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タロット絵師の物語帳  作者: 九JACK
タロット絵師の商い処
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タロット絵師に寄り添いたい

 時は少し遡ります。

 ツェフェリとサファリが出ていったミニョンで、二人の姿が見えなくなると、レイファは右腕をフルスイング。サルジェの左頬に真っ赤なもみじを作りました。

「馬鹿! あんたね、ああいうときはちゃんと女の子のことエスコートしなさい!」

 確かに、サルジェは先程の行動を反省しています。ツェフェリに好意を寄せているのに、ツェフェリが他の男に連れて行かれるのを黙ってみているだなんて、男として風上に置けないと言われても仕方ありません。

 ツェフェリの前でこそレイファは耐えてくれましたが、ツェフェリがいなくなったのをいいことに、ぽかすかぽかすかとサルジェを叩きまくるレイファ。

 レイファとしてはサルジェがツェフェリに想いを寄せていることは丸わかりなので、とっととくっつけ! と暴れ回りたい次第なのです。

 レイファとサルジェは父親違いの姉弟です。その関係を疎んだことはありました。けれど、レイファは実際の弟を見て、哀れに思ったのです。サルジェという自分の弟は母親を貶めたクズ地主の言いなりだったのですから。幼いレイファはサルジェの存在に怒ったことがありましたが、父に諭され気づきます。レイファはサルジェが憎くて怒っているわけではなかったのです。

 レイファが幼かったように、当時のサルジェも幼い子どもでした。子どもは親の教えを受けて育ちます。幼いサルジェの傍にはあのろくでもない地主しかおらず、他に生き方を知らなかったのです。それはどうしようもなく、悲しいことでした。

 けれど、サルジェはハクアと出会うことで、父親に植え付けられた常識を蹴破ります。あそこから自力で脱出したサルジェのことを、大したやつだとレイファは自慢に思いました。自分の弟は強いのです。

 だというのに、今のサルジェと来たら! 自己肯定感が低いわ、ツェフェリへのアプローチが奥手だわ、と情けないったらありゃしない。レイファはそう憤慨していたのです。サルジェはやればできると知っているからこそ、もどかしく思ってしまうのです。

 サルジェは言い訳をしませんでした。自分が意気地のないことなんて、わかりきっていましたから。

「レイファ、あのさ」

 サルジェは訥々と告げます。

「俺はかっこよくないし、かっこよくできないよ。でも、ツェフェリの一番になりたい。だから、俺なりに色々考えてるんだ」

「色々って何よ?」

「告白とか」

「ふーん、告白ね。いいじゃない。こくは──告白!?」

 レイファは目を剥きました。サルジェを二度見します。なんとこの男、照れの一つもなく、とんでもないことを言ってのけたのです。

 今まで「甲斐性なし」の謗りにさえ一言も言い返して来なかった、奥手中の奥手、サルジェが、自らツェフェリに告白すると。

「ツェフェリと一緒に暮らせて、順風満帆ではあるけど、そこに胡座をかいてちゃいけないなって思って」

「あんたにしては思い切ったことを決断するじゃない。何かきっかけでもあったの?」

 きっかけ、と聞かれて、サルジェは遠い目をします。愚痴になるから言いませんが、ハクア不在のときの街への襲撃者は様々いますが、その中でもハクアに恋慕を抱く連中がとんでもなく面倒くさいのです。

 何度追い払っても懲りずにやってきますし、サルジェはハクアの弟子であり、恋仲にはこれまでもこれからもなることはないとはっきり告げているのですが、サルジェへの妬み嫉みがものすごく、精神的疲弊を余儀なくされます。

 ただ、その粘着質な輩は、毎度ハクアの不在時にばかりやってくるので、ハクアにどうにかしてもらうことはできません。サルジェはさすがにイライライライラしていました。

 そして先日、遂に言ってやったのです。

「本人がいないところでうじうじするなよ意気地なし! そんなに好きなら本人に面と向かって玉砕の一つでもしてみろ!!」

 まあ、そのときのサルジェを見たら、レイファのみならず、街の者皆、果てにはハクアまでもが驚いたことでしょう。それくらいサルジェは怒ったのです。

 すると、そいつはわなわなと震える手でサルジェを指差し、こう返してきました。

「そういうのはお前も意中の子に告白してから言うんだよ! 自分のことは棚上げのへっぴり腰の情けない狩人め! 狩人名乗るなら好きな女くらいちゃんと仕留めろってんだ!!」

 このときサルジェはまくし立てられ、しかもどさくさで逃げられ、ぽかんとしていましたが、まあ奴の言うことにも一理あります。誰が上手いこと言えと、とは思いましたし、仕留めるという表現は好ましくありませんでしたが、サルジェは想いを寄せる相手、ツェフェリについて一考したのです。

 もうツェフェリ以外の全員にバレバレなくらいに、サルジェはツェフェリに好意を持っています。サルジェはツェフェリと小屋でそれなりに長い期間共に過ごし、ハクアの屋敷にツェフェリが引っ越してきてからも同じ時間を過ごしてきました。ツェフェリが料理を美味しいと言ってくれるだけでサルジェは幸せでしたし、ツェフェリがツェフェリの好きなことをして、毎日楽しそうに過ごしているのを眺めるのは至福の時です。

 ただ、それを眺めているだけでいいのか、という疑問が湧きました。勿論、眺めているだけでもサルジェは幸せです。ツェフェリが好きですから。けれど……いつまでもツェフェリと一緒にいられる保証なんて、どこにもないと気づいたのです。

 サルジェはハクアの弟子であることもあり、将来的にこの街の領主という椅子に座らなければならなくなるでしょう。サルジェもそれに否やはありません。ですが、ツェフェリは違います。ツェフェリが願うのなら、この街を出て、広い世界を知るために旅をしたっていいのです。ずっとこの街にいる義務も、ずっとサルジェの傍にいる義理もないのです。

 ツェフェリが自由なのは、ツェフェリにとって幸いかもしれません。けれど、ここで浮上した「ツェフェリと離れ離れになる可能性」にサルジェは耐え難いものを感じました。

 ずっとツェフェリに傍にいてほしい、ずっとツェフェリの傍にいたい。……そう思うなら、狼藉者からの指摘とはいえ、意中の子に告白の一つもしてみるべきだと、サルジェは考えたのです。

「それで、レイファに相談したいことがあるんだ」

 それはツェフェリに贈るための大切な言葉に添える素敵なものを見繕う相談でした。

 ミニョンでその装飾品を買い、ランドラルフの診療所に行ったサルジェはそこでサファリがツェフェリと一緒に旅に出ようと提案するのを耳にしたのです。

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