レッツら買い出し
さて、俺は盗賊だ。金がないなら盗めばいいが本性であり、仕事をするのは疑われないためであり、いざと言うときに頼れる味方を作るためだ。買い出ししたいものは、解毒ポーションとHP回復ポーションを持てるだけ。痛みが倍だからな。傷を負ったまま行軍は出来まい。かと言って鎧など買えば「無一文ではなかったのか」と言われてしまう。故に消耗品を隠し持てるだけ隠し持つ。
ギルドで倒したゴロツキどもの金は飯と風呂に消えた。その日の稼ぎをその日の内に使うか、つけ払いの返済にでもあてているのだろう。貧乏な奴らめ。
適当に街中を物色し、張り込みスリを開始する。ふふん。ふん、ふん。カモはどこかにゃーっと。お、身なりのいいあんちゃんから2000Gゲット。デート中かな?鼻の下伸びすぎ。油断大敵だぜ。これならエメラ亭でもう一食(1500G~3000G)いけるな。HPポーション(2800G~10000G)はギリギリ買えない。見て回った限り、ポーションは質によって値段がピンキリだった。4000G級以上のものを最低3つは持たないとね。ちなみにエメラ亭の風呂の利用料は500G。もう少し稼がないとね。
買い物中のご婦人からも頂き。チーン!3500Gなりー。やッはッはッは!この町、日本並みに平和ボケしてねえか?スリ放題じゃねーか!
っと、そこまで甘くないか。衛兵が2名、つけて来ている。路地裏にご招待して対面と行くか。
「止まれ。貴様盗人だな」
「衛兵の目を誤魔化せると思ったか?俺達は監視用の魔法を必修としているんだぜ」
塵芥は嗤った。
「へえ、勉強しないと使えない技術なのか。可哀想に。さぞ学歴が高いのだろうね」
塵芥は続けて嗤う。
「お給料もいいに違いない。そら。暖かい懐の熱源、ぶちまけてくれよ」
「貴様ァ!」
「こんな真性の下衆が街に入り込むとはな」
抜剣する2名の衛兵。
「へえ。2人とも剣ね。じゃあプロテクションやらレジストやらの防御魔法は使えないと見ていいのかな。【ダーク・ネビュラ】」
黒い炎がチロチロとうねる。以前まで蛇と形容していたそれは、改良を加えられ、巨大なタコのような姿になっていた。
「メリーゴーランドって知ってる?」
塵芥は回転しながら黒炎の触手を凪ぎ、問う気すらない問いを投げる。
衛兵達は剣で迎え討つが、実体なき炎の触手は切った直後に再生している。やがて片方の衛兵が膝をつく。
「おいザック!ザック!!しっかりしろ!」
ザックと呼ばれた衛兵は立ち上がらない。
「ジオ……ス。しゃがめ……。しゃがめば当たらしないみたいだ。もうダメかと……思ったが…….」
言われてザックはしゃがんでみる。本当だ、当たらない。
「くはは。見事。よくぞメリーゴーランドを破った。そうだよしゃがめば良いんだよ。這いつくばって、お前らの銭袋を投げて寄越せ。そしたら殺さないでおいてやるし、目的の金額が集まればしばらくは盗人活動をやめてやる。お前らのお小遣いで足りれば全て丸く収まるぜ」
「……分かった提案を……飲むよ。ジオスも」
「おいザック!こんな奴を野放しにする気か!?」
交渉受諾1名、決裂1名と。なるほど。
「では、ジオスとやらは死ねい」
水平に回転していた8本の炎の触手が軌道を変え、全てジオスに殺到した。綺麗な8コンボが決まり、ジオスは塵も残さず消し飛んだ。あーあ。銭袋も燃やしちゃったか。
「これで足りるか?」
衛兵のザックが銭袋を投げて寄越すので、開けてみる。金貨がひーふーみーの3枚。30000G。大銀貨がひーふーの2枚。2000G。小銀貨と銅貨もざっくざく。ザックさんあざっす。くけけけけ!
「【サンダー・レイ】油断大敵だ」
雷の魔法がザックから放たれる。いかん、意識が飛ぶ。食いしばれ。食いしばれ!
「あばばばばばば死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぐへへへへへ」
「ジオスの仇だ。そのまま死ね、悪党」
ずばん。正義の剣が駆け抜ける。
塵芥は崩れ落ちた。
痛い。