勇者
黒髪の少年がゴルボスの前に出る。
「ゴルボス隊長ォォォ!」
「コウタ!?撤退だと言ったはずだ!」
「俺はもう!誰も死なせないッッ!」
「お前は……!」
黒髪の少女がミリーナの前に出る。
「ミーちゃーーーん!」
「カナミにゃん!?指揮を任せたはずにゃ!」
「あーそれな!別の副隊長に引き継いだわー!」
「うにゃぁーー!?」
コウタが魔法を唱える。
「望む未来を切り開く!【ルーンバースト・我が蒼雷の矛は最強なり】」
カナミが魔法を唱える。
「チートパワー、見せたげる……!うっひょう☆アタシTUEEE!!【偉大なる主よ・純白の吐息にて裁きを降せ】」
蒼い雷が。白い光の奔流が。ネビュラの黒炎とぶつかる。世界は白と黒に分かたれた。
「ぐるぁぁぁぁぁぁァァァ!!フフハハハハハハハハハハ!!焦げよ!熔けよ!!我が火炎に呑めぬものなしィィひはははははは!!」
それは塵芥であった。初めて悪に手を染めたのはいつだったろう。もう、覚えていなイ。
それは魅斗だった。魅斗だったナニカだ。今は火炎の化身だ。どうしてこんな風になってしまったんだろう。いつからこんな風になってしまったんだっけ。もう、ワカラナイ。
黒炎の塊は、五つの竜の首から、様々な音程の入り交じった不気味な声を出し、その感情を現した。
「はは。ハハハハハハ。楽しイ。楽シイな。愉悦だ。歓喜だ!これぞ!コれゾッ!幾多の地獄を歩みながら、俺が求めていた真の俺ェ!さあ、今から全てを始めよう。俺は生まれ変わったんだ。ははハハハ!俺の時代だァァァ!!【イーヴィル・ネビュラ】」
ネビュラの火炎がコウタの雷を押す。
「くぅぅ……押されッッ!!」
ネビュラの火炎がカナミの光を押す。
「少しはやるようやなッッ……負けへんけど……!!」
拮抗、否、劣勢……否。
「コウタ、根性見せます!【大招来・雷竜姫メゼリア】……がはっ!大技の硬直時間酔い辛ぇ……メゼリア、頼むよ!」
「るるるぅーきゅー」
竜翼の生えたゴスロリが現れ手をかざすと、凄まじい雷が黒炎をかなり押し返した。
「……ミリーナ。ここは下手に加勢するよりも、魅斗に呼び掛けるぞ!」
「もちにゃ!魅斗にゃんを元に戻さなきゃにゃ!」
「おら魅斗ォォォ!目ェ覚ませやー!」
「魅斗にゃーん!また一緒にお酒飲むにゃー!」
…………。
説得はコウタ達のMPが底をつきかけるまで続いた。そしてついに、雷と炎と光が弾けるーー。