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タロット絵師の物語帳  作者: 九JACK
タロット絵師の占い処
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タロット絵師の占い勝負

 どうやら、[魔術師(マジシャン)]は他のカードに比べると、サルジェと波長が合うようで、サルジェと話すことができました。サルジェはこの現象に驚いていましたが、まあ、当然の反応と言えるでしょう。

「……なるほどね。君たちも難儀だね。承ったよ」

「ありがとうございます、サルジェ殿」

「ま、あとは師匠次第だけどね。乗ってくれるかなぁ」

 サルジェとの間でツェフェリとハクアの占い勝負の手筈が進み、とうとう、その日を迎えることとなりました。


 からんからん。

 店の扉の鈴が鳴ります。ツェフェリはいよいよか、と思って気合いを入れますが……

「なんだ、サルジェか」

「なんだとはなんだ、なんだとは」

 もはやお決まりのやりとりをし、気を緩めたツェフェリですが、サルジェがこちらです、と声をかけ、中に入ってきた人物にはっと息を飲みます。

 紫水晶のような長い髪を高い位置で一括りにした長身の女性。容姿は端麗で髪と同じ色の目はこの世の全てを見透かしてしまうのではないか、と思えるほどの力を宿しています。こんな鮮烈な印象の人物、過去に会っていたなら、忘れるはずがありません。

「ハクアさま……!」

「おお、サルジェがやたらと推すから誰かと思えば。久しいですね、[虹の子]殿」

 そう、サルジェの師匠だというこの人物にツェフェリは以前会ったことがあるのです。名前もしっかり覚えています。あの村にいた頃、移動図書館で本を見繕ってもらったことはそれなりに前の出来事のはずですが、ハクアの容姿と雰囲気の強さのため、まるで昨日のことのように思い出せます。

 あのときはあんな辺境の村に馬車で来るなんてよほど富のある人なのだなぁ、と思っていましたが、まさか地主さまだったとは。地主なら、馬車の一つも調達できて当然というものです。

 そんな二人の間で二人以上に驚いていたのはサルジェでした。まさか二人に面識があるとは思っていなかったのです。

「え、二人共知り合いだったんですか?」

「まあ、会ったことはあるという程度だな。まさか[虹の子]にここで再会するとは」

 昔、移動図書館に本を借りに行ったときに会った、と二人はサルジェに説明しました。

 サルジェはその頃はまだ子どもでしたので、ハクアの屋敷で家事などをしていましたが、外出に同行することはなかったので知りませんでした。

 それはさておき。

「ふむ、なるほどな。あのときも特別なものを感じたが……気のせいではなかったか」

「アナタも、ボクが[虹の子]だとか[神の子]だとか言うんですか?」

 ツェフェリの面持ちが険しくなります。その呼び名たちをツェフェリは気にいっていないどころか、嫌ってすらいるのですから無理もないでしょう。

 そんな警戒心剥き出しのツェフェリにハクアは微笑みます。素直なまま育ったのなら嬉しいとのこと。そんなハクアの言葉にツェフェリは目を丸くします。

「私が言っている特別なものというのは、占い師の勘に訴えかけてきたものだ。[虹の子]や[神の子]など関係ないよ」

 その言葉にツェフェリは当然驚きますが、サルジェも驚きました。ハクアは地主であるため偉そうにする、というわけではありませんが、心の底から他人を認めたり、尊敬したりというのは珍しいことなのです。

 ハクアは何の肩書きもない[ツェフェリ]という一個人のことを認めている、そういうことでした。でもなければ、[特別]だのという言葉をかけることなどありません。

「弟子曰く、腕前はなかなかだと聞いている」

「は、はあ……」

 そう、サルジェはハクアの気を引くために、タロット占いの腕がそこそこある、とツェフェリのことを説明していました。実際、あながち間違っていないので、嘘ではありません。ツェフェリは畏れ多いと思っているようですが。

「あの、その、えと……」

 ハクアは占い師としても高名、という話は事前にしてありましたから、ツェフェリはどう接するのが正しいのかわからないようです。いきなり自分が作ったタロットを売りつけるのもどうかと思います。

 けれど、腕前のある占い師に引き取ってもらえるなら、これはチャンスでもあります。高名な占い師が愛用していると知れれば、ツェフェリのタロットが売り物としての価値を得るのです。

