロスが開発した超小型通信機と交換したそうだ。

「え、マジか!」

「一応うちら専用の分も作ってくれたで。」

 そういって渡されたのは炎マークのバッチ型通信機。火属性だからだそう。

「デザインはルーチェやで。」

 どうやら通信機にもあの音楽を仕込んでいたようで、横のボタンを押すと流れ始めた。

「神かよ…。」

「ホンマの神様に失礼や!」

 クロスは突っ込みつつもまんざらでないといった様子。

 それを見たウィンディが笑いだすと、一斉にみんなで笑い始めた。


 ~おまけ~

「そういや、こんな大掛かりなことしてええん?」

 後ろにある巨大迷路を見ながらハルは言った。

「ああ、それなら…」とルーチェは一枚の紙をハルに見せた。

 そこには、『本日、4月19日に限り城内で何をしてもいい。』の文と国王直筆のサインが書かれていた。

「え、わざわざ?」

「そ!」

 5人は同時にグッドサインを出した。

「いや、んな大掛かりな事せんでも…。」

 半ば呆れ気味のハルは頬を掻いた。


 ~おまけその2~

「あと、何でサプライズ?前にしてもらったはずやねんけど…。」

「それはさ、ルーチェには私が一回やってみんなで2回目やったやろ?けどハルには1回しかやってへんから何だかなーてなって、はじめは私だけでやろうと思っててんけどな…。」

「姉様が姉様らしいサプライズをしようとしてたからみんなで協力してん。」

 クロスが肩をすくめて、軽くため息をついた。

「協力というよりは、強制やけどな。」

「ちなみに何しようとしてたか知りたくない?」

 レスがニコニコしながら聞いてきた。

「え、あ、まあ…。大体想像はつくけど。」

 ハルがそう言うと、ウィンディが「ちっちっち…」と指を振った。

「クロスったらハルを時間制限付きであの世に連れ込もうとしててんで?」

「想像の45°上を行かれたわ。」

 ハルは心底呆れた。クロスらしいと言えばクロスらしいけど、と。

「だって、向こうにいるシェルから誘われてんもん、『今度遊びに来ない?』って!」

 クロスが言い訳を言うと、ハルは更に呆れてツッコミを入れた。

「いや、何であの世に友達おんねん。」

「死霊召喚したら来た第一号やねん。ちなみに呼ぼうと思ったら呼べるで、今。」

 そういったとたん、クロスの背後に巨大な魔法陣が現れ始めた。

「「やめろぉぉぉぉ!!!!」」

 相変わらずのクロスであった。

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