開幕ゴブリン。お前がモブなら死ぬがよい
どうせならチートが欲しかったなー。徳積んどきゃよかったなー。ま、俺にゃ無理か。
【ゴブリンAが現れた】
はぁ?何か聞こえたんだけど。
【ゴブリンAの先制攻撃!スキル〈毒吹き矢〉発動!】
ぐさり。塵芥は目を貫かれた。吹き矢は脳まで貫通し、毒が回るまでもなく死亡した。
「……痛ぇじゃねぇか。死ね」
塵芥は石を拾って頭を殴りつけた。
ゴブリンは血塗れになって死んだ。
魔法を使うまでもない。
…………。
ヒトガタの生き物を直に殺す事は、やはり何度やっても慣れはしない。慣れたと言う奴は大抵、狂人だ。背徳感と罪悪感に狂った情緒不安定な奴の妄言に過ぎない。
遠隔爆殺なら幾分ラクだし、魅斗の殺してきた10万5263人も9割がたは爆殺だ。魅斗に言わせれば、誰がてめーで刺し殺したり殴り殺した死体の血なんぞ好き好んで見るものかよ。それに死体処理はZ班の仕事なのだ。連中に任せておけばいい。
との事である。
Z班。あいつらは懲役刑期中に“家畜のと殺“や精肉をしていた連中だ。“肉“の処理自体になれているし、人殺しはやらないから死体を見ても比較的発狂しない方。だが発狂する奴は発狂する。
発狂しないコツは、たった今殺した奴の顔を二度と見ない事。辞世の句を言わせねえ事。相手の事前調査はほどほどにする事。それと、確実にとどめを刺して、間違ってもゾンビみてえに立ち上がらせねぇ事だ。さもなきゃ悪夢に出るぜ。
「まあ、こんな世界だ。ゴブリンくらいは慣れておいた方がよいだろうな……」
塵芥魅斗、初めて殺したゴブリンの戦利品を漁る。手に入ったものは、銅貨3枚と、汚いボロきれが1枚。それと塵芥を殺した小さな毒吹き矢だ。残弾3発か。まあ有効に使うとしよう。
塵芥は敢えて死体の顔を見る。不細工な骨格、ぶよぶよでしわしわの緑の皮。闇色の眼球。人間のそれよりも幾分黒めの、しかし赤い血。殴った部位からは桃色の肉が見える。
「おぞましい……しかし、この皮。地球の獣の毛皮より頑丈ではあるかもしれん。肉は臭いが、焼けば食えそうだし。眼は知らなければ宝石に見えなくもない。血は要らんな。資源の宝庫だ」
そう、魔物の素材は金になる。だがやはり、すぐには剥ぎ取る気がしない。慣れたくはない感触だ。塵芥を立ち上がると、死体を焼き、立ち去ったのだった。