「ツェフェリ、ほら、タロット見せてみてよ」

「は、はい」

 緊張のあまり、サルジェにまで敬語になる始末。サルジェはちょっと大丈夫だろうか、と心配になりました。

 ツェフェリが出したタロットを見て、ハクアはほう、と目を細めます。その紫紺の瞳には、ツェフェリのタロットは一体どのように映っているのでしょうか。ツェフェリもサルジェも思わず息を飲みます。ツェフェリはその目に不安と期待の入り混じった鶯色の目を宿して。

 サルジェは切り出すタイミングを見計らっていました。[魔術師(マジシャン)]に提案された[作戦]を実行しようと思っていたのです。

 作戦──それは、ハクアとツェフェリにタロットで占い勝負をさせようというもの。ツェフェリのこの先を決めるために。

 ツェフェリが出したタロットをハクアは値踏みするように眺めます。サルジェはハクアのこの目が苦手です。何事も全て見透かすような目……

「ふむ、これを私に売りたいと?」

「ふえっ?」

「まあ、そういうことだよね、ツェフェリ?」

 ツェフェリの頭からは当初の目的なぞ吹っ飛んでいたのでしょう。すっとんきょうな声を出します。そんな反応にハクアがくつくつと笑いました。サルジェはこの笑い方も苦手です。この次に発される言葉が、妙に物事の核心を突いているのですから。

「実にいいアルカナたちだ」

「本当ですか!?」

「ああ。作り手である君は、アルカナたちに非常に愛されているようだな」

 それは、声が聞こえるほどに、ツェフェリも承知しています。

 鶯色の目が期待に胸が膨らんでか、若干明るい草色に変わっていきます。そんな素直な反応に、ハクアはうっすら笑いました。

「だが、こんなに主を愛しているアルカナたちを君から引き離すのは偲びない」

「え、それでは……」

「勝負をしよう」

「へっ」

 サルジェは頭を抱えました。これだからサルジェはこの人が苦手なのです。

 本当に、()()()()()()()()()()()()のですから。

「君はタロット絵師であると同時に占い師でもあるのだろう? では、自らの行く末を、()()()()()()()()()()()()()、決めるというのは真っ当だと思うが」

 きっと、サルジェとアルカナたちの目論見もお見通しなのでしょう。

「勝敗はこうだ。[よりアルカナに応えてもらえた方の勝ち]。まあ、ざっくり言えば、的確な解釈(リーディング)、滅茶苦茶ではない結果が出た方、ということになる。私が勝てば、喜んでこのアルカナを買い取ろう」

「えっと、じゃあ、ボクが勝ったら……」

「残念だが、アルカナは君を選んだということになる。私は諦めねばなるまいな。ただし」

 ハクアはその流麗な顔をツェフェリにずい、と寄せました。ツェフェリは驚いて、目を混乱の混じった紅に染めます。

「中途半端な気持ちでやってはいけない。それはアルカナにも失礼だし、勝負である以上、相手にも礼を欠く行為だ」

「は、はい、わかりました」

 ツェフェリが負ける……ということはあのタロットたちの性質上あり得ないだろうが……ハクアはどこまで見抜いているのでしょうか。

 底の知れない紫水晶が、サルジェには恐ろしくて恐ろしくてたまりません。

 けれど、それがツェフェリを変えてくれると……()()()()()、サルジェは信じるのです。

「でも、何を占いましょうか?」

「それはもちろん、ツェフェリの今後についてだよ」

 サルジェがここで口を挟みます。ハクアにばかりいいところを持っていかれるわけにはいきません。そもそも、ツェフェリとハクアが占い勝負をする流れはサルジェと[魔術師(マジシャン)]が考えていたものなのですから。

「ほう。お前が占いについて進言するのは珍しいな? サルジェよ」

「俺の大切な友人の将来を決めるんですから、半端なことをやられても俺だって困ります」

「大切な友人、な」

 ぐぬ、とサルジェは唸りました。どうやらこの微かな恋心までをもハクアは見抜いているようです。黙ってくれていますが。

 これだから本当にこの人は苦手なのです。けれど、ここまで言い切って、引き下がるのは男じゃありません。

「[ツェフェリの夢が叶うか]について占えばいいのでは? そうすれば、譬、師匠が負けたとしても、ツェフェリがどのような道を辿ればいいのかわかります」

「ほう、生意気にも私が負けると?」

「例えばです、例えば!!」

 あからさまに機嫌を悪くした顔でハクアが頬をつねってきたので、サルジェは必死に抵抗します。なかなか痛いのです。

 一方ツェフェリは、サルジェって意外と命知らずなことを言うのだな、と思いながら、タロットの準備をしました。

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