異世界で初めてのPVP
「フレア・ガンド」
塵芥は短く魔言を唱える。別に無詠唱でも魔力放出は出来るけど、現象の形状固定には詠唱が便利なんだわ。そら、分厚い鎧ごと蒸し焼きだ。
「ぐうう!?」
大剣使いが膝をつく。護衛がそこに斬りかかり、とどめを刺した。いいねえ。動揺した長槍のモヤシ2名も相次いで護衛組に切り裂かれ、倒れ伏す。
双剣のおっさんが怒鳴る。
「ミドロ!どうなっている!」
魔法使いのおっさんが怒鳴り返す。
「グラン!奇襲されてる!撤退するぞ!」
グランと呼ばれた双剣使いは切り結んでいた護衛を弾き飛ばし、森へ走る。ミドロと呼ばれた魔法使いもそれに続く。逃がすかよ。
「ダーク・ネビュラ」
黒炎の蛇が走る。
双剣で黒い蛇を斬り払いながらグランが怒鳴る。
「何だこの不気味な魔法は……!?」
魔法で相殺しながらミドロが怒鳴る。
「このようなおぞましい色の炎魔法など聞いた事がない……どんな邪神を崇めれば具現化に至るというのだ!!」
「おぞましいだと?黒くて躍動的で美しいだろうが。それと、俺が信じているのは俺自身だけだ。あの神めは確かに俺にとって邪神だよ。沢山の呪いを受けた。偉そうに暴言ばかり吐くのも好かん。いずれ取って食らってやるさ。だれが崇める事などするものかよ。くく……!」
塵芥は嗤った。
グランとミドロが異口同音に声を荒らげる。
「「何者だッ!!」」
「俺はただの塵芥。塵芥魅斗よ。しがない小悪党さ」
なお嗤い、闇を吐き続ける。
「そら。足りないなら、おかわりだ。蛇肉は美味かろう?ダーク・ネビュラ!」
更なる黒炎の蛇がグランとミドロを襲う。
「ミドロ!転移石を使うぞ!」
「グラン!そうすると赤字だが、仕方ないよな!」
蛇が着弾すると、黒炎が立ち上った。
双剣使いと魔法使いは跡形もなく消し飛んだ……のだろうか。いや、転移がどうとか言ってたし、逃走用の魔法か道具でもあったのか。
まあ、この場はひとまず、
「我々の勝利だ。助太刀の報酬はこいつの大剣でいいや。次からはもっと良い護衛を雇いなよ。それじゃああばよ、お耳の長いお姫様」
「いや、色々と待ってくれ」
そこには頭を抱えたエルフがいた。明らかに王族でーす貴族でーすと言った風の、なんつーか格調高いドレスアーマーに、なんつーか彫刻まみれのレイピアと額当て。額当ての中央には翠色の宝石。ただの金持ちならいざ知らずで、大袈裟に恩を着せて大金をぶんどってやろうと思ったんだがな。まさかの御上よ。逃げるに限るぜ。わざと腕に切り傷まで付けておいたのだが、まったくとんだ無駄足だったぜ。
「まずは助けてくれてありがとう。大剣は好きにしていい、そなたの戦利品だ。それで先ほどの不気味な魔法は何だ」
「語る気はねえよ。つーか俺はアレが普通の火魔法だと思ってたぞ。異端で悪かったな。それじゃあ、さらばだ」
去ろうとする魅斗、しかし。
「いやいや待て待て、ちゃんと礼をさせろ。見ての通り貴族だ。さすがに面子というものがある」
「王族ではないのか」
「護衛が半壊している。出来たらそなたを王都まで護衛として雇わせて頂きたいのだ。頼む、報酬は望む額を用意する」
「必死か。聞いちゃいないな」
「頼む」
「断ったら?」
「頼む!」
「はあ。分かったよ」
「それで良い……ふう、首の皮一枚繋がったか。すまないな」
チッ
「それで良いは腹立つな。その首の皮、切り刻んでやろうか?」
「すまない」
どうも世界は塵芥の思い通りにならないらしい。
まったく、面倒な奴に目を付けられたものだ。
しばらくは盗賊稼業は控えめにしよう。
……まあ。これでこそ罪の蜜は熟し、甘く美味になるのだが。